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長谷部浩
2021年6月20日 17:08
博多へと旅立つ 六月博多座大歌舞伎、緊急事態宣言下の博多を訪ねた。 飛行機を予約するときから、現在が「緊急事態」であると知れた。羽田、福岡は、幹線だと思うが、大半の便がのきなみ欠航となっている。そのため、登場した便は、空席などなく、満員御礼の三密状態で、航空会社が極限まで追い詰められているとわかった。 ホテルにつくと、カフエテリア以外のすべてのレストランが閉鎖されている。オールデイと名の
2021年6月12日 19:02
2021年5月13日 13:19
記憶に残る伝説の舞台が生まれるには、なんらかの必然が働いている。 五月大歌舞伎は、三日に初日を開ける予定だったが、緊急事態宣言下にあったために、開幕が遅れた。宣言そのものは延長になったが、僥倖に恵まれ、また、関係者の懸命な努力があって、条件付きではあるものの、十二日から、公演が行われると決定した。 例年五月の大歌舞伎は、團菊祭が行われてきた。 今回は、その看板を掲げてはいないが、第三部
2021年4月15日 12:40
歌舞伎座から五月大歌舞伎の案内が届く。長年、「團菊祭」が行われていた月だけれど、今年は菊五郎劇団と吉右衛門中心の一座が、合同公演を行っている。そんな印象の役者が揃っている。 一方、海老蔵はどこに行ってしまったのか、気になる。調べてみると、明治座に立て籠もって無人の一座で、二日だけの興行が予定されている。実盛物語とKABUKUと題した新作歌舞伎舞踊を見せるのだという。 長く続いた團菊祭がこ
2021年4月8日 00:25
大阪では、医療が緊迫している。東京も明日はどうなるか、わからない。 ロンドンやニューヨークの大劇場が、閉鎖を強いられているなかで、日本はかろうじて綱渡りのような公演を続けてきた。 感染者数や死者が、加速度的な上昇にまで至らなかったこともある。また、GO TO TRAVELや五輪との整合性を取るために、移動や大規模公演を認めざるを得なかった政府の方針もあるのだろう。 けれども、第四波が
2021年4月5日 19:57
「太十」と書いて、タイジュウと読む。 はじめ人間浄瑠璃として上演されたとき、『絵本太功記』の十段目「尼ヶ崎閑居の段』として上演されたところから、この俗称がついた。 ベートーベンでも「田園」「運命」「合唱付」などタイトルが付いている交響曲は、観客に愛される。 時代物の傑作で、歌舞伎の主立った役柄を網羅しているところから、「菊畑」「新薄雪物語」などと同様、何年かに一度は、上演していかなければ
2021年3月8日 20:22
緊急事態宣言下にはあるが、関係者の努力によって、芯のある芝居が観られるようになった。 今月の国立劇場は、歌舞伎名作入門と題した公演で、菊之助の『時今也桔梗旗揚(ときわいまききょうのはたあげ)』三幕がでた。多くは、「馬盥(ばだらい)」と「愛宕山」の場の上演だけれども、昭和五十八年、年吉右衛門が新橋演舞場で上演したとき、このふたつの場に先立つ「饗応」を復活した。 四世鶴屋南北の時代物として知
2021年2月28日 17:23
入試の季節は、受験生の必死な思いとぶつかりあうことになる。 もっとも、二○一五年の二月二十一日からは、この慌ただしい日々に、新たな感慨が加わった。この日、十代目坂東三津五郎が、五十九歳の若さで亡くなった。このときの衝撃は、私にとって大きな意味を持つ。 先立つ三年前、三津五郎は盟友だった十八代目中村勘三郎を一二年十二月五日に亡くしている。このときの嘆きは、築地本願寺の本葬で、三津五郎が読んだ
2021年2月22日 18:33
三月の国立劇場は、『時今也桔梗旗揚』で、四世南北の「明智光秀」を見せる。 昨年の三月は、菊之助が『義経千本桜』の三役、忠信、知盛、権太を演じる予定だった。コロナ渦のために急遽、中止となり、いち早く無観客配信されたのは記憶に新しい。 今年は、この『義経千本桜』に再挑戦するのかと思っていたが、『時今也桔梗旗揚』とは意表を突かれた。 近年の上演では、「馬盥」が中心となる。菊之助の演じる武智光秀が
2021年1月3日 19:15
いつものように正月が訪れる。初芝居に行く。繭玉を観る。それがどんなに貴重なことか。 菊五郎劇団の国立劇場、正月興行は、復活狂言を上演してきた。 長い間上演されなかった戯曲には、それなりの理由がある。脚本を整理し、演出をほどこす作業は、座頭である菊五郎の負担が大きい。 平成一八年の十一月だったろうか、『菊五郎の色気』(文春新書)を書くために、菊五郎の楽屋を訪れた。眼鏡をかけた菊五郎は、書見
2020年12月31日 23:42
遠投という言葉があります。手元にある球をできるだけ遠くに、見えないところへ届かせる。手には、投げたという記憶しか残らない。今年だけではなく、年末は、そんなことを考えます。 みなさん、きっとお忙しく、慌ただしく、お辛く、哀しみもある一年ではなかったかと推察いたします。 私も例外ではなく、3月には、コロナが深刻化すると同時期に父を見送りました。葬儀も簡素なもので、ごく近しい家族だけで行いま
2020年12月28日 22:58
2020年12月26日 16:59
年末なので、今年の回顧を書こうかと思ったのだが、例年とは事情が異なる。悲しい気持ちになるのは必定で、こうした人災のような事態を招いた政府への恨み節となるやもしれない。 そこで気分を変えて、正月の歌舞伎について書いてみる。 浅草公会堂での花形歌舞伎は、早々に中止が発表された。東京での公演は、歌舞伎座、新橋演舞場、国立劇場の三座となる。 まず、歌舞伎座から。なんといっても注目は、第二部。
2020年12月21日 23:12
伝承には、さまざまな形がある。 名だたる家に生まれた歌舞伎俳優にとっては、師匠であり、親でもある父との共演がまず、なにより先立つ。歌舞伎の配役は、なかなか一筋縄ではいかないが、一般に親は子を子役として使う。祖父の意見が大きく左右することもある。 次第に長じてくると、立役の親は、子を女形として、自分の相手役として使う。音羽屋菊五郎家も、このやりかたで、菊之助を育てた。つまりは、菊五郎