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「My bookshelf〜時を探して〜」
「 My bookshelf 〜時を探して〜 」
X(旧twitter)のWeb企画、ペーパーウェル11(2023年9/30開催)の参加作品です。テーマは『 時計・時間 』でした。概要はこちら、
私は作品の配信と読者の両方で楽しませて頂いております。いつもは物語の短編で参加していたのですが、11回では趣きを変えて時計や時間に関する本を紹介しました。読書の薦めのような、書評のような、推し本語りをしたものです。5月下旬には12回目が開催されます。その前に前回の作品を載せたいなぁと思いまして、ゆるりと読みながらこんな本があるんだなぁ、ちょっと読んでみようかなぁと思っていただければ幸いです。
「新・四字熟語(懲役二秒)」 又吉直樹
【 懲役二秒 】ちょうえきにびょう
意味=凄まじく変態的なことを想像した瞬間、脳髄が揺れ、束の間なにかに捕らわれたように身動きが取れなくなる。
著者が新たな四字熟語を創作し、それに意味をもたせたもの。120作品収録。ずっとこんな調子で笑いっぱなしでした。心があったかくなって気軽に読める一冊。
「さよならは仮のことば(大人の時間)」谷川俊太郎
【 大人の時間 】
子供は一週間たてば
一週間分利口になる
子供は一週間のうちに
新しいことばを五十おぼえる
子供は一週間で
自分を変えることができる
大人は一週間たっても
もとのまま
大人は一週間のあいだ
同じ週刊誌をひっくり返し
大人は一週間かかって
子供を叱ることができるだけ
子供と大人の流れる時間は違う。谷川先生のユーモアというか、ひにくとういか、なんとも楽しい詩である。
「カレーの時間」 寺地はるな
ゴミ屋敷のような家で祖父と暮らすことになった二十五歳の孫の桐矢。きれい好きで性格もかみ合わない二人だったが、カレーを囲む食事の時間だけはわずかに打ち解ける。そんな祖父が、半世紀の間抱えてきた秘密とは......。
私が最近ハマっているのは、キーマカレー。凝った隠し味があるわけでもなく、いたってシンプルなものです。 この作品を読むと絶対カレーが食べたくなるので、カレーを準備しておくことをお薦めします。カレーってなんであんなに家庭ごとに味が違うんでしょうね。しかもうちのカレーが一番美味しいと思っている人が多いこと(私は思ってないが)。 家族の間で好みがあってもいい、嫌いでもいいじゃないか!
私はテーブルに、家族の人数分スプーンを並べている時間が幸せである。
「素直な狂気」 赤川次郎
赤川作品には他に感動ファンタジーの「午前0時の忘れ物」があるが、今回はこちらのミステリー作品を推します。
【 素直な狂気 】
最終電車が迫る真夜中、駅前で財布を失くした若者に三百円を貸したサラリーマンの松山。返さなくていいと言ったのにも関わらず(身元も言ってない)、後日その若者鈴木がお金を返しに現れた。だが松山は、受け取るわけにはいかない。何故なら松山はその日、上司の愛人に手を出して妊娠させたあげく、ある「罪」をその上司になすりつけるはずだったからだ。三百円を受け取れば、あの時間あの場所にいたという証明になってしまう。そのアリバイのために知らないと突っぱね続けるが……。
こんなややこしいことになるなら、三百円なんて貸さなければよかったのにと思うが、 罪を犯した者はイイコトしたくなるのが人間という赤川先生の巧みな人物描写と終電という慌ただしい時間帯を利用した見事なストーリー展開に脱帽する。短編集なので他の物語も楽しんでいただきたい。ときにユーモア、ときにシリアスと、赤川先生の作品は飽くことがない。
「プエルトリコ行き477便」ジュリー・クラーク/久賀美緒=訳
クレアは夫の暴力から逃れるために、その日会ったばかりの見知らぬ女性と身分と飛行機のチケットを交換する。だが、クレアの乗るはずだった飛行機がフロリダで墜落、彼女は死亡したことになり……。
ほぼ同時刻の航空券が、互いの運命を分けることになる。
クレアの現在とエヴァの過去、二人の視点で進む物語が終盤になるにつれて合わさっていく。
ラストのエピローグがとても印象的で、私は言葉をなくして「ああ……」と、カオナシのごとく、うめくことしかできなかった。泣いた。
「残り時間ゼロ。わたしは自由だ。」477 ページのクレアのこの言葉。この数字は意図したことだったのだろうか?
