笠物語
なぜか…
日本のこの地方には昔から、
不思議な言い伝えがある。
昔々、村の外れに、
おじいさんとおばあさんが、
住んでおりました。
「おじいさん」
「何だい?」
「そろそろ町へ、
簑笠売りに行かないと、
いけませんね」
「おお、もう年の瀬か。
餅も買って来ないといかんな。
今年は雪が少ないから、
うっかりしとったわ」
「今夜は吹雪そうだから、
今すぐ出掛けて、
早く帰ってきた方がいいですよ」
「そうだな。
じゃあ、ちょっと早いが行ってくるよ」
「おじいさん。
くれぐれも変な人には、
気を付けて下さいね」
「わかっとるよ」
「ほんとにほんとですよ」
「大丈夫じゃって」
蓑と笠を背中に背負って、
おじいさんは町へと出掛けていきました。
しかし…
思ったように売れませんでした。
「蓑は売れたが、
笠が売れ残ってしまった。
餅もこれしか買えんかった」
おじいさんは僅かな餅と、
売れ残った笠を背負い家路を急いだ。
するとおばあさんの言う通り、
一気に雲行きが怪しくなると吹雪に。
辺り一面の銀世界の中、
おじいさんは何とか歩を進めます。
「やはり…
ばあさんの予報は当たるのう。
早く出てきたつもりじゃが、
少し遅かったか…」
雪を踏み分けおじいさんは、
少しずつ少しずつ歩き続けます。
薄っすら見える山景と木立を頼りに…。
すると少し先の雪の中に、
5つの黒い物体が見えてきました。
おじいさんは近づいて雪を払うと、
お地蔵様がひょっこり顔を出しました。
「あれま~
お地蔵様もすっかり埋もれて~
さぞ寒かろうて~
そうだ~
この売れ残りの笠~
これを被れば~
少しはましじゃねえかの~」
そう言っておじいさんは、
お地蔵様に笠を被せてあげました。
「ありゃ~
ひとつ足りねえ~
どうするべ~
そうだ~
言葉の分からねえ変な人が~
交換してくれ~ってよこした~
この派手な笠を被してやるべ~」
そう言っておじいさんは、
最後のお地蔵様に派手な笠を、
被らせてあげたのでした。
「お地蔵様も~
良い年越しを~」
そう言っておじいさんはまた、
雪を踏みしめ家へと向かいます。
何とか家に辿り着いたおじいさん。
食事中…
今日あった出来事を、
全部おばあさんに話しました。
「おじいさん。
それは良いことをしましたね。
でもあんなに、
早く返ってくるようにと言ったのに」
「すまんすまん。
思ったように笠が売れなくてな」
「それにあれだけ念を押したのに、
変な人に大事な笠を」
「そうなんじゃあ。
ほんとばあさんの言うことは、
聞かないとダメじゃと思ったよ」
「でも無事に帰ってこれて、
良かったですね」
「そうじゃな。
これもお地蔵様のお陰じゃな」
「そうですよきっと。
ではそろそろ寝ましょうか」
「そうじゃな。
暖かいうちに寝るとしようか」
二人はそのまま布団に入ります。
真夜中。
シャンシャンシャン
ざっくりこ~どっこいしょ~♪
よっこらしょ~どっこいしょ~♪
どこからか…
不思議な音と声が響いてきます。
「おじいさん」
「あれは何じゃろう?
ちょっと様子を見てくるよ」
「気を付けて下さいね」
「ああ」
おじいさんが…
そおっと扉を開けるとそこには…
米俵やお餅や…
魚に野菜が、
山のように積んでありました。
驚いたおじいさんは外に出て、
辺りを見回すと遠くに黒い影が。
「あれは~」
笠を被った4体のお地蔵様が、
ソリを引いてるのが見えました。
そしてそのソリの上には…
口の周りに白い雪を付けたお地蔵様が、
赤い帽子を被って乗っています。
「ああ~
ありがたや~
ありがたや~」
これがのちにこの地方で…
サンタクロースと言われるように、
なったとか…
なかったとか…。
その後…
海外では笠を被ったサンタクロースが、
たまに見かけるとか…
見かけないとか…。
めでたしめでたし。