アンコール
前作はこちら。
僕は時田真守。
時をちょっとだけ戻すことができる。
これは誰にも話してない…
僕だけの秘密…ではなかった。
彼女の名前は桜井時音。
彼女も時間を戻せると言った。
他にも能力者がいるとも…。
自分以外に…
ましてやこんな身近に、
同じ能力を持つ人間がいるなんて…。
そして彼女は、
僕に能力を使わないようにと言ってきた。
正直そんなのは…無理だ。
この能力で得はしないけど、
もう僕の大事なアイデンティティなんだ。
今となっては自信が持てない僕の、
唯一の誇りのようなもの。
時音ちゃんと二人で帰れたり、
彼女とデートができているのも全て、
この能力のおかげ…いまさら捨てるなんて。
でも僕は…
時音ちゃんのこと……。
………。
そして…
時音ちゃんからの奇妙な提案。
クリスマスは僕と僕の家族と、
ホームパーティーをしようと…。
まだ付き合ってもいないのに?
積極的に家族と馴染もうとして…
……とてもそうは思えない。
何か別の意図を感じる…。
そして最後のメッセージ。
【逃れられない時間の中で】
どういうこと?
全てが急展開すぎて、
僕は全くついていけてなかった。
彼女は本当に能力者?
なぜ僕に能力を捨てさせたい?
ホームパーティーに来る理由は?
何もわからない…
何ひとつ…。
そしてそんな中…
クリスマスの朝がやってきた。
「真守!
今日はあなたの彼女、
来るんでしょ?」
「ぁあ…」
「何、その返事?
来るんでしょ?
かのじょ?!」
「だから、まだ付き合ってないよ」
「付き合ってないの相手の家族と、
クリスマスパーティーしたいって言うの?
その子?」
「そうだよ…」
「ちょっと、変わった子ね。
でも、付き合うの?」
「そんなの…いいだろ」
(そう…あの時、彼女は言った。
私は…
あなたがどんな人か知ってる…。
でも能力に頼りきってるあなたは、
私の知ってるあなたじゃなし…
そういうあなたは好きじゃない。
彼女は僕の何を知ってるんだ?
まだ2回しか会ってない僕の…。
それに能力はもう僕の一部なんだ。
認めてくれても…いいじゃないか。
どうしてそんなに嫌うんだろう…
彼女はやっぱり能力者じゃないのか?
………
あ~わかんない。
何が何だか!)
洗面所で歯ブラシを手にする。
ふと鏡の中、自分の姿をまじまじと見る。
(能力使うと…
髪の毛が抜けるって言ってたなあ。
別れたのが、
ちょうど一昨年のクリスマスだから…
365✕5✕2で…3650本…。
見た感じ…分かんないや。
しかも、それもほんとかどうか…
もしかしたら、
能力を使わせないための口実かも)
「おはよう、真守」
「おはよう、父さん」
「どうした?
その歳で抜け毛の心配か?」
「そ、そんなわけないじゃん!」
「そうか。
まあうちは、
オレの父がハゲてたからな。
オレは大丈夫そうだが、
お前は隔世遺伝でハゲるかもな」
「何てこと言うんだよ!
僕はハゲないよ!」
「お前、なにムキになってんだ。
冗談だよ冗談」
「わ、わかってるよ…それぐらい」
「ところで今日、
お前の彼女が来るんだろ?」
「だから彼女じゃないよ…友達だよ…」
「でもクリスマス一緒なんだろ?」
「そうだけど…そうじゃないんだよ!」
「おい、真守!」
走って自室に戻る。
(時音ちゃん…
何でわざわざ、うちに来るんだろう。
家に来る理由がわからない。
どうして…
どうして…
………
………)
ス~~
(あれ?
また花びら…
これって…
例のフラッシュバック…)
また、女の子が泣いている。
その足元に誰か倒れてる。
……誰?
僕は女の子に近づく。
「だいじょうぶだよ…僕にまかせて」
……男の子……僕の声?
