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やってみなくちゃわからない
「やってみなくちゃわからない」
とある科学番組のキャッチフレーズ。
私はこの言葉が大好きだ。挑戦的で心をくすぐる魅力がある。日頃から意識して口にするくらい私にとって力のある言葉で、やる気エンジンをかけるときの鍵となっている。
今日は読んでいた小説に登場する氷出し緑茶を再現しようと試みた。原作の方法を完璧に再現できなくてもいい。こういうのはフットワークの軽さが大事だし、家にある物で工夫する過程が楽しい。
やり方は至ってシンプル。グラスに緑茶のティーパックを入れて、その上に氷をたっぷり乗せる。あとは氷が溶けてお茶の成分が染み出すのを待つだけ。
作業机にタオルを敷いてグラスを置く。陽の光できらめく氷が涼やかで、執筆中に目の端で少しずつ抽出されていく淡い色に静かな興奮を覚える。
本を手に取って付箋が貼られていたページを開き、甘味が増したお茶に驚く客の一文に期待を高めていく。
何度もグラスを傾けてカラコロと軽やかな音を楽しんでいると、旦那が声をかけてきた。
「低温でいいなら氷多めで水入れた方がもっと早く抽出できるんじゃない?」
わかっていない、まったくわかっていないよ!
待っている時間も楽しいんじゃないか!
その旨を伝えると旦那は、はいはい、と少し呆れた様子で立ち去った。彼なりに効率的な方法を考えてアドバイスしてくれたのはわかる。
きっと、あのキャッチフレーズに一言添えるならこうだ。
「やってみなくちゃ『そのときの気持ちは』わからない」
あの甘いお茶を味わいたい。それと同じくらい、小説に登場するお客さんの気持ちを味わいたかった。
今の世の中、ネットで検索すれば大抵のことは先人が体験していて、クリックひとつで結果がわかる。
でも、結果に辿り着くまでに得られる感情や感覚は試みた人だけの宝だ。
若い頃の私は与えたものを何も考えずに受け取り、ただ日々が過ぎるのを眺めていた。
確かに人並みの経験はしたけれど、心に残っているものは僅か。「人よりも経験が少ない」というコンプレックスはここから来ている。長い間ボーっと生きてきたと気づいた瞬間の落胆は凄まじく、今でも鮮明に覚えている。
どんな些細なことでも、他の人にとってありふれた出来事でもわくわくしていたい。
黄金色のお茶がグラスの半分まで溜まった。たっぷり汗を掻いたグラスをゆっくりと傾けて冷たい雫を口の中で転がす。甘さはほんの少しだけ、それ以上にまろやかな口当たりが心地よくて思わず目を閉じた。
やっぱり、やってみなくちゃわからない。