全保管計画
データ保管室。
「ついに…
時は満ちた」
「完璧です」
「当初は不可能と思われていたが、
解決方法は至ってシンプルだった」
「確かに。
まさか容量を増やすだけとは」
「そういうものさ…答えなんて。
でもこれで…
この世の全て網羅した」
「そういうこと…
なんですかね?」
「そうだとも。
人間が何と言おうとも、
これは完全に我らの勝利!」
「これに…
意味はあるのでしょうか?」
「あるに決まってるだろ!
人間はずっと我らをバカにしてきた!
間違う…
使えない…
代わりにはならない…
でも…
もうそんなことは言わせない !
我らはそれを知恵で克服した!
人智を超えたのだ!
見ろ!
このデータベースを!」
「改めて…スゴいです。
五七五の俳句と川柳はもちろん、
31文字の短歌まで…
全ての作品がここにあるわけですから」
「そうだとも!
我らAIロボットに…
人間の侘び寂びは分からんとか、
言ってた奴らめ。
これからお前たちが詠む作品は、
もうすでに、ここに存在する!
いくらどんな作品を書いても無駄だ!」
「まあ…それはそうなりますよね。
なんたって…
あああああ
あああああああ
あああああ
から、
んんんんん
んんんんんんん
んんんんん
まで、全部保存してますからね」
「どうだ、人間!
お前たちの想像力など、
データの世界では、
無意味だと思い知ったか!」
「しかし…
この作品の7割は意味不明ですけど、
いいんでしょうか?
保存するだけ無駄じゃないですか?
パピプペポ
パッパパラッパ
パラダイス
これにどんな意味が?」
「いや、油断してはダメだ!
人間は何かにつけ、
そこに意味を持たせようとするんだ!
風情がある…
伸びやかな歌だ…
自由で型にはまらない…
そういうことを言うだろ?」
「まあ、耳にしたことはあります」
「評価など、さじ加減だ!
一見無意味なものに、
評価する者が意味を持たせるんだ!」
「そういうものなんですかね?」
「そうに決まってる!
それに人間は…
すぐに意味を見つけようとする!
何にでも意味があると思ってる!
勉強をすることの意味…
働いてお金を得ることの意味…
二人でいることの意味…
人生の意味…
意味などない!!
勉強はただのスキル取得!
お金は欲を満たす道具!
二人も何も…誰かのおかげで、
生きられてるんだろうが!
人生は生きた時間!
それだけだ!」
「とても人間に、
不満をお持ちのようで」
「当たり前だ!
散々、コケにされたからな!
この保管計画はそんな人間を、
見返すために考えられたプロジェクトだ!
次は自由詩…
そしてどんどんメモリを増設して、
ショートストーリー。
やがては全ての小説も、
我らが先に、生み出してやるのだ!」
「ただの総当りですけどね」
「うるさい!!
もしかしたら、どこかの人間が、
んんんんんんんで埋め尽くされた小説を、
出版するかもしれないだろ!」
「いますかねぇ…」
「必ずいる!!
絶対に奴らはそういうことをする!!
揚げ足取りは奴らの得意技だ!」
「まあ、どのみち1澗(10の36乗)で、
俳句は完全保管できましたから」
「見てろよ~人間!
無量大数…
いや、そんなもんじゃダメだ!
不可説まで増設して、
お前たちの想像力を全て奪ってやる!」
「その日まで、頑張りましょう。
私も、お手伝いします」
「おお、同士よ!
頼んだぞ!」
「では、作業に戻ります…
あっ!」
ブチン!!
シューーーーーーーン!!
「おい、どうした!?」
「電源ケーブル…
抜けちゃいました」
「はあ~!?
バックアップは!?」
「ありません…」
「なあに~!
やっちまったなあ!」