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今夏、一番面白かった本       『トゥモロー・アンド・トゥモロー・アンド・トゥモロー』読書記録②

 NYタイムズの21世紀の100冊がきっかけで読んだ本。とにかく面白い。
あっという間に引き込まれ、読み終わった後も主人公たちのことを思い続けてしまう。

トゥモロー・アンド・トゥモロー・アンド・トゥモロー』ガブリエル・ゼヴィン著。



あらすじ

 ロサンジェルスの病院のゲームルーム。スーパーマリオブラザーズを巧みにプレイしている少年サムにセイディは出会う。サム12歳、セイディ11歳。それから毎日、二人はスーパーマリオブラザーズを一緒にプレイ。互いをそのまま受け入れる信頼が生まれる。

やがて、大学生になった二人はボストンで再会。サムはセイディにゲーム制作の才能を見出し、一緒にゲームを創ろうと彼女を誘う。サム、セイディ、サムの同居人マークスを加え、最強のチームが誕生する。

彼らは、次々とヒット作をそして失敗作を生みだす。そのなかで彼らは葛藤・衝突・愛・絶交を経験し、やがて静かに収束する。四半世紀にわたる3人の信頼と愛と友情の物語。


”愛について”の物語

 この本の中には素敵なフレーズがたくさんでてくる。その中の1つがこれ。「信頼と愛がなければ一緒にプレイはできない。」

一緒にゲームをするリスクは決して小さくない。自分を解放し、さらけ出し、傷つく覚悟が必要だ。
(中略)信頼と愛がなければ一緒にプレイはできない。

トゥモロー・アンド・トゥモロー・アンド・トゥモロー

恋愛の相手はいくらでも探せるが、一緒に何かを生み出そうと思わせてくれる相手はそう多くない

トゥモロー・アンド・トゥモロー・アンド・トゥモロー

「これは愛についての小説だ」と作者はあとがきに書いている。
恋人関係の愛を超える愛、友情の話。
こんな関係の友達なんて、そうそう出会えるものじゃない。


”働くことについて”の物語

「これは働くことについての小説だ」とも作者は書いている。

彼らのゲームは大ヒット、次に何を作るかで意見が分かれる。
反対を押し切ってゲームを作ったセイディは、
売れ行きが伸びずに落ち込む。
そんなセイディをマークスは根津神社千本鳥居に連れてゆく。

鳥居を一つずつゆっくりとくぐった。
初めはとくに何も感じなかったが、
やがて胸の奥で何かが開き、
新しい空間が広がっていくのを感じた。(中略)

また一つ鳥居をくぐる。

ゲートとはそもそも何か。
通過点だとセイディは思った。次への入口。その先に知らない世界が開けているかもしれない。扉をくぐり抜けた先で、成長のチャンスが待っているかもしれない。

トゥモロー・アンド・トゥモロー・アンド・トゥモロー

 セイディは自分が作ったゲームの失敗を、終点ではなく、ゲートからゲートをつなぐ無数の空間のなかの一つにすぎないとわかる。

そう。働いていると、成功もあれば失敗もある。でも、そこで終わるわけではない。成功も失敗も、1つの通過点にすぎない。

「”明日、また明日、そしてまた明日”だ。無限の生まれ変わり、無限の贖罪の可能性だよ。プレイを続けてさえいればいつか勝てるという希望だ。」

トゥモロー・アンド・トゥモロー・アンド・トゥモロー

マークスが語った言葉。
「明日、また明日、そしてまた明日」は本書のタイトルだ。
シェイクスピアの『マクベス』で夫人が死んだことを知ったマクベスが茫然と語る”明日という日の連続”は、本書では希望なのだと語る。
なんてすてきな。


”いろんな観点から楽しむ”物語

 この本は読み手の関心によって、いろんな観点から楽しめる。
私はこんな観点で楽しんだ(そして年表と地図を作った)

  1. ビデオゲームの変遷
    主人公たちは1975年生れ。サムとセイディがプレイしたのはスーパーマリオブラザーズ。ドンキーコング、たまごっちから、動物の森まで数多くのゲームとゲームデザイナーの名前が登場する

  2. 日本カルチャーの影響
    数多くの日本の文化がでてくる。
    葛飾北斎の神奈川沖浪裏、葛飾応為の夜桜美人図、能、奈良美智、村上隆、ジブリ、AKIRA、攻殻機動隊などなど。

  3. 人種と文化
    サムの父親はユダヤ系、母親はコリア系アメリカ人、
    マークスの父親は日本人で母親はコリア系アメリカ人
    セイディの両親はユダヤ系。
    この小説にはそれぞれの人種につながる文化が数多く出てくる。

終われない本《OurInfiniteDays》

この小説は、
「あっという間に引き込まれ、
 読み終わった後も主人公たちのことを思い続けてしまう」物語。

読了した後も、
一節を思い出して確認したり、あの場面をもう一度、
と読み返している。
きっと、これからもきっと手に取るだろう。
あなたもぜひ♪








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