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【叡王戦準々決勝▲永瀬王座ー▽藤井二冠】藤井二冠にしては珍しい受け将棋!

2020年代の将棋は序盤から積極的に動くから面白い!

いつもの藤井二冠は少しでも相手に隙があると序盤であろうがお構いなしに攻めるスタイルで、終盤では神がかり的な読みの速さを背景とした快勝や劇的な逆転を度々生み出す。そのため、見ている者にとっては最初から最後までワクワクする将棋に見えるのだ。しかしながら、少し前まではそんな指し方をするプロ棋士は珍しかったのだ。

10~20年前の将棋は現在よりも振り飛車が多く指されていた。横歩取りや中飛車超急戦などの一部の激しい戦型を除き、お互いに玉の守備を固めてから攻め合うのが主流だった。初手~30手程度まで駒同士がぶつからない駒組みは珍しくなく、それを淡々と眺めるだけの対局は結構多かった。

水面下ではお互いの研究がぶつかり合っているのかもしれない。でも、高度なことが分からない素人には「面白くなったら教えてくれ」と地味で退屈な序盤に映っていた。こんな背景があったので、序盤から積極的に動いていくようになった2020年代の将棋は最初から見ていてめちゃくちゃ楽しいのだ。AIによる序盤研究の深化がもたらしたこの変化は将棋界のパラダイムシフトと言っても良いだろう。

藤井二冠にしては珍しい受け将棋だった!

さて、しょうもないノスタルジーに浸るのはここまでにして本局について触れていこう。基本的に永瀬王座は受け、藤井二冠は攻めの棋風ではある。しかしながら、初っ端からそんなイメージはあっさりと裏切られる。それだけでも驚きがあり、ワクワクが止まらない。

序盤は永瀬王座が先手番の利を生かした作戦が炸裂する。戦形は雁木調から定跡を外れた力戦と言ったところか。面白かったのは、藤井二冠が先に6筋の歩を突っかけた時に「これは研究の範囲内ですよ」と言わんばかりにノータイムで四間飛車に振ったところだろう。これにはさしもの藤井二冠も手が止まった。一つでも読みを間違えれば一気に劣勢にたたされるだろう。

持ち時間を投入して永瀬王座の研究にハマらないように指し続けてはいくものの、未知の領域に足を踏み入れた藤井二冠は次第に受け身になっていった。AIによる評価値も永瀬王座やや良しをキープしたままで、結局90手前後まで藤井二冠の悩ましげな受け将棋(守勢)が延々と続いた。両者の棋風とは真逆の展開になったのだから何とも珍しい。

攻撃的スタイルの藤井二冠が相手陣に対してほぼノータッチを強いられたのは、ひとえに永瀬王座の序盤研究の賜物だろう。本局は指し手に窮する状態が続いたものの、それにシビれを切らさなかった藤井二冠の冷静さと我慢強さが垣間見えた一局だった。そして、永瀬王座の研究をかいくぐって勝利を掴んだ精確な読みと指し手は毎度ながら実に素晴らしい。両者とも感想戦で楽しそうだったのが何より印象的だった。

将棋は勝敗だけを見るよりも、指し手から推測される心理面と抱き合わせで見た方が遥かに面白い。自分は初心者にも楽しんでもらいたいので「正しいかどうかは分からないけど、おそらくそういうことなんだろう」と内容よりも対局者の心理を文章で描写するNOTEを心がけている(棋譜の著作権に引っかかりたくないのもあったりする)。将棋のネックは、プロ棋士の指し手は有段者以上の棋力が無ければどうしても分かりづらいことに尽きる。

まとめると、本局の見どころは永瀬王座の序盤研究と、それを見事にかわす藤井二冠の精確な読みだったと言える。序盤から「一手ミスったら即死」の緊張感が続く攻防を見せてくれたのはさすが現代将棋のトップを走る二人で、今後とも両者の勝負からは目が離せない。

このNOTEは自分(最高棋力アマ五段)が棋譜を見て勝手に受けた印象を語った偏見まみれの書き物です。悪しからず。

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