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映画『ゼロの焦点』(1961)~能登金沢が舞台のミステリー~

こんばんわ、唐崎夜雨です。
わりとよく映画を見ます。新作も見ますが、どちらかというと古い作品を好んでみます。
そこでnoteでも、ときどき映画の話をしていこうと思います。
題して「夜雨の名画坐」。


能登や金沢を舞台にしたミステリー

記念すべき最初の映画は松本清張原作のミステリー『ゼロの焦点』(1961)。
監督、野村芳太郎。
脚本、橋本忍・山田洋次。
今年、元日の地震により甚大な被害を受けた能登や金沢が舞台の映画です。
作品の時代設定は1960年頃かな。原作は能登金剛を自殺の名所として世にしらしめるものとなった。

映画の後半、この能登の断崖でヒロインが犯人に自らの推理を提示します。しかし犯人の告白は、ヒロインの想像を超えるものでした。
犯人が意図した殺人もあれば、偶発的に起きてしまった哀しい死もある。

『ゼロの焦点』は、厳しい冬の北陸が舞台。モノクロのせいもあって、まったく明るく描かれてはいません。かえって沈鬱になってしまうかもしれません。

ネタバレを気にせず書いています。
あらかじめご承知おきください。

あらすじ

禎子は広告会社の金沢支店で働いている鵜原憲一とお見合い結婚をする。二人は東京で新婚生活を始める。憲一は近々東京へ栄転になるので、事務引継ぎや得意先へのあいさつ回りなどをするために金沢へ出張に出向いた。
しかし帰る予定の日が過ぎても憲一は東京に戻ってこない。憲一は北陸で行方が分からなくなっていた。禎子は憲一の会社の人とともに金沢へむかう。
金沢へ来た禎子だが、憲一の行方はまったくつかめなかった。憲一とはお見合い結婚ということもあって、禎子は憲一の過去をよく知らなかった。憲一は広告会社に勤める前、警察官で立川に配属されていた事を知る。
やがて京都出張の帰りだという憲一の兄・宗太郎が金沢の禎子の宿を訪れる。義兄はいったん東京へ帰ることを勧め、禎子も応じて帰京する。
ところが今度は金沢に残った義兄が行方不明になる。京都出張もウソだったことが分かる。そこへ義兄の死を知らせる電報が届く。

3人の女たち

『ゼロの焦点』には主に3人の女が登場します。

一人は久我美子演じる憲一の妻・禎子。
お嬢さん育ちのようでいて、夫の死の真相を突き止める意志の強さも持ち合わせた女性。本作のヒロインと言ってもいいでしょう。

禎子は雪の北陸にヒールの靴を履いてきて、雪靴を調達しなければならなくなる。ここでは北陸を知らないことは、金沢に赴任していた夫の過去を知らないことと同じ。雪靴に履き替えるのは、夫を知る第一歩。

もう一人は高千穂ひづる演じる室田佐知子。金沢在住の社長夫人。後妻で若いが地元でも名士。夫の社長と同様に憲一とは親しくしていた関係で、禎子の来訪を受ける。

着物を着ている。禎子の母や義姉も普段着に着物を着ている。若く社長夫人の佐知子はもう少し見栄えのいい着物。
ファッションの知識が乏しくて情けない表現だ。

三人目は有馬稲子が演じる田沼久子。能登の寒村で内縁の夫・曽根益三郎と暮らしていたが、益三郎は数日前に自殺。それにより生活のため室田の会社の受付をする。やがて彼女の行方も分からなくなる。

ややくたびれた感じのする女性。寒村ぐらしのせいか身なりも芳しいとは言えない。
英語は堪能。ただその英語は俗っぽい。

3人の人生が交錯して、事件が起きる。
もっとも交錯させたのは男の身勝手とも言える。

事件の鍵はパンパン

禎子の夫の憲一が立川の警察官だった時、風紀係でパンパンを取り締まっていた。
義兄・宗太郎の死には派手なパンパン風の女の存在が浮かび上がる。

事件の真相へのキーワードは「パンパン」です。

パンパンとは当節では耳慣れない言葉かもしれませんが「戦後混乱期の日本で、主として在日米軍将兵を相手にした街娼」(Wikipediaより)のことです。
詳しくは存じませんが、立川は米兵相手の街娼が多かったようです。

昭和30年代の日本映画では、パンパンが作品中に登場しなくても、派手な格好をした女性を「パンパンみたいな恰好をして」と言うシーンに出会うことはある。
つまりそのころまではパンパンといえば、それ以上言わなくても何だか通じていた。

ずっと時代がくだって2009年に『ゼロの焦点』は再び映画化された。この時は過去のシーンとしてパンパンを丁寧に描いていたように思います。パンパンについて説明しなければ、もうわからなくなっていた時代でしょう。

パンパンは蔑視を含む表現。ただ羨望もいくらか含まれているようにも思われる。
マジメにやっててお金や食べるものに困っている人々からすれば、うまくやってる連中に蔑視と羨望が入り混じることは想像できる。

もし彼女がパンパンだったと周囲の人に知られてしまうと、おそらくその地域社会や組織にはいられなくなったことでしょう。
そのため過去を隠して生きる女性は少なくない。
それは尋常ではない苦しみかもしれない。

カラー映画なら派手なファッションを色彩で見せられるが、これはモノクロ映画。
そのせいかパンパン以外の女性は比較的質素な装い。あるいは、お着物。

能登は暗く重かった

現在、東京と金沢は新幹線で最短2時間30分くらいだろうか。
映画では上野から夜行列車で金沢へ向かっている。東京と金沢は今よりかなり時間がかかる。
この距離感は禎子と憲一夫婦の距離感のようにも思われる。禎子が金沢を訪れるのは行方不明の憲一を探す旅であるとともに、憲一そのものを知る旅でもあった。
禎子は結婚前から北陸の風景を見てみたかったらしい。しかしその風景は暗く重苦しいものだった。

男は北陸に女がいながらも東京で新しい女と暮らそうとしている。その板挟みというが、やはり身勝手だろう。
この男がなぜそうゆう身勝手な行動をとったのかは、詳しく描かれていない。
もっとも知ったところで、女性たちの不幸は変わらない。

『ゼロの焦点』(1961)
監督:野村芳太郎 
原作:松本清張 
脚本:橋本忍、山田洋次 
撮影:川又昂
音楽:芥川也寸志
出演:久我美子、高千穂ひづる、有馬稲子、南原宏治、加藤嘉、西村晃、沢村貞子、穂積隆信、織田政雄







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