ご近所さんのおすそわけに深く感謝した日
「たけのこ、ついに頂いたわよ!」
そう言って母が息せき切って帰ってきたのは一週間ほど前のことだった。そのままわーわーと二人で手を取って喜んだ後、一気に冷静に戻って会議が始まった。
「何にする?」
「とりあえず定番のたけのこご飯に一票」
にやりとして私が呟くと、母も同じような表情をして頷いた。
「そうよね。あとは若竹汁?」
「それも外せないね」
「あとはー…」
二人で虚空を見上げて考え続ける。頂いたたけのこは既に茹でてあって、おそらくはそんなにもたない。そんな事情を踏まえて考えてみると我が家に伝わる秘伝のレシピはあれしかない。
「「メンマ!」」
見事にシンクロしたその答えはすぐに笑い声に混じって消えた。
我が家はたけのこが好きすぎる家庭と言っていいと思う。一年の中で最も楽しみにしているのが春のたけのこだ。それも売っているたけのこではなくてご近所さんからもらえる本当の意味で採りたてのたけのこがいい。
この春はタイミングがいろいろずれてしまっていて、なかなかたけのこを得ることができなかった。たまらず母はスーパーにたけのこを求めに行ったが、やはりそこは売っているたけのこ。
母はどこか物足りないような顔をしていた。
おすそ分けで頂くたけのこはとにかくやわらかくておいしい。うちの母はとにかくそういったところにこだわりがあるので、スーパーなどで売っているものではなかなか合格点が出ない。
さすが、グルメな人の多いおうし座生まれの人は格が違うと思う。誰かに教わってもいないのに何故かおいしい食材を見極めてくる。実際にネットで調べてみて、選ぶコツが母の言う通りだった時は驚いたものだ。
今は私も何となくわかってきたものの、やはり母には及ばない。
母はルンルンとしながら台所へと入っていき、一時間もすればおいしいメンマが出来上がったわよと手招きする声が聞こえる。
さっそく味見した私だったが…。
「からっ!」
「えっ!?」
「これラー油多くない?」
「あ、レシピ通り作っちゃった。ごめんね」
残念ながら私はかなりの甘党だ。普段は唐辛子やカレー粉などの量も半分にしてもらっている。そのままの量で作ったら私には多すぎてしまうからだ。
私はがっくりと肩を落とした。
「くっ…私の分のメンマが…!」
泣きそうな勢いでしょんぼりしていると、母がふと思いついたのかとんでもないことを言ってきた。
「洗ってみたら?」
「えっ!そんなことしたら味もなくなっちゃうよ」
「まあ、物は試しということで」
ということで洗ってみた。ちょっと味が薄くなったメンマがそこにはあったが、食べてみると元々濃い味付けなので食べられなくもない。
「これをラーメンとか味が濃いものに入れれば?」
「メンマとして…食べられる?」
だけど、やっぱりだめだった。
水っぽいメンマと濃い目の醤油のスープ、そのギャップがどうも受け付けない。たけのこがもっとスープを吸って、味がいい感じに混ざってくれるのを期待していたのだけど。
これで今年の分のメンマは無理か…と絶望していたら、なんと今さっき別のご近所さんが訪ねてきてたけのこを下さったという。
神は本当にいるんだと思った。
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