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組織運営に正解はないと思いますが、目指すべき方向性は時代を超えて不変の真理があり、そのことを端的に述べている中国古典の兵法書があります。

今回紹介するのは『尉繚子(うつりょうし)』。中国古典の兵法書である孫子や呉子とともに武経七書の一つとされています。

著者は「尉繚」という人物で、戦国時代の兵法家であり、主に戦略や軍事の指導に関する知見をまとめています。尉繚子は、戦争や政治における実践的な知恵が詰まっており、特に国家の存続や強化、軍隊の運営方法などが詳細に述べられています。

そのなかで、軍の強化に関する五大要件を述べた一節があります。

1.食糧を蓄積すること。食糧が欠乏すれば軍は進もうにも進めない。
企業でいうなら、売上、利益を指しています。それらが十分でなければ会社の運営などできません。また、売上、利益が潤沢であっても社員に還元する気がない経営陣の下では本気で仕事をする社員はいないでしょう。

2.論功行賞を十分に行うこと。賞が十分でなければ士卒は発奮しない。
人事評価が適切に行われない組織では士気を上げることは無理です。賞には外発、内発といった刺激がありますが、いずれにせよ働きに見合った対価を提供しなければ人の心は離れていきます。

3.有能な人材を抜擢すること。人材を適所に用いなければ軍は強くならない。
適材適所について述べているのですが、抜擢という言葉を使っているあたり、昔であれば出自や身分に関わらずといったところでしょう。現代でいえば社歴や年齢、性別といったことに拘らず本当に有能であれば積極的に登用すべきと解釈できます。

4.兵器を整備すること。武器が整っていなければ、戦闘力が弱まる。
企業にとっての兵器とはなんでしょう。提供している商材を指します。自社の看板である商品、サービスも未来永劫価値を評価してもらえるとは限りません。時代の変化や消費者の需要に応じて、変えていかなければならないものや新しい商材を開発し続けなければ栄枯盛衰の憂き目に遭うかもしれません。

5.賞罰が厳正適切であること。賞罰が適正を欠けば、士卒は上官に服従はしない。
評価制度、仕組みやルールといったものを整備したところで、それらを運用する人間が恣意的に用いれば、制度やルールというものが形骸化し、機能しなくなります。結果として、経営陣に対する社員からの信頼も失うでしょう。

尉繚子では五大要件を満たすことでどのような成果を得られるかについて続けて述べています。

「軍が静止する時はその守りは万全、行動する時は必ず所期の戦果を収めることが可能となる。しかも防禦から攻撃に移行する時には、重厚で堅固な全軍が一挙に勇猛果敢に突進するようになる。」

尉繚子 戦威

言われてみれば、当たり前のように聞こえることばかりですが、現代の組織運営上で課題となっていることばかりです。

十分な売上、利益を確保するためには、マーケティングと商品戦略とその実行が必要ですし、人事戦略については今も昔も変わることはなく、基本にして王道であることを約2000年前に説いています。

孫子にしても、呉子にしても、およそ兵法書に記されている部下のマネジメント、組織運営方法の内容はほとんど同じです。

そして、巷に溢れかえるマネジメント論やリーダーシップ論の根本はすでに議論し尽されているように個人的には感じます。

現代の組織運営は複雑化していて、そんな簡単なものではないというお考えもあるでしょう。私自身ももっと若い頃に兵法書や論語などの処世訓を読んでいても、状況や時代が違う、中国古典は理想論過ぎると思っていた時期がありました。

けれど、心理学や脳科学、組織開発といったさまざまなアプローチはあるものの、人間の感情や心理に対する鋭い洞察に基づいて、中国古典はとうの昔に答えを出していると腹落ちしてから悩みは減りましたし、現代に生きる多くの人々は日々答えを探しているような気がします。

本質的なことはいつもシンプルです。

最後までお読みいただきありがとうございます。


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