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【人生最期の食事を求めて】

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【人生最期の食事を求めて】 この1回限りの人生において、A級・B級の分け隔てなく美味しい食事と幾度と出逢うのであろうか? そして、いつ来るとも解らない死の直前に何を選ぶのだろうか…
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#札幌グルメ

【人生最期の食事を求めて】空腹の限界突破がもたらす蕎麦の至福。

【人生最期の食事を求めて】空腹の限界突破がもたらす蕎麦の至福。

2024年9月10日(火)
正直庵(北海道札幌市南区)

明治時代の自然主義作家、島崎藤村の代表作『夜明け前』は、「木曽路はすべて山の中にある」という書き出しから始まる。
それに比すれば、札幌は約6割が森に囲まれている。
四季の移ろいは明確で、人口約200万人が暮らす街は世界でも稀であろう。
最近はヒグマの出没が頻繁に報道されるが、だとしてもこの大自然を間近にして暮らすというダイナミズムは、ここで

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【人生最期の食事を求めて】束の間の忘我を導く海鮮丼の魅惑。

【人生最期の食事を求めて】束の間の忘我を導く海鮮丼の魅惑。

2024年7月8日(月)
札幌海鮮丼専門店 すしどんぶり(北海道札幌市中央区)

オリンピックイヤーとは嫌悪を招く響きだ。
利権まみれの案件という意味では、その頂上がIOC絡みであろう。
しかしながら、チケット販売の進捗は極めて悪いという。
交通手段や宿泊施設を中心とした物価高やテロ発生のリスクといった問題も影響しているのかもしれない。
一方、スペインのリゾート地では観光客急増による弊害によって住

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【人生最期の食事を求めて】脂質欠乏の体内になだれ込む芳醇な肉の贅。

【人生最期の食事を求めて】脂質欠乏の体内になだれ込む芳醇な肉の贅。

2024年7月4日(木)
YAKINIKU和牛ラボすすきの店(北海道札幌市中央区)

中島公園からすすきのへと続く横断歩道を歩き過ぎようとした時だった。
濃紺の高級外国車が私の横断を無視し、私の目前を通り過ぎようとした。
少し歩を早めれば車に轢かれていてもおかしくはない。
もちろん、自ら轢かれにいくような犯罪行為はしなかったが、運転手を確認するといわゆる輩風の若い男性がスマートフォンを弄り続けてい

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【人生最期の食事を求めて】滋味深い鰻串の数々と多様性の社会への思慮。

【人生最期の食事を求めて】滋味深い鰻串の数々と多様性の社会への思慮。

2024年5月16日(木)
千松屋さとう(北海道札幌市中央区)

「うなぎの旬は、土用丑の日じゃないんだよね」
仙台市のとある鰻の蒲焼で有名な店に入った時、店の大将がつぶやいたエピソードである。
軽い衝撃とともに後に調べてみると、江戸時代の発明家である平賀源内が編み出したPR手法であることを知った。
その当時、夏場に売れない鰻を販売促進すべく、「本日、土用丑の日」という看板を出したことによって鰻屋

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【人生最期の食事を求めて】“知足”と“最後の晩餐”、そして“中庸”という新たな試み。

【人生最期の食事を求めて】“知足”と“最後の晩餐”、そして“中庸”という新たな試み。

240529_彩屋札幌駅前店(北海道札幌市中央区)2024年5月29日(水)
彩屋札幌駅前店(北海道札幌市中央区)

しばしば痛風発作に襲われる者にとって、血液検査は拷問であると当時に救済でもある。
その結果は、人生最期の食事を求めるなどできないほどにまで急激な悪化を辿っていた。

著名人の訃報を耳にする度毎に、まるであと何回桜を見られるのだろうと同じように、あと何食を食べられるのだろうという不安

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【人生最期の食事を求めて】ハンバーグとカットステーキが呼び覚ます青春とは?

【人生最期の食事を求めて】ハンバーグとカットステーキが呼び覚ます青春とは?

2024年4月7日(日)
クラーク亭北12条店(北海道札幌市北区)

いわゆる“ポストモダン”に彩られた1980年代。
その代表は思想家浅田彰を筆頭に、高橋源一郎や小林恭二、そしてもうひとり忘れてはならない人物が島田雅彦である。

芥川賞最多6回の候補に選ばれた末に受賞できなかったという逸話は有名だが、そんな作家の近著「散歩哲学:よく歩き、よく考える」が実に面白く拝読した。
当時、私にとってスター

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【人生最期の食事を求めて】すすきのの片隅で24時間営業の続ける気概と多様性。

【人生最期の食事を求めて】すすきのの片隅で24時間営業の続ける気概と多様性。

2024年3月15日(金)
名代にぎりめし(北海道札幌市中央区)

