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【連載】#12 毎日全力で生きているか?|唯一無二の「出張料理人」が説く「競わない生き方」

職業「店を持たない、出張料理人」、料理は出張先の素材を最大限に生かしたオンリーワンのレシピを考案して提供する――。本連載は、そんな唯一無二の出張料理人・小暮剛さんが、今までの人生で培ってきた経験や知恵から導き出した「競わない生き方」の思考法&実践法を提示。人生を歩むなかで、比べず、競わず、自由かつ創造的に生きていくためのヒントが得られる内容になっています。

※本連載は、毎週日曜日更新となります。
※当面の間、無料公開ですが、予告なしで有料記事になる場合がありますのでご了承ください。

私は、料理研究家としても海外を含めた全国にお伺いさせていただいていることに加えて、規模の大小を問わず食品会社や飲食店からのご依頼で、さまざまな商品開発に携わらせていただいています。

最初のオファーは、地元の和食屋さんでした。家族経営の小さなお店でしたが、料理づくりを担当するお父さんとお母さんがものすごく勉強熱心で、和食でのオリーブオイルの使い方を何回か伝授させていただきました。「教えること」は自分自身がしっかり勉強していなければできないわけで、生半可な知識でやっていたら、すぐに見抜かれてしまうものです。生半可な知識でやってはいけない――。これは、プロなら誰もが持つべき矜持であると思います。このご夫婦からは「完璧に準備して、すべてを惜しみなく出し切ることの大切さ」を逆に学ばせていただきました。

この経験を活かして、都内で数店舗の居酒屋を経営されている会社の技術顧問をさせていただいたこともあります。私も居酒屋は好きでよく行きますが、頼むものはだいたい「焼き鳥、肉じゃが、焼き魚、枝豆、冷奴」みたいな定番メニューと決まっていますので、改めて居酒屋さんのヒットメニュー開発というのは難しいと思っていました。

当時はまだSNSはない時代だったので、今ほど「写真映えする料理」を求められていたわけではありませんでした。ただ、「女性客を増やしたい」とのリクエストもあり「華やかでおいしい料理」をいろいろ考えました。食べておいしい居酒屋メニューは、私の中では地味な感じの茶色系が多いので、居酒屋の人気メニューが載っている料理雑誌を片っ端から買い込んでかなり勉強しました。

飲食店のメニュー開発で難しいのは、ただ手の込んだメニューを考えればいいのではなく、厨房で実際につくる料理人さんの技術力を考慮し、完全に再現できるメニューでなければいけないという点です。つまり、いかに不必要なものを削ぎ落とすことが重要になります。ウチで試作を繰り返すわけですが、いろいろな場面を想定しながら試作するので、アッと言う間に時間が経ってしまいます。何度も何度もつくっては食べの繰り返し。ある意味、文字通り命懸けで、自分を出し切らないとできない仕事です。

スーパーマーケットでは、当時東北に77店舗を展開していた「ヨークベニマル」の商品開発をさせていただきました。福島県郡山市の食品本部に毎週新幹線で通いつめ、洋風惣菜を中心に開発に携わりました。特に思い出深いのが、ポテトコロッケとミックスピザです。コロッケはとてもシンプルなので、素材のじゃがいもの質が重要になってきます。全国から集まるさまざまな種類のじゃがいもを蒸しては、マッシュし、コロッケに仕上げるわけですが、揚げ物なので5〜6個食べたら、お腹いっぱいになってしまいます。それでも仕事なので頑張って食べ続けるわけで……。1日に20個以上食べたときは、さすがにしばらく揚げ物を見るのも嫌になりました。
ミックスピザは、トッピングを変えれば、メニューは無限に広がります。「なるべく東北の食材を使いたい」とのリクエストもあり、まずは、東北の食材の味見からスタート。東北は、上質な食材が豊富なので、味見する品数もかなりあり、何を選ぶかが本当に大変でした。しかもミックスなので、複数の食材を組み合わせる必要があります。例えば、5種類の具材を載せるとしたら、何を何割と細かく決める必要があります。その一番おいしい割合を決めるまでに、ものすごい時間を使って食べ続けなくてはなりません。自分の味覚の引き出しを出し惜しみせずに、すべて駆使することの大切さを心底学びました。こうした努力が実り、新開発したミックスピザは年商5億円を達成。総菜ジャンル年間売上第1位の「柔らかとんかつ」に続く、年間売上の第2位を獲得。

