親ガチャの真実
前回はこちら。
また来てしまった、
ショッピングモール。
別にもう一度、
ガチャを引こうというつもりじゃない。
でも買い物ついでに近くまで来ると、
覗きたくなる…。
ガチャコーナーは相変わらず、
外国人観光客で賑わってる。
「あれ?お客様?
この前はどうも。
またガチャを引きに来たんですか?」
「あっ、店員さん。
いやいや、それはないです。
この前、帰ってから、
まあ、ほ~んと!
大変だったんですよ!
ド派手な服のおじいちゃんと、
永遠の20歳というおばさまを、
連れて帰ったんですから!
両親に親ガチャ説明すんのも、
ひと苦労でしたし…。
久々に、ガチで怒られました!
小学校以来です、
あんなに怒られたの」
「そうでしょうね。
お持ち帰りされる方、
お客様が初めてですから」
「え?!
やっぱりそうなの?!」
「そうですよ。
みなさん無料で引かれますけど、
あなた以外はみんな返人です。
あっ、クーリングオフってやつです」
「景人に返人って、
品を人に言い換える設定は、
しっかりしてるんですね」
「まあぶっちゃけると、
こちらは翌日には、
返しに来られると思ってました」
「やっぱり!
いや、家に帰って親に怒られてから、
気付いたんですよ~。
でも夜遅いからって、
その日は二人を泊めて、
翌日、返しに行こうって、
話にはなったんです。
そしたら朝起きたら、
二人ともすっかり馴染んでんの。
母ちゃんと芳恵さんは馬が合うのか、
一緒に料理しながらバカ話してるし。
父ちゃんは権蔵さんに、
庭の手入れの仕方を習ってて、
夕方には家庭菜園できてんの。
俺だけ無駄に怒られた…
…みたいな感じ」
「それは嬉しいご報告です。
実際、親ガチャなどと言ってますが、
みなさん面白半分です。
覚悟もなく興味本位で引いて、
気に入らないと本人を目の前して、
失礼な言葉で拒否したり…
急に我に返って、
何も言わず逃げるように帰られたり…。
親ガチャとは、
ただ他人への妬みでしかないんですよ。
自分がこの親じゃなかったら、
もっとマシな人生を送ってたはずだと。
でも自分好みの親が当たったとしても、
幸せな人生になるとは限らない…。
そこには…
またそれなりの苦労もあるというのに…。
親ガチャに失敗したと言ってる方は、
ご自身の人生を否定されてるみたいで、
私はとても複雑な気持ちになります。
まあそんな方のためにと思って、
作った親ガチャでしたが、
結果的にはそこまで困ってる人は、
いなかったってことです。
そしてあなたのような、
懐の深い方にも、
お会いすることができて、
私は親ガチャをやってみて、
良かったと思ってます」
「すいません。
僕はただのガチャ好きで、
そこまで言われるほどの、
人間ではないんですけど」
「そうですか?
でもとても立派だと思いますよ。
人を受け入れるってことは、
そう簡単なことではないって、
この親ガチャが証明してますから」
「そ、そう…なんですかね?」
「どうです?
また引いていかれますか?」
「いやいやいやいや。
さすがにもうしませんよ。
三人家族が五人家族になったんですよ。
うちの親でも次は絶対許さないですって」
「そうですか…残念ですね…
本日は限定ガチャになってまして、
さらに今日が、
最終日だったんですけど…。
10人中8人がSSRで、
しかもその半分の方が、
年収1億という…
おっと…
これは言っちゃいけないやつだ…。
今のは聞かなかったことに、
して下さいね…。
あっ!そうだ!
しかも今日も1回無料だった」
「引かせて下さい!!
是が非でも!!」
「わかりました。
お客様がそこまで言われるなら」
また大きなタッチパネルの前に立ち、
大きく深呼吸をする。
(よし!
今回は片手じゃなく、
両手でレバーを引いてみよう!
良いの来い!)
「では、どうぞ!」
「よっしゃ~!
これでどうだ~!」
レバーを引いた両手を一気に離す!
するとまた画面が七色に光り出す!
「これは、またもや~!!」
カプセルが開き、
画面に番号が出る!
「なんと…2番!!」
「また、2番!!
それ権蔵さんでしょ!」
「おめでとうございます!!
お客様の引きの強さには感服します!
2番の権蔵さんはSRでしたが、
今回また、被りましたので、
SSRに昇格しました!!」
「今度は何?!
権蔵さんは、どうなるの?!」
また扉が開き、中から煙が吹き出す!
そしてそこからヒョッコリと、
何かが顔を出す…。
「う、うま?!」
白い馬が颯爽と出てきた。
「前回は金色のお着物。
そして今回はこの白馬になります。
牝馬…人間で言う女性です。
名前はベラドンナです。
権蔵さんにお似合いですね」
「紅白の手綱に豪華な馬鞍。
完全にあの将軍様のだろ、これ!」
「では本日の親ガチャは以上になります。
ご利用ありがとうございました~」
またも突然、ガチャは終わった。
ショッピングモールの真ん中で、
馬の手綱を握り…立ち尽くす僕。
集まってくる外国人観光客。
「オー!テヅカオサム?
リボンのキシデスカ?」
「ノー!アレはチガウよ!
アレはワンピースの、
キャベンディッシュのホースね~!
ピクチャーOK?」
パシャ!カシャ!パシャ!
「サンキュー!サンキュー!」
記念写真に納まった…馬と僕。
「……」
「……ふぅ~」
僕は一息ついて、
馬の首筋を軽く撫でた。
「……よし、帰るか。
家に帰って権蔵さんに頼んで…
家庭菜園を、
家庭農園にでもするか」