推しとり夫婦
お父さんと子ども。
「パパ、これなに?」
「これはパパが好きな、
アイドルグループのCDだよ」
「CDってなに?」
「これに音楽が入ってるんだ」
「これにも音楽が入ってるの?
スマホじゃなくて?」
「そうだよ。
昔はCD、レコード、カセットテープ…
MDってのもあったなあ。
色んなものに音楽を入れてたんだ」
「へえ~。
それは聴けないの?」
「プレイヤーがないからね。
もうCDを再生するドライブが、
レコーダーにもゲーム機にも、
付いてないからなあ」
「ざんねん」
「でも、サブスクにはあるよ」
「それはいい。
いつも聴いてるから。
CDでどうやって聴くのか、
見たかったのに…。
そのアイドルグループって、
どんなだった?」
「どんな?
う~ん、可愛くて元気で、
一生懸命な子たちだったよ」
「そうなの?」
「ママもファンだよ」
「え?!
ママも好きなの?」
「だってママと知り合ったのも、
この子たちのファンミーティングで、
偶然、話す機会があって、
それからお付き合いが始まったんだ」
「ねえ~ママ~!」
「なあに~!」
「ちょっと来て~!」
「どうしたの~」
「ママもこのアイドル好きだった?」
「うわ~懐かし~い!
そうよ。パパもママも大好きだったの」
「今でも?」
「今でも好きよ。
でも、このアルバムまだ持ってたの?」
「サブスクで聴けるんだけど…
なぜか…」
「一度好きになった人って、
活動や露出が減ったりすると、
少し熱も冷めたり離れたりするけど、
また曲を聴いたりすると、
気持ちが戻ってくるよね」
「聴いてみる?」
「うん」
「わたしも!」
♪~
♪~
♬~
「いいわね~」
「あの頃を思い出すね」
「げんきな曲!」
「思い出したよ。
何で彼女たちを好きになったか」
「あれ?
それ前に聞いたことあったけど、
何だっけ?」
「僕が彼女たちを好きになったのは、
メンバー同士が、
とっても仲が良かったから」
「そうだ、そうだ。
まるで姉妹みたいだったよね」
「ほんと、仕事中もプライベートも、
いっつもメンバーで遊んでて、
その楽しそうな様子を見てるだけで、
幸せだったんだ」
「人が笑顔でいるだけで、
こっちまで幸せな気持ちになるものね」
「歌とダンスは、
まあ他の売れてるグループよりは、
ちょっと見劣りしたかもしれないけど、
僕はあのみんなの笑顔と、
頑張る姿勢を見てファンになったんだ」
「でも歌もダンスも、
私は上手だと思って見てたわよ」
「そうだね」
「パパとママは、
今でも本当に大好きなんだね」
「そうだよ、大好きさ」
「そうよ、大好きよ」
ポーン♪
「あっ、ニュース速報!
見て見てパパ、ママ。
うわさをすればだよ!」
「ん?
なになに…
【あの人は今】で衝撃告白。
アイドルグループ◯◯◯◯の、
リーダーとエース。
当時は不仲で喧嘩三昧!!
楽屋がまさかの血の海に!!
え゛え゛~!!!」
「こっちは…
アイドルグループ〇〇〇〇の、
三代目リーダー。
衝撃の写真集、緊急発売!
その全貌ですって~!!」
「ママ~!!」
「パパ~!!」
「僕たち…」
「私たち…」
「試されてる~~?!」
「試されてる~~?!」