本日の本請け(2024.10月)
本とそのとき飲んだもの、食べたものなど。
『学力喪失ーー認知科学による回復への道筋』今井むつみ(岩波書店)
今井先生の新刊だ!ということで早々に読みました。
以前『算数文章題が解けない子どもたち』も読んだのですが、今作は「わかったけど、じゃあどうしたら?」という問いにさらに深く解説をしてくれているという気がしてかなり参考になりました。
数学の授業で気軽に使われる言葉が実は難しいんじゃないか、という話が出てくるんですがこれとてもわかります。
方程式で3x=〜の3を「消したい」からどうしたらいいと思う?とか、つい大人は説明なしに使っちゃうんですよね……。係数がない、x=のかたちにしたいよね、ということなんですが、むしろ親切心で言ってるつもりが通じない。移項するを「持ってくる」とか、左辺と右辺を「ひっくり返す」とか……。
中1で「四則計算のうち、整数の範囲でいつもできるとは限らないのはどれか」という問題が出てくるんですが、これ、本当意味わかんないですよね。でもつらっと書いてあったりするんだよな……表や○+○とか選択肢になってるバージョンもあるんですが、どうしてこの問題文だけでわかると思ってるの?といつも思ってしまう。
「ひとしい」が身についてないという話すごく頷きました。
中2の数学で「1つの外角の大きさが30度の正多角形は何角形?」みたいな問題があるんですが、「正」多角形って問題文に書いてあるのに答えに「正」をつけ忘れるパターンがすごくあって、これってうっかりの他に「ひとしい」がそもそも定着していない影響を引っ張ってる気がするんです。
『いま読む『源氏物語』』山本淳子、角田光代(河出新書)
詳しくは下記参照なのですが、京都に行ったときに行った本屋さんで見かけていたもの。気になって電子で買って読みました。
源氏物語を訳した角田さんと研究者の方の対談なのですが、本当にいろんな読み方ができると実感できて楽しかった!
ここを読んでそっか!となりました。私が源氏物語に惹かれた理由がここにあると思ったからです。
「宇治十帖」は解放の物語?という部分も面白かった。
下に書いたのですが、宇治の源氏物語ミュージアムに行ったときに、宇治十帖の筋を人形劇で表した20分くらいの映画が見られたのですが、終わった後に前に座った人たちが「えー後半の方がもっとドロドロしてるんだね〜」と若干引いた感じで言っていて。
いいや、「ドロドロだね」だけじゃない……!そうじゃない……!と思ったんです。でもそれがどうしてなのかうまく言えない……!(見も知らぬ人に話しかけるわけではないんですが)となって。
でもここの「宇治十帖で紫式部はどうやったら女性を解放できるかあれこれ考えていた気がする」というところを読んで、これだ!となったんです。スッキリした。
ますます源氏物語を読むのが楽しくなりました。
『箱男』安部公房(新潮文庫)
映画が公開されて見に行ったのですが、見た後「原作全然覚えてないな」と思って読み返しました。
映画を見たときに、面白かったのだけど「こうやって女性の登場人物は『女』って記号でしかないんだよな」とか思ってしまって。でも原作読んだときにあんまりそこ、気にならなかった気がするんだけれど、読んだだいぶ昔で私にそういう視点がなかったのかな?とか考えたのですが。
でも原作読み返したら女性を覗こうとした少年が逆に「見られる」立場に立たされる場面があって。「見る」ことについて女→男の描写も原作にはあったんだなー、と。映画はそこの場面丸っ切りなかったよね?
やっぱり面白かったし、出てくる写真や表紙もかっこいいなーと眺めてニヤニヤしちゃいました。
今安部公房展やってるんですよね……いいな……。
図録はゲットしました。行けない分、じっくり読みます。
『キャラメル工場から ――佐多稲子傑作短篇集』著 佐多稲子、編 佐久間文子
学生のときに戦中戦後の女性作家の集中講義を受けたことがあって、二日だけの授業だったんだけれどすごく、たぶん学生時代最も面白かった授業だったなとふと思い出すことがあります。林芙美子と佐多稲子はそのときに出てきてまた読みたいと思っていたので、短篇集が出るという情報をキャッチして買いました!
