ICT教育は、発達障害の子どもをサポートできるか。
子どもの教育とICTとの親和性は、果たして高いのだろうか。文部科学省によってGIGAスクール構想が打ち出され、コロナ禍がその動きに拍車をかけているように思われる昨今であるが、もう一度、ICT教育について考えてみたい。
クリニックによるICT学習支援
私は現在、小児科のクリニックで発達障害児を対象に、ICTを用いた学習支援を行っている。小児科のクリニックがICTで学習支援を行うというのは、全国的にも稀な取り組みであるようだ。この取り組みは、当クリニックの院長先生が、院内の療育スタッフのみならず、情報科学や臨床心理学の大学教授、元小学校教員や元特別支援学校教員を巻き込んで、昨年6月より実験的にスタートした。私はその取り組みに、昨年12月より参加させていただいて、週5日子どもたちの学習をサポートしている。
ADHD、自閉スペクトラム症を抱える子どもたちは、ディスレクシア(識字障害) である場合も少なくない。彼らは、授業中に落ち着いて話を聞くことができなかったり、友だちとうまく関われなかったりして、学校に適応できていないことが多い。それに、字の読み書きが苦手というのが加わると、彼らの自尊心は大いに傷ついてしまう。当クリニックに通う子どもたちの中には、学校に行けていない子も結構いる。
ICT教育とプログラミング教育
ここで少し確認しておきたいのは、ICT教育≠プログラミング教育であるということだ。プログラミング教育はその名の通り、プログラミング的思考を学ぶためのものである。一方でICT教育というのは、ICTでできることを活用して普段の学習をより効果的なものにすることが目的だ。
プログラミング教育についての記事はこちら↓
当クリニックで行われているのはICT教育である。ディスレクシア などによってうまく読み書きができない子どもたちに、PCやタブレットを用いて読み書きする能力を身につけさせ、少しでも学校の学習を補助できればと考えている。
具体的には、ローマ字入力を鉛筆で書くのと同じくらい速くなるようにタイピング練習をしたり、好きなゲームやアニメキャラなど、子どもたちが興味を示すものについて、ワードやエクセルを用いてまとめたり、などといった活動を行っている(他にも多様なICT教材を用いているので、また今度ゆっくりまとめたい)。
発達障害児へのICT教育の効果
私が最も効果として感じていることは、子どもたちのタイピングスピードが上がったとか、ワードで文字入力できるようになったとか、そういうことではなく、それに伴って子どもの自尊心が上がることだ。
発達障害児の中には、できないことを見られたくないという気持ちから、何に対しても「めんどくさい」「やりたくない」と投げやりな態度をとってしまう場合も少なくない。それでも、自分はみんなより少し、ICTに対しては「できる」という感情が芽生えるのか、「中学校に入ったら情報科学部にはりたい」「将来はPCを活用した仕事につきたい」などと、前向きな言葉を発してくれることがある。
また、当クリニックで作成したレポートを自主学習の宿題として提出したところ担任の先生から褒められたり、作成したパワーポイントを先生に見せたところ称賛されて、給食の時間に全校生徒へ向けてオンラインプレゼンをすることになったりといったことも聞く。学校の先生方もよく見てくださるおかげで、学校での彼らの自尊心も高まりを見せているように思う。
また、当クリニックへ通うディスレクシア を抱えている子どもが3人、今年度ICT機器を用いて受験をすることが許可され、公立高校に合格することができた。難関の高校に合格した子どももいる。
ICTによって苦手だった読み書きがサポートされ、自尊心が高まる。発達障害、特にディスレクシア を抱える子どもにとって、ICT教育はとても良いものであるように思う。
ICTを学校へ導入する課題
それでも、ICTを学校へ導入することは、あまり簡単ではないと思うし、場合によっては発達障害を抱える子どもたちの自尊心を下げてしまうこともあると思う。
ICTを学校へ導入することの困難さを書いた記事はこちら↓
今後、学校でICT教育を導入することの障壁は下がっていくだろうと思うが、そもそも発達障害の子どもたちは指示を聞けなかったり、みんなと同じことをするのが苦手だったりするので、クリニックでのICT学習はするけど、学校でのICTの授業はやりたくない、となってしまうかもしれないなと思う。
発達障害とICTの親和性は高いけど
発達障害を抱える子どもたちにとって、ICTは読み書きをサポートし、自尊心を高める効果もある可能性があるということが分かってきた。しかし、子どもたち一人一人に合わせた課題を用意したり、気分がのらない時には無理に課題をさせなかったりと、30人学級では難しいような、オーダーメイドのきめ細やかな支援があってはじめて、彼らの学習がサポートされているということは否定できない。
30人学級でICT教育をして彼らの学習がサポートされたり、自尊心が上がったりするかは分からないし、それこそまた「教師の力量」によってしまうのだろうなと思う。
発達障害の子どもたちを、学校だけでサポートするのは難しい。だから、当クリニックのような外部機関が必要なのだと思う。現在、当クリニックのICT支援室は100人以上の発達障害を抱える子どもたちが「空き待ち」をしている状態である。そのことからも発達障害を抱える子どもに対するICT支援の必要性の高さが感じられるように思う。今後、このような取り組みがさらに広まると良いと思う。