夜には夜の顔がある。
それゆえに昼間は見てはいけないのかもしれない。
そもあれ、私の好奇心は日ざかりの歓楽街に注がれた。

日中のすすきのは、化粧を洗い落としたかのような素肌を見せている。
其処此処に投げ捨てられたペットボトル、砂利の汚れを被ったマスク、昼過ぎにも関わらず街角で酒に酔い潰れて眠る若者たちの無惨な姿は、陽を浴びて曝け

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【人生最期の食事を求めて】葱の繁茂と濃厚な味噌スープが抱き合う時。

【人生最期の食事を求めて】葱の繁茂と濃厚な味噌スープが抱き合う時。

2024年3月13日(水)
喜来登(北海道札幌市中央区)

マスメディアにおいてもソーシャルメディアにおいてもラーメン熱は凄まじいものを感じるが、私には昔からラーメンに対する深い洞察力は皆無である。
自己解釈的には、ラーメンを“美味しい”と思うことはあっても“好きだ”ということはないのだ。

昨今、物価高騰によるラーメン店閉店ラッシュが深刻化している。
あくまでも私見だが、今や世界的なラーメンブー

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【人生最期の食事を求めて】ブロッコリーと牛たんが眠る欧風カレーという名の森。

【人生最期の食事を求めて】ブロッコリーと牛たんが眠る欧風カレーという名の森。

 2024年2月12日(月・祝)
欧風カリー ドモン(北海道札幌市豊平区)

遠い昔、私はノーベル文学賞作家であると同事に“二十世紀のゲーテ”とも言えるドイツの偉大な小説家トーマス・マンへの深い憧れと敬意を抱いていた。
「ブッデンブローク家の人々」、「トニオ・クレーゲル」、「ヴェニスに死す」を幾度となく読み直し、最高傑作「魔の山」に至っては文字通り寝食を忘れて読み耽った記憶が刻まれている。
一時期

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【人生最期の食事を求めて】上質な焼肉がもたらす自己解放と実存。

【人生最期の食事を求めて】上質な焼肉がもたらす自己解放と実存。

2024年5月14日(火)
炭火焼肉にく式すすきの店(北海道札幌市中央区)

“小さいことを積み重ねるのが、とんでもないところへ行くただひとつの道だと思います”という元プロ野球選手のイチロー氏が残した名言を裏返すと、不摂生の積み重ねが様々な病気を産み出す発端となり得る。
この1年間における私の痛風との格闘は、体質的な特性もあるだろうが不摂生の積み重ねが大きい。
しかも薬を飲み続けていても生じた痛風

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【人生最期の食事を求めて】焔の中から迸る肉汁と旨味の饗宴。

【人生最期の食事を求めて】焔の中から迸る肉汁と旨味の饗宴。

2024年4月29日(月・祝)
YAKINIKU和牛ラボすすきの店(北海道札幌市中央区)

日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、いわゆる先進7カ国(G7)の2024年における祝日は以下の通りとなっている。

アメリカ11日間
イタリア12日間
イングランド8日間
カナダ11日間
フランス11日間
ドイツ9日間
日本21日間

このデータからいかに日本が突出しているかが分かる。
敗戦後の復興によっ

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【人生最期の食事を求めて】無味乾燥の街で出逢うステーキランチの質感。

【人生最期の食事を求めて】無味乾燥の街で出逢うステーキランチの質感。

2024年4月3日(水)
ステーキレストラン がんねん(北海道札幌市厚別区)

いわゆる和製英語と呼ばれるものがある。
例えば【vitamin】は“ビタミン”ではなく“ヴァイタミン”であり、
【energy】は“エネルギー”ではく“エナジー”であり、
さらに踏み込めば“ノートパソコン”は“【laptop PC】ラップトップ・ピーシー)”と言わなければ通じない。
当然にして【steak】は“ステーキ

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【人生最期の食事を求めて】先験主義と混迷に陥るスープカレーの教訓。

【人生最期の食事を求めて】先験主義と混迷に陥るスープカレーの教訓。

2023年2月13日(月)
カレー リーブス(北海道札幌市豊平区)

なだらかな丘に似通った住宅と大学のキャンパス以外、これといった特徴のないエリアに訪れた。
路肩に堆く積もった雪は、都心部よりも心なしか多いように感じた。
受験シーズンのせいだろうか、学生の姿は皆無だった。
それに寒さも著しいがゆえに昼前とはいえ人の気配はなかった。

そこに意図して訪れたのは、スープカレーに精通した人物から札幌屈

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【人生最期の食事を求めて】札幌味噌ラーメンを代表する双璧的存在。

【人生最期の食事を求めて】札幌味噌ラーメンを代表する双璧的存在。

2023年3月17日(金)
麺屋 彩未(北海道札幌市豊平区)

“パンさえあれば、たいていの悲しみは堪えられる。”
と書き残したのは、古典文学の傑作のひとつ「ドン・キホーテ」を書いたスペインの作家ミゲル・デ・セルバンテスである。

それを現代の日本人に照らし合わせれば、ラーメンということになるのかもしれない。
さらに付け加えて現代の札幌民に照らし合わせれば、
“味噌ラーメンさえあれば、たいていの

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