「水」が有名な短編のようなのですが、駅の水道の水は止められても自分の涙は止められないの、辛かった。親の死に目にさえ休みをもらえないの、現代でもありそうでぞっとしちゃった。
「乾いた風」が一番印象に残ってしまった。だんだん戦中になっていくに従って、隣近所がぎすぎすし始めるのをものすごくリアルに描いているんだけど、なんとなく今でもこういうのある気がして。最後まで読んでやっぱり今もこうなるよなと思うと、何も……変わってはないなと。「狭い庭」の植木屋さんの気持ちも痛いほどわかる。
「疵あと」もなんというか、女としてはしんどいけど同じ気持ち!というのがある。読めてよかった。
『AIを生んだ100のSF』監修・編 大澤 博隆、編 宮本 道人、宮本 裕人(早川書房)
新書買いたい!となって衝動的に買ったうちの一冊だったんですが……すごく面白かった!
なんか勝手にタイトルと表紙を見て、作品ごとに章立てしていて、その作品に出てくるものがどうAIに影響を与えたか?みたいな話が読めるのかな?と思ってたのですが、科学者などいろいろな人にどんなSF作品に影響を受けましたか?というインタビューをしてそれをまとめたものです。
最近、ずっとAI絡みの本を読んでます。たぶんそれはAIってものがなんなのか知りたかったからなんですが、だいぶ読んできて「そうか、私、AIに仕事を取られると聞いて、その言葉が表す食いっぱぐれる未来、みたいなものが怖かったんだな」と思って。もっと言えばたぶん、AIはもう全然関係なくて、「これから先に来る恐ろしい未来」が怖かったんだなって。年齢を重ねることももちろんあるけれど、それ以上に急速に変化していく社会に置いてかれる日が来るかもしれないとか、そういうのぎゅってまとめて「全然良くなる気がしない未来」みたいなものが怖かったのかもしれない。
これ、たぶん多かれ少なかれみんな感じてるんじゃないかなと思うんだけど。
でもこの本を読んでいるうちに、科学者の人たちがSFという言うなればつくり話に直接的に影響を受けたとは言えないけれど……と言いつつ、幼少期を語るときに必ず何かのSFという物語が傍らにあるのを見て。
この人たちは、「物語る」力がすごくあるんだなと思ったのです。
以前、小川洋子さんの『物語の役割』を読んだときにも思ったんだけど、人が何かを望むとき、こうなって、ああなって、こうなったらいいなあ、なんて考えるんだけど、それはすでに「物語って」いて、その力が生きていくためにはすごく重要になるんだよね。
SFもこうなるかも!というのがいっぱいつまっていて。
この本の中で、川添先生が「心の持ちようで世の中は変わる」と言っていて、すごくよく聞く言葉のようで、読んできた積み重ねにより全然違うように響きました。
この本でインタビューを受けている人はみんな、よりよい未来のために「こうだったらいいな」を考えているんだなって心底思って。
米澤さんのお話も面白かった。ケアするロボットをつくるなら、命令をこなすようにするのではなくてお世話する人間をお世話したいという心からの気持ちを持たせないといけないのではないかっていうの、興味深かった。三宅さんのお話も、自分が人間をうまくやれていない気がしてっていうの、すごく胸に響いてしまった。
最後の章での「AIに奪われて仕事がなくなる?そんなわけない」という話も「はあ〜」と思って読みました。本当に面白かった!
インタビューで出てきたSF作品の年表もすごく面白い!
天才てれびくん、大好きだったんですよね。ジーンダイバーとか、正直内容はほぼ覚えてないんだけれど、SF読むの苦手にならなかったのはああいところから来てたのかもしれないなと思うと感慨深い。
私の印象に残っているSFに触れた作品は中三の国語の教科書に載っていた「素顔同盟」。みんなが笑顔の仮面をかぶって暮らすようになった近未来の話だったんだよね。
この後主人公がどうしたのか続きを書くって課題があって、けっこううまく書けた覚えがあるんだけれど、先生に「市の文集に応募するね」と言われて持っていかれ、そして結局応募されなかった思い出。余計な話でした。
まえがきがこちらから読めます。
『死はすぐそばに』著・アンソニー・ホロヴィッツ、訳・山田蘭(創元推理文庫)
ホーソン&ホロヴィッツシリーズの第5弾。
楽しみにしていました!
