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エッセイ

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日頃思ったことを綴っています。
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#食エッセイ

あちらのお客様から

あちらのお客様から

 ここ数日、私は酷く落ち込んでいた。
 色々な出来事が重なって、これまで選択してきた道を疑って、自分に自信が持てなくなっていた。

 眠りが浅いのか目覚めの悪い夢ばかりみる。まだ朝なのにもうクタクタで何も手につかない。
 仕方がないので家族を送り出した後、風通しの良い部屋に簡易ベッドを設置して、時間が許す限り横になる。

 子どもが帰ってくる30分前、スマートフォンのアラームが鳴った。
 蛍光灯の

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やってみなくちゃわからない

やってみなくちゃわからない

「やってみなくちゃわからない」

 とある科学番組のキャッチフレーズ。
 私はこの言葉が大好きだ。挑戦的で心をくすぐる魅力がある。日頃から意識して口にするくらい私にとって力のある言葉で、やる気エンジンをかけるときの鍵となっている。

 今日は読んでいた小説に登場する氷出し緑茶を再現しようと試みた。原作の方法を完璧に再現できなくてもいい。こういうのはフットワークの軽さが大事だし、家にある物で工夫する

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ココアの溶け残りがおいしい理由

ココアの溶け残りがおいしい理由

 ココアを作るとき、パッケージに書いてあるよりも多めに粉を入れる。当然、ホットミルクから飽和した粉は溶け残ってマグカップの底に溜まる。
 私はあのザリザリとした溶け残りに魅力を感じる。
 スプーンに集められた濃いペーストを舐めると、砂糖の甘味とカカオの苦味が牛乳で中和されることなくダイレクトに感じられて、なんだか嬉しくなるのだ。

 こんなにもココアの溶け残りに魅力を感じるのはなぜだろう?
 
 

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走るためのどら焼き

走るためのどら焼き

 気がつけば午後3時過ぎ。
 作業に熱中しすぎて昼ごはんを食べ損ねた。
 あと10分もすれば子どもたちが帰ってくる。でも、腹の虫の雄叫びは止まらない。

 おやつストッカーに駆け寄り、チョコレートの小袋を掴んで睨みつける。これっぽっちで足りるわけがない。両手でガサゴソとかき分けた先、先日貰ったどら焼きと目が合った。
 ビニール包装までかぶりつく勢いで一気に頬張る。せかせかとした気持ちを柔らかく包む

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おふくろの味候補

おふくろの味候補

 私のおふくろの味は、冬瓜スープだ。

 母の料理は、いつも力強かった。
 血合いで赤々とした鰹節が、踊る暇もない勢いで鍋に投入されていく。賽の目状に切った豚肉と冬瓜も加わり、火が通ったら味噌を解いて出来上がり。

 やれ兄ちゃんの肉が多いだの、自分の肉は少ないだの、文句を言いながらも、子どもの口には大きいサイズの冬瓜を頬張る。
 鰹出汁の香ばしさと味噌の塩気、それに肉の旨味が染みた冬瓜は、ジュレ

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マネージャーの水出し茶

マネージャーの水出し茶

 私はいつも寝る前に大量のお茶を作り置きする。

 5人家族なので1リットルのボトル5本分。長男と旦那の麦茶、長女のルイボス茶、次男の黒豆茶、そして私の緑茶。それぞれのボトルにお茶パックを入れて水を注ぐ。

 翌朝、良く冷えたお茶を水筒に詰めて、家族を学校や仕事へ送り出す。そして、大量の空きボトルを洗う。スポンジを握りしめてゴシゴシと洗う姿は、まさに部活のマネージャーだ。この「部活のマネージャー」

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ご機嫌カルピス

ご機嫌カルピス

 今朝から憂鬱だった。送り盆当日にスーパーへ買い出しに行く用事ができてしまったからだ。混むと分かっていたから前日に買い出しを済ませていたのに、歯磨き粉の銘柄がいつもと違うことに泣き出した次男によって、私の計画は水の泡となった。ちなみに私の名誉のために説明すると、銘柄を間違えたのは旦那である。

 駐車場入口にある「満車」の赤い字がより心を沈ませる。どうにか空いている場所を見つけて車を停めたけれど、

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決戦の日のりんご飴

決戦の日のりんご飴

 今日は人生2回目のりんご飴を食べる日と決めた。人生なんて単語を使うくらい並々ならぬ決意があったのだが、同行していた家族には「そういえば新しくりんご飴屋が入ったらしいよ」と大型スーパーに到着してから思い出したような素振りを徹底した。

 人生初のりんご飴は散々だった。もう10年以上前の記憶だが、ボソボソとした食感が忘れられない。「食べ物を粗末にしてはならない」という幼い頃からの教えに背くことも出来

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