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「わからない」を忘れたとき

「わからないこと、できない時のことって、忘れてしまうものなのかな?」

十数年前、私がよく抱えていた疑問だ。

当時の私の周囲では、こんな言葉が飛び交っていた。

・なぜわからないのか
・こうすればいいのに
・なぜできないのか
・わからないことが、わからない

そんな言葉を耳にするたびに、いい気持ちはしなかった。わかっているなら、どうして少し手を差し伸べてあげないのだろう、と思うこともあった。

そんなある日、ついに口にしてしまったのだ。
「わからないこと、できない時のことって、忘れてしまうのでしょうか?」

その場にいた人は、一瞬きょとんとし、続けて「どうしてそう思うの?」と尋ねてきた。私は言った。
「誰だって、最初は『できない』状態から始まり、少しずつできるようになっていったはずです。できるようになったなら、以前の『できない』気持ちを理解できるのが自然だと思います。もしかして、できるようになったことで、その気持ちを忘れてしまうのでしょうか?」

相手は少し考え込むように「うーん、難しいね」と返した。それだけだったけれど、その一言が妙に胸に残った。

そして十数年経った今、ふと思う。当時の気持ちを、私は少し忘れかけていないか?

誰かの「わからない」「できない」に心を寄せる。それを、忘れずに続けていきたいと思うのだ。

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