シェア
志賀直哉 60歳。 長編小説。大きくてずっしり重たい「百科事典」のような本。表紙は文字のみですが、本体には挿絵が8枚も入っています(ページに貼り付けているタイプ)。 これまで数多くの本を紹介してきましたが、「口絵、挿絵」を担当した人の名前が紹介されていない場合がほとんどでした。ところがこちらの本では1ページを使い、丁寧に紹介してくれています。(ありがたい) 本の装丁には著者の思いがこめられています。なので私としては是非知っておきたいのです。
山本有三 54歳。 奉公に出された吾一が多くの困難にぶつかりながらも成長していくストーリー。昭和16年の夏、厳しい検閲の監視の下にて出版されました。 山本有三と主人公(吾一)との共通点、それは「呉服屋での奉公」。山本自身は奉公先から逃げ出したそうですが、小説の主人公は何度も困難に立ち向かうことになります。 ◉装釘 南沢用介(白井晟一〜建築家) 著者 山本有三 発行書 岩波書店 戦後は議員、1965年には文化勲章を授与されるなどして、87歳でこの世を去りました。 *
堀辰雄 34歳。 白を基調とした上品で美しい本。非常に丁寧な作りで製本されています。色は白と茶、背表紙の表題はゴールド。 自身も病を抱えながら婚約者とともに長野県の療養所に入院、のちに婚約者は死去。「風立ちぬ」はそのときの体験に基づいて書かれています。 ポール・ヴァレリーの詩、「海辺の墓地」より。 生きなくてはいけない。という意味だそうです。 ただ私が感じたのは「生きてみようかなぁ」のほうがなんとなくしっくりくる。当時の結核は不治の病。堀自身が長年の病に苦しめられ・
川端康成 38歳。 ノーベル文学賞受賞。 著作者 川端康成 版元 創元社 ところで旅行がもたらす効果について・・ 「雪国」「伊豆の踊子」どちらも著者が旅行先でネタやアイディアを思いついているんですよね。 特に効果がありそうなのは 旅先で人生を変えるほどの「大チャンス」に巡り合えるかもしれません。 ◎川端康成が宿泊した温泉宿、「雪国の宿 高半」
永井荷風 58歳。 濹東綺譚 =隅田川東側の話 向島区(現・墨田区)にある私娼街、玉の井が舞台。小説家(永井自身といわれている)と若い娼婦との出会いと別れのストーリー。 表紙カバーがなく、白と黒のみ。挿絵に白黒写真。本全体に鮮やかな色彩はありません。 この本が出版されたのは1937年。盧溝橋事件がきっかけで日中戦争が始まった年になります。 この時代、すでに活動写真という言葉は廃れ「映画」と呼ばれていました。そこをあえて昔の言葉を使う荷風。昔を懐かしんでいるのがわかりま
高見順 29歳。小説家、詩人。 「故旧忘れ得べき」が第一回芥川賞の候補となり注目される。 政府の弾圧でマルクス主義から思想を転向させられた人たちの「その後」の話。高見自身、1933年に検挙された経験があります。*同年、小林多喜二が拷問で死去。 著者 高見順 発行者 人民社 全体的に質素でサイズが文庫本よりちょっと大きいくらい。表紙の濃紺がとても上品。長期保管、持ち運びに便利ですね。 ・・・ 当時なにがあったのか?どんな社会風潮だったのか?を知るために。
谷崎潤一郎 46歳。 1923年の関東大震災後、38歳で関西へ移住。上方の商人文化や古典美に親しむようになる。 神戸・岡本での豪遊生活で金欠となり、高野山の宿坊「龍泉院」へ一時住まいを移す☄︎☄︎☄︎ そこ(高野山)で、書かれたのが「盲目物語」。織田信長の妹お市、遺児お茶々(淀君)の悲しい話。そばで仕えていた三味線引きの盲人によって語られています。 著者 谷崎潤一郎 発行所 中央公論社 ほか、「吉野葛」も収録。大阪の商家を継いだ友人が幼少時に死別した母を探すために奈良
