パラドックス思考 ─ 矛盾に満ちた世界で最適な問題解決をはかる(2023/3/1)/舘野泰一・安斎勇樹【読書ノート】
VUCA(ブーカ)とは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)という4つの単語の頭文字をとった言葉で、目まぐるしく変転する予測困難な状況を意味します。
【マインドマップで解説】パラドックス思考
この記事では、「パラドックス思考」という概念について解説します。
パラドックス思考は、矛盾した問題を解決するためのアプローチです。
パラドックス思考の概要
パラドックス思考は、矛盾に満ちた課題を解決する方法です。
この方法は、犠牲を払う必要のない、Win-Winの解決策を見つける手助けをしてくれます。
パラドックス思考の3つのレベル
感情パラドックスを受容して悩みを緩和する:異なる感情の矛盾を受け入れ、緊張を緩和します。
誕生パラドックスを編集して問題の解決策を見つける:新たな解決策を模索し、問題を改善します。
感情パラドックスを利用して創造性を最大限に高める:矛盾をクリエイティブなアプローチに変えます。
パート1: 理論編
第1章: パラドックス思考とは何か
現代社会は複雑な問題に満ちており、パラドックス思考はその解決に役立つ。
パラドックスとは矛盾した状態や逆説を指す。
第2章: パラドックスを生み出す心の構造
感情パラドックスは、異なる感情の矛盾に由来し、解決が難しい。
心の構造と動機の構造によって感情パラドックスが発生する。
第3章: パラドックスを生み出す世界の構造
現実の世界も矛盾に満ちており、特に組織や社会において顕著。
資本主義と民主主義など、異なる価値観が共存し、矛盾を生む。
第4章: パラドックスの基本パターン
感情パラドックスの発生には5つの基本パターンがある。
それぞれのパターンは異なる状況で起こりやすい。
結論
パラドックス思考は、矛盾を受け入れ、新たな視点から問題にアプローチする方法です。感情や社会の矛盾に直面するとき、このアプローチを試してみることで創造的な解決策を見つける手助けになるでしょう。
矛盾する感情との向き合い方
あなたは過去に、相反する感情を持つ瞬間があったのではないか。例えば、「上からの指示を通したいが、下からの意見も積極的に聞きたい」
「フリーランスとして自由に活動したいが、会社勤めの安定も欲しい」
この「パラドックス思考」というのは、このような感情の矛盾を中心に、難しい問題の解決策を提案している。感情パラドックスというのは、相反する感情AとBが同時にあり、どちらを選べばいいのかわからない状態を言う。
本書の著者は、リーダーシップに関する研究をしてきた舘野泰一氏と、人や組織の創造的な活動をテーマにしてきた安斎勇樹氏である。なぜ感情パラドックスは発生するのか?どう対処すればよいのか?本書は、これらの矛盾への取り組みが集約されたものだ。
新しいアプローチとして、「矛盾」を排除しようとするのではなく、あえて取り入れて、それを活用して創意ある解を探るプロセスを提案している。シンプルな「AまたはB」という考え方を超え、「AとB」または新たな選択肢Cを模索することの魅力を伝えている。パラドックス思考の適用範囲は、アイディアの創出、キャリア形成、組織のマネジメントと多岐にわたる。矛盾の中で進むべき方向が不明瞭な人々へ、この本を強く推薦する。
本書の主旨
パラドックス思考の核心は、困難な問題に立ち向かった際、矛盾している2つの感情を明らかにすることだ。
パラドックス思考には三段階が存在する。第一段階では、感情の矛盾を理解し、悩みを軽減する。第二段階では、感情の矛盾を整理し、解決の道を探る。第三段階では、感情の矛盾を活用し、創意を引き出す。
私たちは「面倒だけど、魅力的な存在」であり、自分の欲望を愛らしい点として認めることで、安心感を得られる。
パラドックス思考とは?
現代の「複雑な課題」
現在、VUCAという言葉で時代を形容するが、その核心は今何が進行中なのか、そして未来がどうなるかの不確実性にある。この中で、複雑な問題に対応しなければならないプレッシャーが、感情の混乱を引き起こす。
未来の選択が不明瞭で、自身の感情と上手く向き合えない状態で、私たちはさまざまな対立に直面する。この対立の中心に注目することで、「複雑な問題」へのアプローチとして「パラドックス思考」を本書で紹介する。
感情の矛盾とは?
