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【連載】#10 ゼロから人の信用を得るのに効果的な方法|唯一無二の「出張料理人」が説く「競わない生き方」

職業「店を持たない、出張料理人」、料理は出張先の素材を最大限に生かしたオンリーワンのレシピを考案して提供する――。本連載は、そんな唯一無二の出張料理人・小暮剛さんが、今までの人生で培ってきた経験や知恵から導き出した「競わない生き方」の思考法&実践法を提示。人生を歩むなかで、比べず、競わず、自由かつ創造的に生きていくためのヒントが得られる内容になっています。

※本連載は、毎週日曜日更新となります。
※当面の間、無料公開ですが、予告なしで有料記事になる場合がありますのでご了承ください。

期待に胸を膨らませ、25歳でフランス修行から帰国して働き始めた都内や千葉のフレンチレストランでは、まさかの「皿洗いや鍋洗い」の毎日からのスタートでした。フランスのレストランでは、洗い場には、洗い場のプロがいて、どんな見習いの料理人でも、皿洗いや鍋洗いをすることはありませんでしたから、余計にショックだったことを覚えています。

脂汚れが激しい鍋やフライパンを洗うために、洗剤は、高濃度の原液を薄めずに使うので、すぐに手荒れしてしまい、あかぎれから、血が出るようになります。一度、ゴム手袋をはめたことがありますが、意地悪な先輩から「ママごとやってんじゃないんだから、手袋なんかはめるな!」と言われ、我慢して素手で洗い続けました。どうしても、傷口から血が出るときには、ビニール絆創膏で、指をぐるぐる巻きにしていたので、一見すると、バレーボールの選手のようでとても情けなかったですが、そうするしか方法はありませんでした。

最初の頃は、洗い物も要領を得ず、シンクにどんどん溜まる一方でしたが、慣れてくると、どの大きさの鍋から洗えば早く終わるかがわかるようになり、皿洗いも段取り良く、早くできるようになりました。来る日も来る日も洗い物ばかりの毎日でしたが、今思えば、それも、一流の料理人になるためには必要なプロセスだったと思います。

なぜなら、洗い物も料理も、狭い限られたスペースで、段取りや順番を考えながら、流れるようにこなしていくことが大切です。料理が一流の料理人は皆、洗い物も手際良く、とても早くこなします。

出張料理を始める直前までお世話になっていたKIHACHIでは、とにかく仕事がハードで、洗い物をしている余裕はなく、すべての料理人が料理をつくることに追われていました。しかし、それでも私は、自分の仕事をなるべく早く終わらせて、他の先輩料理人の分まで鍋洗いを率先してやりました。掃除や洗濯も「朝は一番早く来て」「晩は一番最後まで残って」一生懸命にやりました。

このように、人がやりたがらないことをコツコツやっていると、ちゃんと見ていてくれる先輩方はいるものです。少しずつかわいがられるようになって、貴重な料理技術もいろいろ頂きました。

信用を得るという点では「クレーム対応」にも気をつけています。30年以上一人でやっていることもあり、今までにいろいろなクレームをいただきました。それらはすべて私自身の責任なので、「とにかく早く、心からのお詫びをする」ことを心がけています。たいていのお客様は、迅速に「すみませんでした」とお詫びすれば許していただけます。クレームが大事になったり怒りが強くなるのは、たいがい言い訳したり、お詫びが遅いときです。私は「言い訳」が大嫌いで、言い訳するのも、されるのも苦手です。

やはり仕事ができる人はクレーム対応も迅速で、言い訳する人で仕事のできる人はいません。人は自分に不利な状況から逃げがちですが、私はそんなときこそ、ウソをつかずに、正直に、言い難いこともお客様にお伝えすることを心がけています。そんなときは、内心ものすごいストレスを感じますが、逃げずに対峙することで、何ものにも変えがたい「信用」という財産をいただけるのだと思います。

SNSも「信用を得る」という点では積極的に活用するべきだと思います。ただ、私は載せる内容についてはかなり気を使っています。人によっては、身の丈以上の自慢話や奇抜なことを書くのがお好きな方もいらっしゃいますが、私は苦手ですし、信用を得るには逆効果だと思います。

私の場合、一番長く続けているのがFacebookで、もう14年ぐらい1日も休まずにアップしています。九州で足を骨折して1週間以上入院したときも、ベッドの上から毎日アップしていました。内容的には、仕事の報告か、カンタンレシピが多いですが、とにかく見てくださる方にとってお得な情報をアップするように心がけています。次に長いのがInstagramで、10年ぐらい毎日アップしています。X(Twitter)は4年前から始めて以来、毎日アップしていますが、イマイチ使い方がわからず、あまり力を入れていません。YouTubeとTikTokは始めて1年になりますが、カンタンレシピを中心にアップしています。いずれも「食で健康」をテーマにしてブレずにアップしているので「継続は力なり」と言いますか、「継続は信用なり」だと思います。

ゼロから人の信用を得るには、「人がやりたがらないことをコツコツやる」「クレームや失敗から逃げずに、迅速かつ正直に対応する」「SNSを毎日継続する」、この3つは効果的であると、実体験を通じて自信をもっておすすめできます。

【著者プロフィール】
小暮 剛(こぐれ・つよし)
出張料理人。料理研究家。オリーブオイルソムリエ。1961年、千葉県船橋市生まれ。明治学院大学経済学部卒業後、辻調理師専門学校を首席で卒業。渡仏し、リヨンの有名店「メール・ブラジエ」で修業。帰国後、「南部亭」「KIHACHI」「SELAN」にて研鑽を積み、1991年よりフリーの料理人として活動開始。以後、日本全国、海外95カ国以上で腕をふるう「出張料理人」として注目される。その土地の食材を豊富に使い、和洋テイストを融合させて、シンプルに素材の持ち味を生かす「小暮流料理マジック」に、国内のみならず世界中から注目が集めている。近年は、出張料理人として活躍しながら、地域食材を最大限に生かしたレシピ開発を通じた地方再生や、子どもたちの食育講座などを積極的に行なっている。また、日本におけるオリーブオイルの第一人者としても知られ、2005年には、オリーブオイルの本場・イタリア・シシリアで日本人初の「オリーブオイルソムリエ」の称号を授与している。その唯一無二の活躍ぶりは各メディアでも多く取り上げられており、TBS系「情熱大陸」「クレイジージャーニー」への出演歴も持つ。最終的な夢は、「食を通して世界平和を!」。

▼本連載「唯一無二の『出張料理人』が説く『競わない生き方』」は、下記のサイトで過去回から最新話まですべて読めます。


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