堀辰雄 28歳。 師としていた芥川龍之介の自死に衝撃を受ける。その後、芥川や堀自身を含む関係者をモデルとした「聖家族」を出版(江川書房)。 本体と厚紙(表紙)というちょっと変わったタイプの装丁。無駄な装飾がまったくありません。 私の憶測ですが、本全体が真っ白というのは喪に服すという意味なのかも・・。 アンカット版。まるで小さな絵本のよう。 大学に入学した年の夏。軽井沢で芥川と室生犀星の近くで暮らす。堀にとっては忘れられない貴重な体験だったようです。若い頃の思い出ってい
小林秀雄 29歳。独自性のある文芸評論家。 装丁は親友の青山二郎。*親戚にクーデンホーフ光子 様々なる意匠、志賀直哉、横光利一、マルクスの悟達、批評家失格など・・ 川端康成によると「小林秀雄が現れてから、多くの人々の評論が通俗的に見え出した」とか。そんな小林秀雄の若い頃の初期批評論です。 著作者 小林秀雄 発行所 白水社 ・・・
横光利一 33歳。 明治から続いていた文学に新風をということで登場してきたのが「新感覚派」、モダニズム文学。1924年の関東大震災後、川端康成などとともに「文芸時代」という雑誌を創刊(1927年に閉刊)。 本のサイズが大きい!というのが第一印象です。(比べる対象がなくてsorry) 佐野繁次郎 装幀 句読点が少なく機械のような文体。複雑な人間心理を描いている。 著作者 横光利一 発行所 白水社 戦後、文壇の戦犯となってしまった横光利一。そんな状況下でも検閲を経て『
川端康成 31歳。 浅草の風物詩のような小説。パフォーマンス団員たちの日常的な様子が書かれている。*実在モデルはいない。 装丁は吉田謙吉。舞台装置家、美術監督、タイポグラフィ作家。 カジノ・フォーリー 浅草にあった余興場。ここの常連客だった川端😀 挿絵は洋画家の太田三郎。丸みのある絵が特徴的で新しい感じがしますね 著者 川端康成 発行所 先進社 ・・・ 東京に来たばかりの頃から浅草通いをしていたという川端。浅草が好きだったようです。 もともと新聞の連載小説だった「
三好達治 30歳。詩人、翻訳家。 はじめての詩集「測量船」。39編の詩集。 著者自身、子ども時代は大阪に住む両親のもとを離れ兵庫県にいる祖父母に預けられて育った。あの詩は母を想うのと同時に、心のどこかにひそんでいたもどかしさと怒りが、ひょんなことで詩に出てしまったのではないだろうか。 たった二行にもかかわらず、想像力かきたてられる「雪」。 ・・・ 著 者 三好達治 刊行所 第一書房 * 大阪の高槻市に三好達治の記念館(本澄寺の中)。阪急上牧駅から徒歩10分。事前
徳永直 30歳。 印刷会社の労組に参加し解雇された経験を書いたプロレタリア小説「太陽のない街」日本プロレタリア作家叢書4。労働者出身ということで世界から注目。ドイツ語、ロシア語、英、仏、スペイン、中国語に翻訳される。 装丁は柳瀬正夢。ハンマーをもっている男性が印象的です。 本文中の白黒の挿絵は目黒生。 著 者 徳永直 発行所 戦旗社 ・・・ 世界大恐慌の引き金となった1929年10月米国の株式大暴落。その2ヶ月後にこの本が出版されました。4年後の1933年、小
小林多喜二 26歳。 プロレタリア文学の小説家。小樽高商卒業後、拓殖銀行を経て、共産主義の運動家へ。 1928年3月15日・・・三・一五事件 日本全国で一斉に党員たちが検挙された日 本全体としては雑誌という感じです。紙質はあまりよくなく裏面が透けて見え、小さな字の上に漢字が印刷で潰れてしまっているところもあります。 著者 小林多喜二 発行所 戦旗社 *1928〜1931 党内のスパイによって築地警察署に連れていかれ30歳で亡くなりました。 ・・・ 若い頃から志賀