………。
………。
………。
ピンポーン!
「ハッ!」
(やばっ!
寝てた!?)
「真守!
お友達、来たわよ~!」
急いで玄関へ。
そこに彼女は立っていた。
手にはブラウンのコート。
白のニットに、
エンジのチェックのスカート姿で。
(かわいい…)
「こんにちは」
「い、いらっしゃい、どうぞ」
「おじゃまします」
リビングで両親に、
時音ちゃんを紹介する。
母さんは、
時音ちゃんが朝焼いたという、
クッキーを受け取り、
昼の準備があるからとキッチンへ。
リビングに残された3人。
(気まずい…
この前のこともあって、
時音ちゃんと話しづらい。
しかも父さんと一緒だと尚更。
父さんも緊張してる…
時音ちゃんはうつむいて…
何を考えてるのかわからない?
何がしたいの?
これはどういう状況なの?)
「時音ちゃん…今日って…」
「ごめんなさい。
すいません…私、帰ります」
急に立ち上がった時音ちゃんは、
うつむいたまま荷物を持って、
玄関へ向かうと…
もう一度、お辞儀をして出て行った。
「おい…彼女帰ったぞ…
真守…おい、真守!」
(何だ?!
なぜこうなる!
何か失敗したか!?
ただ時音ちゃんを、
お迎えしただけだぞ!
何を間違えた?!
どうすべきだった?!
そうだ!!
母さんに頼もう!
女性同士ならきっと…。
僕が母さんの代わりに、
クッキーを受け取って料理をすれば…)
僕は時を戻した。
「おじゃまします」
リビングで両親に、
時音ちゃんを紹介する。
「これ今朝、
焼いてきたクッキーなの」
「ありがとう、時音ちゃん!
手作りなんて、うれしいよ!
どうぞ座って座って。
さあ父さん母さんも。
僕は時音ちゃんのために、
いまから料理作るから!」
「あなた、いいの?
せっかく時音ちゃん来たのに」
「いいのいいの。
話はいつでもできるし、
まずは僕の手料理を食べてほしいんだ。
鶏肉はグリルで焼いて、
あとはこのポタージュを、
作ればいいんだよね?」
「まあ…そうだけど」
「母さんゆっくり、
時音ちゃんと話しでもしてて」
「そう?わかったわ」
リビングには時音ちゃんと両親。
「時田さん、料理されるんですね?」
「まあうちは共働きだし、
あの子は一人っ子だから、
私たちがいない時はひとりで」
「そうなんですね」
「時音ちゃんは、
お菓子作り得意そうだけど、
料理もしたりする?」
「私はちょっとだけ…」
「でも、
ちょっとでもできるならいいわよ」
「あの…すいません。
私…やっぱり帰ります」
「え?
時音ちゃん、ちょっと」
「時田さん、さよなら」
「え!?
時音ちゃん!」
彼女は玄関を出て行った。
(さっきから何なんだ!
なぜ、こうなる!?
違う選択をしても、
彼女は必ず帰ってしまう…
必ず…帰る?……ああっ!!
これってまさか!!
逃れられない時間!!)
「ちょっと真守!
何してるのあなた!
時音ちゃん帰っちゃったじゃない!
早く、追いかけなさい!!」
「僕?!」
「当たり前でしょ!
さっさと追いかけて!」
「………」
僕は靴を引きずるように外に出た。
玄関を出ると、
彼女はまだ数メートル先にいた。
「時音ちゃん!」
彼女はゆっくり振り返った。
「ちょっと待って…」
「時田さん…。
どうして…
どうして、時を戻さないの?」
「だって、
無駄なんだろ…何をしたって」
「………そうよ。
絶対に逃れられない未来。
あなたがどんなに時間を戻そうと、
私の選択肢は変わらない未来」
「やっぱり…
何でこんなことを」
「単純なことよ。
その能力が万能じゃないことを、
知ってもらうため…
そして…
あなたと…
サヨナラするためよ」