食べ過ぎの明確な理由
今回は、ニューサイエンティスト ベストブック オブ2020に選出され、
世界中で注目を集めたデイヴィッド・ローベンハイマー氏の著書
「食欲人」という本の内容を紹介します。
これまで、数多くのダイエットに挑戦したけれど、どれも失敗して
しまったという人が多いと思いますが、そういった人に足りなかったのは、
我慢ではなく正しい知識です。
本当に正しいのかどうか分からない謎ダイエット理論とは一線を画し、
人間の食欲に科学のメスを入れた本書の内容を読めば、
痩せるために必要なことが理解できるでしょう。
生きることは食べることですから、誰にでも食欲はあります。
ファストフードやスナック菓子などの超加工食品で溢れる現代では、
私たちの食欲が狂わされ、人類は過食の一途です。
超加工食品とは、糖分、塩分、脂肪を多く含む加工済み食品のことで、
香味料、保存料などの添加物を加えて工業的過程によって
作られている食品のことです。
常温で保存可能で日持ちもするので、消費者にとっては便利な
超加工食品が、どのようなメカニズムで私たちの食欲を操作しているのかが
「バッタ」を用いた実験で説明されています。
科学的な記述が多く、やや難しい内容だったので、
実験の過程は抜きにして、実験から分かった結論を紹介しますので、
興味を持った人は実際にこの本をお買い求めください。
本能が食べるべきものを見極める
私たちは、日々データとにらめっこしながら
「この食品は栄養が豊富だ」とか、
「鶏肉はタンパク質の含有量に優れている」など、
自分にとって最適な栄養バランスを実現しようと努力しています。
確かにそれは大変素晴らしいのですが、野生動物は自分に必要な
カロリーなどを考えている訳はなく、自分の感覚で食べ物を選んで
食べています。
たとえばライオンは肉食動物ですが、消化の悪いものや変なものを食べて
吐き戻したくなった時など、ライオンを含めたネコ科の多くは
草も食べています。
ステラという名前の「ヒヒ」が食べている食品を朝から晩まで観察し、
記録するという研究が行われたことがありました。
食べた食品のサンプルを栄養研究所に回し、毎日の食事の詳細な栄養記録を
記入していったのです。
この研究は30日間という長期間にわたって行いましたが、
その結果、極めて面白いことが分かりました。
ステラの食事は驚くほど多様で、30日間で食べた食品は
約90種類にも及び、自然食品と加工食品を様々な組み合わせで
食べていました。
肉を食べた日にはタンパク質と脂質の摂取量が多くなり、
フルーツをたくさん食べた日には糖質の摂取量が多くなっています。
ですが当然、話はこれで終わりではありません。
研究者はその後、食事内容に占める【タンパク質】と【炭水化物+脂質】の
比率を計算してみると、ステラが毎日何を食べようが、【タンパク質】と
【炭水化物+脂質】の比率は変わりませんでした。
ステラは、「タンパク質=1」に対して、「炭水化物+脂質=5」
という比率を維持しながら、毎日いろいろなものを食べていて、
これは頭の中で計算しながら食べていたわけではなく、
自然とそのことを分かっていたのです。
それだけではありません。
「タンパク質=1」に対して「炭水化物+脂質=5」という摂取比率は、
ステラの体格の健康的な女性に最適の栄養バランスであることが
実証されていた数字でした。
動物は必要な栄養素が判っている
1991年、研究チームはオックスフォード大学において
バッタの食欲に関する研究を行いました。
研究の目的は2つです。
・動物は、どのような基準で食べるものを決めているのか?
・何らかの理由で最適な食事が出来ず、別の食事を摂ったら何が起こるか?