どんなに努力をしても、結果が出なければ意味がありません。なぜなら、ビジネスだから。私のようなフリーランスならなおさらです。結果が出なければ、次につながりません。この実績をつくって、ようやくヨークベニマルの一員になれた気がします。

箱根のペンションのメニュー開発、技術指導をしたこともあります。脱サラをしたご夫婦が始めたペンションですが、料理修行の経験もなく、朝食と夕食の2食を用意しながら、部屋掃除や洗濯、ベッドメイキングをしたりするのはかなり大変で、オーナーご夫妻はプライベートな時間がほぼない状況でした。特に、連泊のお客様がいらっしゃると、朝食、夕食ともにメニューを変えるのも大変そうでした。そこで私がしばらく泊まり込んで、厨房を仕切り、奥様やアルバイトさんにメニューを伝授しました。あまり難しいメニューだと再現できないので、できるだけ誰がつくっても失敗しないレシピを考えました。ここでも私が持っているノウハウを惜しみなくお伝えし全力で臨みました。その甲斐あって、ペンションの評判も良くなったのは、私にとっても大きなご褒美となりました。

あなたは毎日、全力で生きていますか?
すべてを出し切っていますか?

最近のベストセラーに『限りある時間の使い方』という翻訳書があります。その帯のキャッチコピーに「人生は『4000週間』 あなたはどう使うか?」とあります。

そうなのです。人生で頑張れる、全力を出せる時間は意外と少ないものです。ちなみに、年代によって、全力の出し方は変わります。特に20代から30代半ばまでが大切です。歳を重ねれば、自然と成長できるだろうなんて思っていたら大間違い。その期間での全力の積み重ねが、5年後、10年後、20年後に大きな差になります。40代以降は、その経験や知識が複利的に増えていくからです。30代半ばまでの全力具合が、複利を生み出す、その地盤の質を決めます。「人生もローマも、1日にしてならず」です。

毎日全力で生きる――。仕事だけでなく、プライベートや趣味でも構いません。今日から少しずつでも、全力で生きる、出し切る習慣を心がけてみてください。その習慣がプロフェッショナルの礎となり、あなたの夢に近づけます。

【著者プロフィール】
小暮 剛(こぐれ・つよし)
出張料理人。料理研究家。オリーブオイルソムリエ。1961年、千葉県船橋市生まれ。明治学院大学経済学部卒業後、辻調理師専門学校を首席で卒業。渡仏し、リヨンの有名店「メール・ブラジエ」で修業。帰国後、「南部亭」「KIHACHI」「SELAN」にて研鑽を積み、1991年よりフリーの料理人として活動開始。以後、日本全国、海外95カ国以上で腕をふるう「出張料理人」として注目される。その土地の食材を豊富に使い、和洋テイストを融合させて、シンプルに素材の持ち味を生かす「小暮流料理マジック」に、国内のみならず世界中から注目が集めている。近年は、出張料理人として活躍しながら、地域食材を最大限に生かしたレシピ開発を通じた地方再生や、子どもたちの食育講座などを積極的に行なっている。また、日本におけるオリーブオイルの第一人者としても知られ、2005年には、オリーブオイルの本場・イタリア・シシリアで日本人初の「オリーブオイルソムリエ」の称号を授与している。その唯一無二の活躍ぶりは各メディアでも多く取り上げられており、TBS系「情熱大陸」「クレイジージャーニー」への出演歴も持つ。最終的な夢は、「食を通して世界平和を!」。

▼本連載「唯一無二の『出張料理人』が説く『競わない生き方』」は、下記のサイトで過去回から最新話まですべて読めます。


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