「200字の書評」(356) 2024.1.25
こんにちは。
庭の蝋梅が満開です。蝋細工の様なはかなげな花からほのかに香りが漂っています。元旦の朝に心細げに数輪開き始めているのを発見し、新年の訪れを寿ごうと思いました。それが一転したのは夕方でした。携帯がけたたましく警報音を発し、揺れ始めます。テレビでは能登半島を震源とした強烈な地震だと報じています。まだ、こんな深刻な被害になろうとは予測できませんでした。未だに被害の全容はつかめず、途方に暮れる住民の姿が胸をうちます。すでに4週間が経過しました。被災者への救援、生活インフラの復旧、暮らし再構築の目途どころか、避難施設のお粗末さ故に死者が出ています。悲しき先進国です。
さらに翌日は羽田空港での日航機と海保機の衝突事故。日航機の乗客乗員が全員脱出できたのは不幸中の幸いでした。天祐としか思えませんでした。もちろん乗員の適切な誘導と判断があってのことでしょうが。 不吉な幕開け、「凶」のおみくじを引いたような年になるのでしょうか。
さて、今回の書評は普段何気なく使っている言葉への考察です。言語明瞭意味不明な言葉が蔓延している今日、難しいけれど読むに値する本でした。
今井むつみ・秋田喜美「言語の本質」中公新書 2023年
赤ちゃんはどのようにして言葉を覚え、意志の疎通を図るのだろうか。自分自身いつの間にか言葉を覚えていた、子育て中も体系的な言語指導や会話を重ねた記憶はない。本書は擬音語・擬態語であるオノマトペの意味と役割から言葉の不思議に迫ろうとする。世界中の言語を渉猟し、それは言語理解の入り口であり、一定の規則性を持っているとする。母親との密接な触れ合い、家庭と社会の中で言葉を身につけ思考能力を養うのだろう。
<今週の本棚>
アニー・ジェイコブセン「エリア51 世界で最も有名な秘密基地の真実」太田出版 2012年
とかくUFOマニアには特別に響くのが、このエリア51です。宇宙人の遺体があるとか、アメリカ政府と宇宙人と密約があるとか、とにかく秘密が隠されているような雰囲気の基地である。隣接して核実験場があったり空軍基地があったりして、基地と言ってもその実態は隠されたまま。大戦終了後の米ソ対立を時代背景に、U2機をはじめ様々な実験が実施されていた。CIAと空軍が運用していたようだが、詳細は公表されていない。著者は関係者の証言を求めて東奔西走する。果たして解明されたのか、興味のある方は是非お読みください。
倉本聰「破れ星、燃えた」幻冬舎 2023年
あの富良野に腰を据えた脚本家倉本。春から夏にかけて素敵なパッチワークの高原、冬はスキーのメッカとなる富良野。でも観光地になる以前は交通の便の悪い、厳寒の開拓地であった。何故倉本はそこを選び、演劇塾さえ開いたのか。本書で明らかになる。テレビの劣化に警鐘を乱打する。テレビは「創」から「作」に堕している。知識と金で、前例に倣ってつくるのが「作」、金がなくとも新しい知恵で、前例にないものを生み出すのが「創」。教えられた。
岩波書店「世界」2024年1月号
表紙が一新された1月号。久しぶりにゆっくりと読んでみた。年に数回は買うのだが、読みごたえがありなかなかよみきれない。総合雑誌冬の時代に、発行し続けるのは岩波書店のプライドなのだろう。存続を願う。
【睦月雑感】
▼ 竜頭蛇尾、大山鳴動して鼠一匹と言う言葉が当てはまるのが今回の自民党裏金問題を捜査した検察のお粗末さです。今にも安倍派の有力者に司直の手が伸びるかのような情報をリークし、政治家の不正に憤る民心を煽ってみたものの、チンピラ議員と会計責任者としての秘書を刃にかけただけ。そこまでのようだ。弱者には冤罪も厭わない横暴さが検察。秋霜烈日の正義が聞いてあきれる。元特捜検事の郷原弁護士は当初から政治資金規正法の欠陥をあげ、この捜査の無理筋を指摘し国税と協力して脱税容疑での立件を目指すべきと指摘していた。期待感とは裏腹の幕引きになりそうだ。国民は主権者としての自覚のもとに、選挙で正義を実現するべきだと思う。特捜検察は決して正義の味方ではないことが白日の下に晒された一幕だった。キシダは派閥解散をぶち上げ、本筋を外して目くらましのような手を打っている。今はカネにまつわる不正を解明し、政治に公正さを実現すべき時だと思う。派閥は自民党の宿痾、いずれ何らかの形で息を吹き返すのだろう。