この2点を調べるために、研究チームはバッタが摂取する2大栄養素の
「タンパク質」と「炭水化物」について、これらの比率が異なる
25種類のエサを用意しました。
これは、人間に例えると肉の多い高タンパクの食事と、
ご飯の多い高炭水化物の食事になります。
これらのエサは栄養成分が異なりますが、外見は見分けがつきません。
この食事を、脱皮して成虫になるまでの期間、それぞれに決めた
1種類のエサを好きなだけ食べさせました。
この実験の結果、炭水化物の比率が多いエサを与えられていた
全てのバッタが、ほぼ同量のタンパク質を
摂取していた事が分かりました。
炭水化物の比率を多くしていたのですから、
満足なタンパク質摂取までには、炭水化物を過剰に
摂取する必要があります。
これが非常に重要なポイントで、つまりバッタは
適性タンパク質摂取量まで食事を止めず、食べ続けていたのです。
そして、この炭水化物の過剰摂取は2つの代償を伴いました。
第一が時間です、高炭水化物(=低タンパク質)のエサを与えた
バッタは、羽の生えた成虫に脱皮するまでの期間が長かったのです。
成虫になるまでの期間が長くなれば、繁殖のチャンスを得る前に
鳥やトカゲなどの天敵に食べられてしまう可能性が高くなります。
第二の代償が肥満です。
高炭水化物食のバッタはエサの食べ過ぎで肥満になりました。
一方で、高タンパク質(=低炭水化物)のバッタは痩せ過ぎていて、
成虫になるまで生き延びられる可能性が低かったと分かりました。
この実験の結果をまとめると、次のようになります。
【高炭水化物のエサ】
体が要求する量のタンパク質を摂取するため食べ続け、
肥満になり発達が遅れた
【高タンパク質のエサ】
タンパク質への欲求がすぐに満たされたため、炭水化物の
摂取量は少なかったものの、エネルギー不足になった
つまりこの実験は、エサの栄養バランスがどちらかに偏っている時に、
炭水化物とタンパク質ではどちらの摂取が優先されるか明らかにしました。
バッタがエサを食べる目的は、タンパク質を摂取するためであると
判明したのです。
食べ物を選択出来たら・・・
先ほどの実験で、バッタは1種類のエサしか食べることが
できませんでしたが、もしも豊富な選択肢の中から
自由に選択できるとしたらどのような結果になるのでしょうか?
私たちは日々、たくさんの食品の中から食べたいものを選んでいますが、
それと同じような環境をバッタに用意してあげると、人間と同じように
太ってしまうのかという実験です。
そこで、オックスフォード大学のポール・チェンバーズ教授は、
タンパク質と炭水化物の比率が異なる2種類のエサを
バッタに与えてみました。
2つのエサをどのような配分で食べるかはバッタの自由です。
すると、とても面白いことが起こりました。
どんな組み合わせのエサを与えたバッタも、全く同じ比率で炭水化物と
タンパク質を摂取していて、そのためにバッタは、
与えられたエサの配合に応じて2種類のエサの摂取量を調節し、
バランスを取る必要がありました。
到底不可能だと思っていた栄養バランスの調整ですが、バッタは
何らかの方法で適切に行っていて、さらに驚いたのは、
それがバッタにとっては最も健康的な、生存と成長を促進する
配合だったという点です。
ということで、バッタの研究からは次のことが明らかになりました。
【食べ物の選択肢が豊富な場合】
各栄養間の食欲システム同士が協力して、最適な栄養バランスの
組み合わせでエサを食べることができる
【栄養バランスの悪い食事しか得られない場合】
タンパク質を食べることを優先して、炭水化物を過剰摂取してしまう
食べ過ぎ予防には〇〇
これまで、バッタを使った食欲の研究をしてきましたが、
私たちが本当に知りたかったことはバッタの食欲ではありません。
ですから、バッタの研究結果が人にも当てはまるのか検証しました。
実験は以下のように行います。
まず、10人の大学生を人里離れた山小屋に連れていき、
間食を防ぐために社会から隔離します。
被験者は最初の2日間は、肉・魚・卵・乳製品・パンなどの
ビュッフェから、好きなものを好きなだけ食べることができます。
食べたものは全て計量され、各食品のタンパク質、炭水化物、脂質の
含有量を計算し、各被験者が食べた全ての食事と軽食について
データが記録されていきます。
続いて、3日目と4日目は被験者を2つのグループに分けて、
食べ物の選択肢を狭くします。
一方のグループは、高タンパク質・低カロリーのビュッフェを提供し、
もう一方のグループには、低タンパク質・高カロリーの
ビュッフェを用意します。
この時も全ての被験者は与えられた食事を好きなだけ食べられて、
食べ物のカロリーと栄養素の含有量は記録します。
最後の5日目と6日目は、全員に最初のビュッフェを食べてもらい、
実験は終了です。
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