お客様インタビュー・原朋直さん(ジャズトランぺッター)完結編その2「ジャズは創造性そのもの」
この記事だけでも面白いですが、その1から読むとより深く楽しめるかも…
女将
大学はクリエイティビティを育てる場、とのことですが、
若い時に自分流を確立するのは、大変ではないですか?
原
ものすごく大変。
音大に来る人達も、はじめは、「楽譜というヒントがあって、そこから答えを導けばいい」と思っているから。
自分はどうしたい…とか考えないでひたすら技術を磨いてた。
創造性とか、習ってこなかったんだよね。
だからまずはじめに演奏の概念そのものを変えないといけない。
想像力と創造力を働かせて、面白いものをどんどん生み出していけばいい。
君たちが尊敬するミュージシャンも、みんなそうしてきたんだよ。
楽譜に忠実に、って言っても、どんなに読み込んでも作曲家の頭の中の音楽は聴こえない。
つまり正解は無いんだから、自分なりのアイディアを出すのが大切なんだ…。
…って、突然そんなことを言われてもね(笑)。
まだ人生経験もそれほどないのに、
オリジナリティを!!
と言われてもどうしていいか分からない。
だから一緒に模索する。
試行錯誤が大事だと思うし、あと周囲に仲間がいるでしょ。一緒に悩む仲間がいる。
そして悩んだ末に創造性を獲得した先生たちがいる。
それが大学のいいところ。
もちろん創造性を発揮すると、それまでになかったことをするほど批判されるのね。
どんなに斬新でもはじめは稚拙だし、チープ。不格好だし、理論武装もできないし。
だからいろいろ言われる。
でもね、そこは突破してほしい。
気にしないで、自分の道を行く。
批判なんてね、なんか暇な人が言ってるだけなの(笑)。雑音は聞かない。
あと覚えておいてほしいのが、成長には時間もかかる。
みんなそうだから。
だから自分を気長に育てるのも大事。
焦る気持ちもよく分かるけど、短気を起こさないことなんだよね。
店主
若い時ほど焦りますよね。
上手くいっている人が目に入るし。
原
長い目で見ると、ゆっくり成長した方がいいことも多いんだけどね。
それから…
創造性を発揮すると、嫉妬もされるの(笑)。
自分流を見つけて輝き始める人がいると、羨ましさのあまりいじめる人がいる(笑)。
創造性を妬む人って、残念なことだけどけっこういるから…
それも無視だね!
変に絡んでくる人がいたら、そこは嘘ついてね、なんかその人が喜びそうなこと言っとけばいいからね(笑)。
女将
そこは以前のインタビューを参照して頂くとして…(笑)
原
そうそう、嘘はどんどんついて…(笑)。
あのね…僕は美術は素人だけど、有名な画家がいるでしょ、例えばゴッホとかピカソとか。
だけど美大で
「お前、ゴッホのように描けないといけないぞ」
って教えないと思う。
「ピカソを完コピできないと意味が無い」
とも言わないでしょ。
だって、学生はそれぞれの、自分らしい絵を描けばいいわけだから。
第一ゴッホが沢山いても意味が無い。
だけど音楽では、自由なはずのジャズでも
マイルス・デイビスっぽい演奏をするとかね、それで良しとされちゃう。
それはマイルス・デイビスの真似の上手い人。そっくりさんにすぎないのに。
チャーリー・パーカーの真似、ソニー・ロリンズのコピー、
ビル・エヴァンス風のピアノとか…。
でもそれって、ゴッホみたいな絵でいいってことだよね。
全然クリエイトしてない。
つまり…
端的に言って、日本の音楽教育は遅れていると思う。
〇〇風とか、楽譜の指定通りに出来るとか、それは芸術ではないから。
そのことに気づいていない教師が多いのも問題だと思う。
自分で歌を作れる人になる。
自分の歌を歌える人になる。
そしてそれを楽しむ人達が増える。
僕はそこを目指したいのね。
店主
音楽って、本当に自由なんですね。
特にクラシックに対するイメージが変わりました。もっと堅苦しいイメージがありましたが…
原
柔軟だよね。
僕はクラシックの生徒にも教えることがあるけど、クラシックは凄いの。叡智の塊。
今でもファンが多いのは、常に変わり続けてるし、進化し続けてるから。
古いけど、同時に最先端。
ジャズもね、
ジャズの特質は、クラシックよりもっと決め事が少なくて、コード進行っていうスコア(オーケストラの全パートの楽譜が一度に読めるもの)を合理的に簡略化したものがあって、それをもとに自分で歌を作れること。
音程やリズムの指定はなくて、コードというハーモニーの流れがあるだけ。
それをもとに自分のセンスやアイディアで曲を作るから、編曲っぽいと言えるかな。
コード進行っていうのは、例えるとすごく大雑把なあらすじ。
それさえ踏み外さなければいいっていう指示みたいなものだけど、それすら絶対的なものではないからね。
だから、ほぼ作曲。
クラシックと比べても、もっともっと自由で、
無限にクリエイティビティを注ぎ込める器みたいなものなんだよね。
ジャズミュージシャンは作曲するし、編曲するし、とにかく
「全部自分で創る人」。
はじめはめっちゃ難しいけど、だんだん「こうしたい」とか思えるようになるし、
何よりワクワクするよね。
とにかく、ありえないほどカッコいいから!
一人のミュージシャンがその人にしか出せない音で世界を創ることが出来るし、
一緒に演奏する人がいたら、その人から思いがけないアイディアを貰って、想定外の「歌」ができることもある。
今の自分のセンス、クリエイティビティを全部使って、
他のミュージシャンや時にはお客さんや、いろいろな人の創造性とともに働いて、遊んで、
唯一無二の時間を創る…。
音楽は時間芸術でしょう、二度とない時間を全身全霊で楽しめるのね。
女将
これは体験しないと分かりづらいかもしれませんね。
私達は一時期仕事のようにライブハウスに通っていました(笑)。
原
毎回違うから、何度行っても飽きないよね。
演奏者もリスナーも、そこでしか得られないものを貰える。
ジャズって、実はすごいことが起こってる…それを知ってほしい。
つづく