パラドックスには、「対立する状況」や「逆説」などの意味があり、論的な矛盾と感情の矛盾の二つに分けられる。論的な矛盾は、問題の背後にある対立する主張AとBがあり、一方を選ぶと論理的な答えが出ない状態を示す。
一方、感情の矛盾は、問題の背後に対立する感情AとBがあり、一方の感情を優先すると納得感のある答えが出なくなる状態を示す。
本書で説明するパラドックス思考の鍵は、論的な正確さよりも、人間社会の特有の感情の矛盾に焦点を当てることである。重要なのは、複雑な問題に直面した際、先に矛盾している二つの感情を探し出すことだ。時として、人間は自分の認識や現実の認識を曲げて、矛盾を無視しようとする。この性質は認知的不調和と称される。認知的不調和は、矛盾からくる不快感を自動的に回避する反応として現れる。「Aがやりたいけれど、実際はBもやりたい」という欲求を認め、解決策を模索する。これがパラドックス思考の基本的な姿勢である。
パラドックス思考の段階1: 理解する
パラドックス思考には三つの段階が存在する。
段階1:感情の矛盾を認識し、悩みを軽減する
段階2:感情の矛盾を再構築し、問題解決の策を見出す
段階3:感情の矛盾を活かし、創造性を向上させる
各段階でどのような行動をとるのか、広告業界のプランナーの30代の女性の事例を考えてみる。彼女は仕事に満足しつつも、もっと自由に働きたくて独立を選択した。しかし独立後、経理や事務のタスク、新しいビジネスの取得など、多岐にわたる業務を担当することになった。専門分野だけを任されていた時代が良かったのではと考えるようになった。
このケースで、段階1では、自分の中に対立する欲求が存在することを受け入れる。感情A「束縛されずに働きたい」という感情と、感情B「適切な指導を受けたい」という対立する感情を認識し、受け入れること。基本的に、人間は「手間がかかるが、魅力的」という特質を持つ。自分の欲求を愛らしさとして受け入れると、気持ちが安定する。
段階2: 両立を目指す
次に、パラドックス思考の段階2では、感情の矛盾の原因となる感情AとBを深掘りし、問題の解決方法を模索する。感情AとBの関連を「犠牲にする物語」から「共存する物語」へとシフトさせることを目指す。具体的には、仕事の自由度を追求するとき、どのような価値観や条件が大切だと感じるのか、あるいは、専門分野に集中することの真価とは何か、を深く探る。このフェーズでは、外部の視点や助言が必要であり、専門家や信頼できる友人の意見を求めることも役立つ。
段階3: 創造性を向上させる
最後に、パラドックス思考の段階3では、感情の矛盾を創造的な活力の源として捉える。これは、矛盾している感情AとBが、同時に満たされる新しい解決方法やアイディアを生むための触媒となるという考え方だ。例えば、自分の専門分野の深化と仕事の多様性の間のバランスを見つけることで、新しい働き方やサービスを提供する可能性がある。
パラドックス思考は、感情の矛盾を前提とし、その矛盾を価値あるものとして捉える新しい思考法である。感情の矛盾を活かし、新しい解決方法やアイディアを生むための手法として、私たちの日常生活やビジネスシーンでの応用が期待される。
本書では、現代社会の複雑な課題に立ち向かうための、新しい思考法として「パラドックス思考」を提案している。私たちが直面する様々な矛盾や対立を、新しい価値あるものとして捉え、それを活用して前進するためのツールとして活用することを提案している。
パラドックス: 創造性のエッセンス
レベル3のパラドックス思考は、予期しない価値を生むために感情のパラドックスを戦略的に適用することを目指す。
感情のパラドックスは、個人や集団のクリエイティブなアイディアの根源となる。その理由は、このパラドックスの深い理解を通じて、人間の深層心理にアクセスするアイディアが生まれるためだ。さらに、アイデア制作者のこのパラドックスを"活性化"することで、既存の考え方を挑戦することが可能になる。
例えば、女性のケースを見ると、企画職の重要性について深く探ると、「他人のために価値のある企画をしたい」という欲求に目が向く。レベル3のアプローチでは、この欲求を感情Aとして、意図的に疑問を投げかける。感情Aと対立する「誰にも価値のない企画を作りたい」という感情Bを生成して、キャリアに取り入れることで、新しいアートスタイルや意外なスキルを磨くチャンスが生まれる。つまり、パラドックス思考では、感情のパラドックスの受け入れと適用が鍵となる。
パラドックスの基本モデル
心が乱れ、素直になれない状態
第2章と第3章では、精神、動機、組織、社会の構造から、感情のパラドックスの起源を詳しく検討している。第4章では、これらの構造を元に「5つの主要なモデル」を示している。
モデル1 素直↔︎天邪鬼
モデル2 定常↔︎変動
モデル3 大局視↔︎短期視
モデル4 もっと求める↔︎十分
モデル5 自己中心的↔︎他者中心的
モデル1を例にすると、本心の素直な欲求とそれに逆らう天邪鬼な欲求の間で感情のパラドックスが生じるモデルである。このパラドックスは、好意や憧れなどの前向きな感情があるにも関わらず、その願いが叶わないリスクを恐れて反対の感情を持つことから生じる。
例えば、あるリーダーは、部下に積極的に権限を委譲したいと思っているが、部下がうまく仕事を進めていることを認められない。結果として、部下に過度な要求をしたり、仕事の誤りを即座に取り上げる傾向がある。これは素直↔︎天邪鬼のパラドックスの一例である。
パラドックスを理解し、困惑を和らげる
感情のパラドックスに気付いて「メタ認識」する
第5章からは、パラドックス思考の実践的アプローチが始まる。この章で紹介するのは、レベル1の「パラドックスを理解し、困惑を和らげる」方法と注意点である。
問題が難しい最大の理由は、自分がどんな感情のパラドックスを背負っているのかに気付いていないことである。この受け入れは、問題解決の最初のステップとして重要である。
ある大手企業の課長である40代の男性Aを例にすると、彼は会社に約15年専念してきたが、新しく入社した20代の部下とのコミュニケーションに問題がある。部下は社交的だが、定時になると仕事が終わっていなくてもすぐに退社する。この部下の軽やかさに対して、Aは早退を許容するか、厳しく指導するかで悩んでいる。
しかし、Aが自身の感情のパラドックスに気付くことで、彼の悩みは和らぐことができる。Aは部下を信頼して自由にさせたいという欲求と、部下を管理することで結果を出したいという欲求の間で引っ張られている。
この章で重要なのは、感情のパラドックスを「メタ認識」することである。これは、自分の内面の矛盾した感情や欲求に気付くことを指す。