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摂食障害の長い長いトンネルを抜けて~元摂食障害当事者からのメッセージ~268
パフェというよりは、芸術品か何かのように美しく盛り付けられたメロンが、ホテルのラウンジという上品な空間ピッタリとはまっていた。食べるのが憚られるような気品さえ漂っている。私は、その『芸術品』を少しだけ眺めてから、ありがたくいただくことにした。
「いただきます」
*
メロンが甘い。甘くてみずみずしい。砂糖とは違う、自然な甘さが爽やかで、さっきまでの暑さを忘れさせてくれる。
メロン味のアイスやクリームも、甘さが上品で、それでいてしっかりとコクが感じられる。普段食べているコンビニスイーツだって十分おいしいけれど、何だろう、おいしさの『次元』が数段違う気がする。
普通のパフェだと、シリアルが入っているところには、クッキーか何かがあって、これもほんのりメロンの味がする。もう、全部が全部『メロンづくし』だ。
「あぁ、何て贅沢なんだろう。こんなにおいしいとは思わなかった……」
おいしいものを、おいしくいただく。
こんなにシンプルで、当たり前のことを、私は長い間忘れていた。ううん、忘れていたんじゃない、ずっとずっと目を逸らして、見ないようにしてきた。感じないようにしてきた。
おいしいということを、おいしいと感じることを、おいしいと感じることが幸せであるということを、無視して、否定して、拒んできた。
『食べること』は太ることで、いやしいことで、いけないことだって考えに囚われて、憑りつかれたように『食べること』を避けて、なかったことにしようと必死になっていた。
そんな当たり前の幸せを捨ててまで『痩せること』に拘って、拘って、拘り続けてきた。
それで私は、絶対に幸せになれると思っていた。絶対に幸せになれると信じていた。
だけど、痩せて、痩せて、痩せ続けても、いつまでたっても幸せにはなれなかった。
それどころか、痩せて、痩せて、痩せた先には、苦しみと、辛さと、絶望しか待っていなかった。
「私は『食べること』からは離れて『幸せ』になれる方法を探してみたけれど、どうやら『食べること』からは離れられないようね」
『食べること』で壊れてしまった心は、『食べること』でしか癒すことが出来ないのかもしれない……
今日もありがとうございます。
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