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「200字の書評」(328) 2022.10.10



こんにちは。お変わりありませんか。

短すぎる秋が通り過ぎようとしています。このところ晩秋よりむしろ初冬とも言うべき肌寒さと、氷雨に降り込められています。秋の風情を楽しめなくなっているのでしょうか。年齢とともに耐寒性が低下して、ついにエアコンの暖房スイッチを押してしまいました。10月上旬に暖房を入れるとは、何とも情けない話です。子供の頃は氷点下20℃の中を生きてきたのに…。
道路はアイスバーンになり、地面の下1メートルまで凍結する寒気。学校の校庭は水を撒いてスケート場でした。ほとんどの子はスピードスケートを履いてすいすいと滑っています。そんな季節がもうすぐ到来です。
高緯度の北方で戦われているウクライナ戦争の行方が気になります。寒気厳しい地での戦いの帰趨と、戦火にさらされる市民たちの苦難は如何ほどのものでしょうか。一日も早い停戦と兵器よりも平和を送りたいものです。また、苛政に呻吟するミャンマー、シリア、アフガニスタン、アフリカ諸国の民への思いを忘れてはなりません。大国の身勝手さと人類の放埓さが招いた苦難は、気候変動の悲劇さえ引き起こしました。考えましょう。

さて、今回の書評は戦前の日本を見つめてみました。満洲という響きは、ある年配の層には複雑な思いを抱かせ、中国人には屈辱感を思い起こさせます。




平山周吉「満洲国グランドホテル」芸術新聞社 2022年

大著である。関東軍によって創り上げられた満洲国に、良くも悪くも足跡を印した人物図鑑であり、人脈図である。帝国日本の傀儡国家であり、敗戦により僅か13年で崩壊した。昭和史を理解する上で欠かせぬ事実。石原莞爾らの軍人、実務を担う日系官僚、政治家や財界人の思惑も交錯する。戦後もその人脈は政財官学界、報道界に沈潜し、負の遺産は隠然たる勢力を形成しており、岸信介に象徴されるように二世三世が引き継いでいる。




【神無月雑感】


▼ いつもの散歩道、公園には数本が並び住宅の敷地から道路にせり出し、強い香りを振りまき橙色をまとっていた金木犀は、いつの間にか緑の葉の木に戻っていました。春の官能的な沈丁花とはまた別な香りで、秋を告げる存在でした。風に揺れるうす桃色のコスモスもまた秋の立役者です。さだまさしの作詞作曲『秋桜』は山口百恵が、漂う哀愁を見事に歌いあげました。谷村新司作詞作曲で同じ山口百恵が歌った『いい日旅立ち』も好きです。国鉄のキャンペーンソングであり、旅への思いをかきたてられます。
北海道出身の私は人生の折々に鉄道の想い出がついて回ります。高校生までは上京するには夜行列車を乗り継いで、2泊3日の旅でした。高校の修学旅行は11泊12日、車中泊が5泊の強行軍でした。しかも北海道東北では蒸気機関車が牽いていました。大学入試の時期にはジーゼル特急の運行が始まり1泊2日に短縮されましたが、やはり夜行列車での上京です。鉄道と青函連絡船への深い思い入れは未だに続いています。むしろ郷愁は強まるばかりです。私の中では電車ではなく汽車と呼び、JRではなく国鉄が走っています。北海道の鉄道網は廃線縮小の危機、地域崩壊に拍車がかかります。近々特急『おおぞら』に乗ってやらねば。


▼ 今年は日本の鉄道開通150年、メディアは特集番組を組んでいるように鉄道は近代化の立役者でした。鉄道があることが地方にとってどれほど心強いことか。ひとつの文化であり、何より孤立してはいないつながっているという安心感なのです。鉄路の廃止は過疎へのアクセルでもあります。新幹線だ、リニアだと華やかさと経済性を追う前に、鉄道と人間の暮らしの関係に思いをいたしてもらいたいものです。同時に、鉄道には歴史的な陰影もあることを忘れてはなりません。戦前の建設工事には囚人やタコと呼ばれる労働者、朝鮮人、中国人が動員され、劣悪な労働条件と強制労働により犠牲者が沢山出ました。北海道の鉄道には、枕木毎に遺体が埋まっているとさえ言われています。また、路線の設定、買収に関する利権を忘れてはなりません。


▼ 原発についての疑問です。報道によると政府、原子力規制委員会は既設原発の稼働40年、例外的に60年までとしてきた期限を撤廃するそうです。福島原発事故の教訓と反省はいとも簡単に忘れられるのでしょうか。原子力は簡単に人間の制御を飛び越えてしまいます。原子力規制委員会ではなく推進委員会と改名すべきです。


▼ テレビ朝日の「羽鳥慎一モーニングショー」でのアベ国葬に関する玉川発言が問題視され、謹慎という社内処分に付されました。国葬に電通が関与しているという発言が間違いであったことによります。錯誤は翌日、本人が訂正謝罪をしています。それに加えて処分することは、何を意味するのでしょうか。電通と言う巨大メディア支配企業への配慮か、政権への過度の忖度でしょうか。アベ信奉勢力の圧力に負けたのでしょうか。歯に衣着せず正論を述べる玉川徹が鬱陶しくなったのかもしれません。報道機関としてのテレ朝の見識が問われます。この件に関してコンプライアンスの視点から、弁護士の郷原信郎氏がテレビ朝日を厳しく指弾しています。




<今週の本棚>


エマニュエル・トッド「第三次世界大戦はもう始まっている」文春新書 2022年

衝撃的なタイトルである。ウクライナ戦争の実体としてロシア軍が戦っているのは、クリミヤ併合時のウクライナ軍ではない。その後に米英によってNATO的装備戦術で強化されたウクライナ軍であるという。ソ連の崩壊を見通したトッドの見解は興味深い。米ロ代理戦争は進行している。経済制裁は効果がない、むしろ欧米側の打撃も見逃せない。民主主義陣営対権威主義的勢力の対立という図式は通用しない。アメリカ一強体制は崩れている。などの指摘には説得力がある。日本に対して彼は核武装を提起するが、これは疑問。統計に基づくシビアな見方は学ぶべき点が多々ある。


今野浩「工学部ヒラノ教授の研究所わたりある記」青土社 2018年

どうもヒラノ教授にはまってしまったようだ。軽妙さの陰に、かなりの努力家で優れた頭脳を持ちながら雌伏の時を余儀なくされ、時世と格闘した様子が窺える。どの世界でも、人と人のつながりと流れを読み引き寄せる眼力も大切なことがわかる。




コロナは小康状態のように見受けられます。感染者、重症者などはかなり減少しています。新株では重症化しない傾向にあるとも伝えられています、果たしてこのまま減少に転ずるのでしょうか。検査、治療体制、後遺症対策などに不安が残ります。特効薬と画期的な治療法は確立されていません。マスク着用の緩和、外国人の入国制限撤廃、全国旅行割の実施など不安材料は少なくありません。今年はインフルエンザ蔓延の可能性も取りざたされています。自衛策は怠らず、注意深く暮らして行きましょう。心置きなく古い友人達との飲み会を期待したいところです。

どうぞゆく秋を惜しみつつ、冬に備えてください。


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