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短編小説

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架空のおはなし
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記事一覧

あの子のカフェ

アテネ国際空港は、国際空港にしては小さい。重い荷物をピックアップしてバスに乗り込んで市街…

Haru
9日前
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フィアットに乗って

暇な瞬間な人生の中でいくらでもあるけれど、どこかもったいない暇な時間というものがある。そ…

Haru
9日前

サントリーニの夕陽

「やっぱりサントリーニ島の夕陽が一番綺麗だったよ。」 そんなことを言うカップルが後を絶え…

Haru
1か月前
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ミコノスタウンの少し上で

気の抜けた観光客が次々と部屋から降りてくる。 朝食は基本的にはバイキングなので世話をする…

Haru
2か月前
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リカヴィトスの丘

その日はカラッと晴れた、過ごしやすい日だった。 仕事で1ヵ月ほどヨーロッパにいる関係で、休…

Haru
2か月前
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ミコノスは白と青

ミコノス島に降り立つと、もうご自慢の夕陽の時間はとっくに終わっていて、暗闇の中の小さな空…

Haru
2か月前
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幻影のシンガポール

チャンギ空港に降り立った。そこに無駄なものはなく、逆にいうとすべてが無駄なものであった。 電子化された入国手続き、そこにスタンプなんていらない。必要なのは自分の顔と指紋である。整形しても顔認証は通るんだろうか。そんなことを考えながら登録をしていると、指紋認証が上手くいかなかったみたいで何回か登録する羽目になった。気にするのは顔より指紋だったか。 そして入国すると目にするのは、空港直結のショッピングモールであるJewelという大層な名前の施設。日本語のものや見慣れた店も多く、意

パリから足をのばして

狭い部屋に置かれたMarshallのスピーカーからMaroon5のSundayMorningが流れた。 もう朝か。 …

Haru
1年前
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ルクセンブルクの影

「結婚してほしい。」 彼は私に跪き、そう言った。 次の瞬間には小さな箱が開けられていた。…

Haru
1年前
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古都クラクフに根付く因縁

カツカツと乾いた音が、軽快に鳴り響く。 私の手捌きは安定感があり、いつものルートの歩みを…

Haru
1年前
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あの子とブリュッセル、時々アントワープ

「しょんべん小僧は残念スポットなんかじゃない。」 「EUの本部は絶対にここはじゃない。」 …

Haru
1年前
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アムステルダムの裏側

ドラッグとセックスの街、アムステルダム。 そんなのは虚構だ。 アムステルダムは優等生のよ…

Haru
1年前
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ベルリンは笑う

広がるコンクリート。 けたたましく駆け込む電車の音。 垂直に歩けたってなかなか辿り着かな…

Haru
1年前

おはようプラハ

ある朝、グレゴール・ザムザが不安な夢からふと覚めてみると、ベッドのなかで自分の姿が一匹の、とてつもなく大きな毒虫に変わってしまっているのに気がついた。 トムは昨日読みはじめた本を思い出した。それは、祖国であるチェコの代表的な作家、フランツカフカの変身の書き出しだった。 トムは夢をみないことが多かったが、その小説を読んでからは朝起きて自分の足が二本のままであることをまず確認することが習慣となっていた。 その朝は、珍しく夢を見た日だった。 トムは起きて顔を洗い、コーヒーメ