▼ 輪島市の中学生260余名が白山市に集団避難した。学校は避難所になり授業はできず、自宅も被災する中での緊急避難策としては已む負えないことであろう。浮かんだのは、東京大空襲を体験した母が語っていた、学童疎開のことであった。戦時中とは違うが、やはり何かつながる思いをしたのは私だけだろうか。母は生前「○○ちゃんはどうしただろう」「△△さんは生きているのだろうか」などとよく話していた。集団避難の試練が、現代の疎開にならぬことを願う。
▼ ガザでのジェノサイド、すでに2万4千人もの人命が失われている。その大半は非武装の女性と子どもだ。近代兵器を駆使して無差別攻撃を続けるイスラエルは正気の沙汰とは思えない。後ろ盾の米国と欧州諸国もまた同罪である。許し難い。眼を北に転ずるとウクライナ戦争は未だ終結は見通しが立たない。ここでも無辜の民が犠牲になり、国土は荒れ果てている。故郷を失う人々のなんと多いことか。どちらの争いも本気で停めようとする動きはない。悲しいことだが、大国先進国と言われる諸国は仲介の労を取ろうとしない。これでよいのか。
☆徘徊老人日誌☆
1月某日 那須の山奥に逼塞する息子夫婦が来宅。一緒に高校時代からの友人2名も登場。昔から拙宅に出入りし、息子よりも頻繁に姿を現し酒を酌み交わす準家族のМ田君に加え、これまた顔なじみのH多君の懐かしい姿もあった。近況、仕事と職場さらには日本経済への考察、家庭生活の喜びと悲哀も交え、笑い時々怒りなど弾む話にエビスビールのロング缶が林立し、ウヰスキーの瓶が空になる、終電間際まで宴は続く。
1月某日 図書館北分室へ。今年最初の借用は2冊。職員は元気そうで何より。
1月某日 八代亜紀の訃報に驚く。ハスキーながらしっとりとした声は胸の奥に響くようだった。トラック野郎のアイドルであり、深夜走り続ける彼らの鼓動にマッチし沁み込む何かがあったのだろう。「雨の慕情」が好きで左手を伸ばす振りは印象的だった。谷村新司も逝ってしまった。「昴」は宇宙を思わせる、壮大でありながらドラマチックさと繊細さを併せ持った名曲であろう。もう30年くらい前になるだろうか、青山円形劇場での公演に出かけたのは。素敵な舞台だった。作家伊集院静、脚本家山田太一も旅立った。昭和の余韻が薄くなっていく。それにしても昭和とは、昭和の人びととは何だったのだろう。ある種の陰を秘めているのか、或いは時代そのものの危うさを揺曳させているのだろうか。
1月某日 寄居町のホンダ工場へ。ふた山を整地した工場構内を開放し、駅伝大会が開かれるという。地域交流の目的だろう。地元の小中学チーム、地域の愛好者団体、企業チームなどが参戦する。中にはかなり有力な企業チームのユニフォームも垣間見えた。もちろん第一線の選手ではないだろうが。それにしても約10kmコースを設定できるのだから構内の広さが解る。親族が地元のマラソンチームのメンバーなので誘われて応援がてら会場に行ったのだが・・・。実は当日時間限定で一般開放されるテストコース見たさであった。念願かない1.6kmのコースを歩いた。その工夫が自分の足で実感できた。舗装は通常のアスファルト、目の粗いアスファルト、コンクリート舗装の部分、ヨーロッパ仕様の石畳、EU指定の路面塗装などの種類があり、ガードレールもそれぞれ違っていた。コーナーにはバンクも設定されていた。さらにコースの内側フィールド面にはゴツゴツの石が敷いてあったり、金属の突起があったり、深い水路が設けられていたりと様々な試験ができるようになっていた。カーマニアにはたまらない体験だった。若くてハイパワーのクルマを駆っていたころの腕で走ってみたかった。
寒気が一層強まっています。能登半島の被災者には追い打ちをかける過酷な寒波です。困難な中でも現場の努力によってインフラは徐々に回復しつつあります。電気、水道、流通など通常期になら当たり前のことが、失われると生活が成り立たないのです。まして原発事故の危機もあったはず。もしもの際はどんな不幸が襲ったのやら、想像しただけでゾッとします。安全安心の暮らしが回復されるよう願うばかりです。そうそう、新幹線が架線事故のため終日運休になっていました。このところ、この種の従来なら考えにくい事故事件が相次いで報じられます。日本の安全神話が崩壊しつつあるのでしょうか。
皆さんもどうぞご健勝でお過ごしください。
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