「陰陽師 (生成り姫)」 夢枕獏
【 生成り姫 】
時は平安時代、陰陽師安倍晴明とその親友源博雅が、都の魑魅魍魎と対峙する伝奇シリーズの長編作品。
『 丑の刻 (うしのこく) 』とは午前二時頃のこと。
丑の刻参りは、呪いの儀式としては超有名なお話。
その姿は白装束、口に五寸釘を加え、杉の幹に鉄の金槌で藁の人形を打ちつける。
「身に赤き衣を着には丹を塗り、髪には鉄輪を戴き、三つの脚に火を灯し怒る心をもつならば、すなわち神となるべし・・・」
徳子姫のその様子はどこか美しい。情念の深さと人間の哀しみがつまっているからか。また、特に晴明様と博雅様の結びつきが強くでている物語でもある。たまに晴明様は、この世に未練がないのか、都(現世)を去ってもいいと思っている節がある。何故浮き世にとどまり続けるのか、それは言わずと知れた博様がいるから。なんせ彼は妖に好かれる男である。葉二(はふたつ)という名の笛(これも鬼からもらったもの)を吹けば、ハーメルンの如く人を魅了し、妖のみならず幽霊までも付いてゆく。なので攫われそうになったり、夢の中に閉じ込められてしまったりと、そのたびに晴明が助けるのだが、それがなかなかに面白く、とてつもなく優しい博雅様をほっとけないのだ。そして彼といると、人の世も悪くないと思うのである。
形式的に晴明様が博様を救っているように見えるが、反してきっと逆なのだ。だからこそ、こんなにも愛された長寿シリーズなのだろう。
「河北新報のいちばん長い日 震災下の地元紙」河北新報社
3月11日 (金曜日) 14:46
大地が悲鳴を上げたのはそのときだった。
身の危険を感じ机の下に潜る者
揺れの凄まじさに身をすくませ動けない者
机に手をつき踏ん張る者
顔色を失い床にへたり込む者
不思議なことに、誰も叫び声をあげない。
「人間は本当の恐怖を感じると言葉を失うのだ」
被災者に寄りそった社員たちの全記録。
私は、翌日発行された3月12日の河北新報を今でも保存しています。忘れない 忘れられない時間。そのときのことを知りたければ、生活していた人もそうですが、そこで働いていた人にも聞くといい。何をしようとしたのか、何ができなかったのか、そして何に助けられたのか。家に備蓄はあっても仕事場にはないこともある。どちらかというと、学校もしくは仕事場の方が滞在している時間が長いのではないでしょうか?
「小川未明童話集(小さい針の音)」小川未明
【 小さい針の音 】
田舎の小学校で教師をしていた青年が、都会へいって、もっと勉強をし、出世したいと思い立つ。先生のことが大好きだった子供たちは、別れる前に少ないお金を出し合い、感謝と祈りを込めて懐中時計をプレゼントする。青年は大成していくが、今の装いに合わないからと、その時計を古道具屋へ売ってしまう。
子供たちの真心を捨てる行為に、人間のおごりが見るえて悲しくなるが、後に彼はその時計と思わぬ再会を果たす。未明童話は、純粋な子供たちへの慈しみと大人への忠告のようなものが多く、たった11頁しかないのにもかかわらず、沢山の感情が湧き立ってくる。
哀愁、望郷、そして愛情と童話のもつ魅力を存分に味わえる作品だ。
以上8作品のご紹介てした。
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ペーパーウェル11、テーマ『時計・時間』
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そのままでも読めますが、ペーパーウェルですのでぜひ印刷して紙でも読んでみてください。
とうぞ楽しい読書時間をお過ごしくださいませ。
My bookshelf 〜時を探して〜 幻ノ月音 | Booth 名も無き堂