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【私的偏愛読書録】#1『自分以外全員他人』【読書感想文】

 2024年は各月毎に読んだ本をまとめて読書感想文を書いていましたが、ここ最近忙しく、また単純に面倒臭くなってしまったという事情もあるため今年からは【私的偏愛読書録】と題して、読んだ本の中からとりわけ気に入ったものだけを紹介していくスタンスに切り替えていこうと思います。ご理解のほどよろしゅう。

 さてそんなわけで記念すべき第一冊目として紹介するのは、西村亨氏が書かれた『自分以外全員他人』という小説です。

 主人公はマッサージ店に勤務している、44歳の独身男性。迷惑な客、母や義父、同僚などの存在にストレスを感じながらも趣味のサイクリングを糧に何とか生きている。しかし傷つきやすく不器用な彼の中に溜まっていく鬱憤はなかなか消えず、ある出来事を境にその怒りは暴発してしまう……というお話。


 この本を読んだ率直な感想を述べるならば、いつ自分が主人公である柳田のようになってもおかしくない、というものだ。

 ネタバレをすると柳田は最終的に自身が利用している駐輪場のルールを守らない人間を暴力でボコボコにしてしまうのだが、それは彼の偏狭な正義心が捻じ曲がった形で発露してしまったからだ。
 真面目で繊細な人間であるが故に、ルールを守らない人間のことは許せないし、柳田のような人間からしてみればルールを守らない人間が得をして、律儀に守っている自分の方が損をしているという構図は我慢ならない。

 作中、何度も彼の希死念慮じみた考え方が描写されるのだが、それも「死にたい」というよりは「生きるのをやめたい」というものであり、ヴィーガンを経て最終的に水しか飲まないリキッダリアンという答えに辿り着くのも、ある種の彼の真面目さというか、優しさの反映とも言える。

 この世で得をするのは図太い神経をした人間だ。優しい人間は損をする。そう思ってしまう節は私の中にもある。
 誰かのために犠牲にしてきたものが自分でも気付かぬ内に降り積もっていて、その堆積物はいずれ内側から自分を破壊してしまうほどの攻撃力を持ってしまう。この感覚に身に覚えがないとは言えない。

 本当に恥ずかしいことだが、最近怒りを感じると無性に苛々して、モノに当たりそうになってしまう時がある。なけなしの自制心を必死に振り絞って何とか耐えているが、いつこの自制心が効力を発揮しなくなってしまうかと思うと気が気でない。

 ストレスの要因としては主に、過干渉な親。このnoteも数週間前の状態と同じく、親に強制連行された出先で書いている。詳しく書くとまた怒りが再沸騰するので控えるが、こちらが行くか行かないかという旨のLINEの返信を待たずに勝手に宿の予約をしてしまうのは流石に人間の意志剥奪にも程があるのではないか。

 案の定、母親と父親が忘れ物とかのしょうもないことで喧嘩して完全に鬱まっしぐら。緩衝材として子を利用しようとでもしてるんかという猜疑心が働いてしまう。

 家で際限ない口論を繰り広げる割に他人と接する時には夫婦として外面の体裁だけ取り繕っているのも滅茶苦茶ストレスが溜まる。
 外側から見たら良い家族に見えてるけどその実態は良い人間を演じてるだけで、その裏側にはとんでもなく凄惨な関係性が潜んでいるってもう芸能界やん。グロテスクすぎるホンマに。

 あと親の過干渉問題以外にも頭を悩ませるのが、最近やけに身の回りで催し始められた不要不急な飲み会の数々。
 大人数の飲み会が苦手な人間の主張なんてもう手垢がつくほど世間に提出されたと思うが、それでもやっぱり大人数の飲み会が催されてしまうのが世の無情といったところである。

 大人数の飲み会って、大概は結局いくつかの少人数のグループに分割されて話が進むので、そのグループ毎にどんなテーマの話をされるかという当たり外れの差が激しい。途中でその場のビッグボス的な存在の鶴の一声により話題がひとつに統括されることもあるけれど、基本的には大人数で同じひとつの話題を共有するのは難しいし、あり得たとしても一人当たりの発言量が限られてきてしまう。

 だから大抵の場合は自分の周囲にいる人間たちと当意即妙なコミュニケーションを図らなければいけないわけであるが、残念なことに私は会話能力が圧倒的に低い。

 絶望的に会話が続かない。話を展開する能力がなさすぎる。しかも最悪なのが自分が投げかけたテーマなのに発信側のこっちがワンターンで強制終了させてしまう。会話キャンセル界隈。

 人の話とか聞いていても、音だけが耳に入ってきて内容が頭に入ってこないということが頻発する。よしんば内容が入ってきたとて、それをどこまで深掘りしていいのか逡巡してしまって話が拡がらない。

 己がしょうもない隠匿主義の人間だからか、自分のされて嫌なことは人にしない方式を採用して表面上の薄っぺらい応酬しか出来ない(どんだけ閉鎖的な人間なん?)。

 それ故に飲みの場で私がいるグループに組み込まれてしまった人は地獄である。すまん。
 この前もテーブルの片隅で「そうなんですね〜」「なるほど〜」みたいな何も言ってないのと同等のペラッペラな言葉だけ放出して、ただただニヒルな半笑い浮かべてたら隣に座ってた6歳ぐらい歳下の異性に「はぁ、いい歳した大人がこんな人並の社交も出来ないんですか、やれやれ」みたいな呆れ顔された。すまん、悪気はないんや。悪気はないし男気もない。

 もうそろそろ己が28歳であるという現実を受け止めきれなくなってきた。

 どう考えても精神的に問題を抱えているのに精神的に問題を抱えてない人間に擬態して生きてるから致命的なコミュニケーションの齟齬が生じてしまうのかもしれない。
 とにかく対人恐怖、社交不安が強い。今入っているLINEのグループとかも突発的にすべて退出して永遠に消息を断ちたくなってしまう。現状、人生に夢も希望もない。

 でも、そういう状況にあるからこそこの本の内容が心の奥深くまで浸透したわけで、冷静な内省を行うためにも、そして精神的に肥沃な土壌を自分の中に形成するためにも今読んでおけて良かったと素直に思えた。

 このインタビュー記事も一縷の望みを感じさせる内容で非常に良かった。

 最近は作風が世相に合致するように緻密に計算されて出版されるものが多いような気がするけれど、こういう魂の咆哮みたいな内容の本こそ売れてほしいと私は思う。

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