今回は推理らしい推理ができなかったけど意外でした!いつもそうだけれど、これが手がかりだろうと思ったことはたいてい大事な手がかりじゃないんですよね……またしてもやられてしまった……。
私はホロヴィッツがしゃしゃりでるのが苦手なんです。どうして余計なことばっかりするの?どうしてそんなにホーソーンの事情にずかずか入り込んでいくの?人にはそれぞれ適切な距離感ってものがあるだろ!と。その、わかってるんだ……彼が動かないと何も始まらないって……。なんでこんなミステリに関係ないところでストレス感じてるんだと自分でも思うけど、どうしてもキツイんです……。これ自分だけかなあ……共感性羞恥の亜種?みたいな。
過去の話だとわかったときに、あっやった!つまりホロヴィッツが出てこないからストレスがない!と思ってぐいぐい読んだんだけれど、途中で現代の章が挟まってきてやっぱりホロヴィッツがいろいろ動くのでああーとなってしまい、読み終わるのが時間かかってしまいました。ミステリをミステリとして楽しみたいんだけれど、出てくる登場人物たちに視点人物が嫌われるのがまるで自分が嫌われるみたいでちょっとしんどいんです。困った。
『怪傑レディ・フラヌール』西尾維新(講談社)
怪盗フラヌールシリーズの第3巻。これで完結です。
内容を忘れてるところもあった気がして、前2巻がちょうどAudibleにあったので1.5倍速で主要なところを聴き返しました。便利〜!
特に2巻の『怪人デスマーチの退転』の、小林裕介さんの朗読が素晴らしかった!はっきりくっきり聴き取れて、しかも演じ分けもばっちり。復習が終わって3巻を読み終わった後もまた聴いてしまいました。
主人公・道足は1巻で感じたよりも大人ではなかったな、と思いました(笑)。
罪と罰と許し。弟・軍靴が共感できないけど好きだった。
伏線綺麗に回収して、主人公の思考に乗っかって読めて、満足。最後の一文、よかった。
西尾維新読みたい!という気持ちって西尾維新でしか回収できないのでかなり満足できました。定期的に摂取したい。
最後に出てくるここのところが、自分が西尾維新好きな所以が詰まってるなあ、と思いました。大好き。
『赤と青のガウン オックスフォード留学記』彬子女王(PHP文庫)
話題になっていたのは知っていたのですが、本屋で見かけた後に、オーディオブックを聴くのにいいのないかな?と探したときに見つけて、よし!と思って聴き出しました。
そうしたらもう!一気に聴いてしまいました。面白くて面白くて。
いつもいる側衛(護衛の人)の話でキャラクターか!?というエピソードがあったり、エリザベス女王とのお茶での「足元を走り回るコーギー!」という文章があったりで笑ってしまいました。茶色のパスポートのエピソードも興味深く、そうかと思えば本当にこちらまで胃が痛くなるような博士論文を書く過程、最初に「日本に帰りたい」と思った夜、本当に読み応え(聴き応え)がありました。
もちろんなのですが人間らしさ、そしてユーモアが発揮されていてとても読みやすい!
各章の最初が中国の故事のタイトルなのが、紫式部や清少納言が自作に中国の詩など教養を挟み込んでいるようで教養!って感じがしておしゃれ。
最後の初めての猛抗議は胸がぎゅっとなってしまったけれど、説明責任を怠っていたのは自分だったと言える度量の大きさよ……。
『スレイヤーズ9 ベゼルドの妖剣』『スレイヤーズ10 ソラリアの謀略』『スレイヤーズ11 クリムゾンの妄執』神坂一(富士見ファンタジア文庫)
第一部をオーディオブックで聴き直し終わって、一度止まっていたのですが……今回飛行機に乗ったときに、何か聞いてないとそわそわしてしまう、聞きやすいものでないとといくつか試したけれどしっくりくるものがなくてどうしようとなって9を聞きました。そこから一気に聞いてしまって。本当にリズムがいいんですよね!これは字で読んでいた当時にはわからなかった良さだなあ。
11巻が一番好きです。リナとガウリイ以外は全部ゲストキャラという構成がシンプルでいいのかも。ストーリーも、すごくスレイヤーズらしさがある気がして。
それにしても、11巻の事件も次の巻に向けての伏線だったんだなあ。なんかあんまりそこを意識して読んでなかったなあと思って、何度も読み返していたはずなのに昔はストーリーを受け入れるのに精一杯だったんだなと思いました。
源氏物語ミュージアムに行きました
先月末に京都に行ってきました。目的は源氏物語ミュージアム。近くの宇治川も見てきました。水面がキラキラしてて綺麗でした。
恵文社一乗寺店さんに行きました
京都でどこに行けばいかなーというときに教えてもらった本屋さん。
いいなと思う本がたくさんあったんですが、荷物を増やせなくて、必死に頭にメモをして帰ってきてしまいました。何せ本4冊持って旅に行ってて、しかも今回なんか気分じゃなくて一冊も読み終えられなくて……。
なんか選書のただ乗りしてる気分になってしまったのと、後お土産の袋の取っ手が短くて苦労してたのでトートバックを購入しました。とてもお気に入りです。
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