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2020年9月の記事一覧

「洗濯物」

「洗濯物」

洗濯物

自分のものではない洗濯物 を 干すとき

「今 あなたは生きている」
 ということよりも

「昨日 あなたは生きていた」
 という実感ばかり 強くなって

なんとなく もの悲しい

物干し竿に、
衣類を干す そのことが

あなたを 罪なく
置き去りにしている ようで…

「裏地」

「裏地」

言葉を着ます。

感性といった、
裸に似せた衣装を。

ときには
共感といった、
流行りに似合う言葉を。

結局のところ
顔が言葉から飛び出して
意味への勘ぐりによって窒息します。

「仕組み」

「仕組み」

人間って不思議だなぁ

はしゃいで 騒いでも、
寂しさや虚しさも健気についてくるんだもの

そして
自分のかっこわるい姿を思い出して
クスクス笑えるんだもの

十分じゃないか と言い張るこころと
なんか違うや と訝るこころで
自分という人間をあやつる つもりが
またもや とんちんかん!

そんな日もあれば
ひっそりと こころが満ちていくときもある

注いでも 注いでも
あさっての方向を向きながら 

もっとみる
「眠る犬」

「眠る犬」

その四肢は証明ではない。
かぎりなく心臓に吸いつき
私の黒目のように、余すことなく
瞬きに飲みこまれてしまいそうなのだ。

「寝相」

「寝相」

くすくす わらけてくる

布団からはみ出した足が、
身体からはみ出した 飾りのない
「思い」のよう で。

しくしく 泣けてくる

背中を丸めて ねむるとき、
この身が なにより大事である と
悲しくても 証明してしまう から。

真っ暗闇、

灯りは 胸のなかに あって
そのひとつを 抱えるように と

ぼくと寝相が 友だちになる ために

「水たまり」

「水たまり」

水を弾いてみる

水面に生じる波紋は
特別だよというように
わたしを揺らし
空も揺らしてくれた

わたしは飽き足らず
片っぽの靴底を浸して
乾いた道に
絵の具のように足あとを残す

特別だよというように

振り返ると、
取るには足らない、小さな足あとが
晴々とした空に
静かに のぼっていった

「本棚」

「本棚」

慣れたふうに
顔ぶれを眺めてたら

みえたのだ

ページを布団にして
眠っている しおりが…

ひょっとしたら
食べこぼしやら 虫やらも
紛れ込んでいるのかもしれない な

本のなかに

私の 不手際を
少しばかり、覚ます存在の
やさしさ で

「ふる」

「ふる」

反射的に放った

「素敵ね!」という言葉に

ひとり照れたあと

口の中を反芻する、

あめ玉のようなもの。

しばらくすれば

溶けて なくなるけれど

ああ 「ひとこと」が

季節らしい移ろいをみせて

降る ふる

渇いた喉元に 降る ふる

「日本語」

「日本語」

日本語が
手に使え 足に使えと言ってる

舌が 味をとらえ
私は「生」にしがみつく