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あの子のカフェ

アテネ国際空港は、国際空港にしては小さい。重い荷物をピックアップしてバスに乗り込んで市街地へと向かう。
今日からギリシャでの留学生活が始まる。留学といえば英語圏やヨーロッパの中でももう少し西の方のイメージがあるけれど、私が選んだのはギリシャのアテネという街だった。
みんな知っているけれど、オリンピックのイメージしかなくてあまり知られていない街。衰退していてヨーロッパの中では地味なイメージもあるけれど、歴史があって少し変わっているギリシャは私に似合っていると思った。

中心地のシンタグマ広場の周りでは、人々が各々の時間を過ごしていて、みんな少し気だるげな雰囲気の中で仕事をしていた。
私が入るマンションは坂の上にあるので、そんな人を横目にずんずんと坂道を進んでいく。建物は石造りで表参道のような洒落っ気を感じるのに、どこもかしこも落書きがしてあって背筋が伸びる感じはしない。
よそ者向けの街じゃなさそうだななんて思いながら、マンションに重い荷物を置くと思わず息が漏れた。
魔女の宅急便のキキもこんな気持ちだったのかな。私には箒も魔法もジジもいないけれど、でもやっていかないといけない。

とりあえず街に挨拶するつもりで散歩をしてみようと思って、最初に見かけた交差点に、そのカフェはあった。
SAMBA Coffee Roastersと書かれたオープンなカフェに吸い込まれるように向かった。そうか、ここが私の思い出の場所になるんだ。
そんな浮かれた気持ちとは裏腹に、 同い年くらいに見える女の子がエスプレッソを持って外の席に座った。課題でもあるのだろうか、明らかに気乗りしない表情で物憂げにしていた。

そうか、ここは現実逃避でさえもさせてくれる場所なのか。
ここだけはSNSに載せないで、自分専用の場所にしておこう。
SAMBAの先輩にそんなことを学び、そんなに英語が通じない店員にエスプレッソを頼んだ。

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Haru
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