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息をはくこと
動物の進化の過程。
海から陸に上がって肺を持つようになり、やがて、哺乳類は胸の下に一枚の筋肉で覆うアップデートをしてきました。
首の前壁から筋を剥がして、肺の底に張りめぐらせるような戦略をとってきました。
その筋肉は横隔膜です。
ちなみに、爬虫類も、鳥類も横隔膜は持ってはいません。
横隔膜は、息を吸い、肺を膨らませるための強力な筋肉です。
これは、内臓の筋肉と違って骨格筋に分類されます。
内臓の筋肉は、動きが遅いのですが、疲れを知りません。
骨格筋は、環境に反応し動くためにあるので、素早く収縮をしますが疲労をしてしまいます。
横隔膜の動きについては、前回書いてみましたので参考にしていただければ幸いです。
動きに関わる骨格筋には、主動作筋と拮抗筋という考え方があります。
例を挙げてみます。
肘を曲げることを考えてみましょう。
肘を曲げるのに主要な役割を果たしているのは、力こぶの筋肉、上腕二頭筋が主動作筋になります。
この動きに拮抗するのは、肘を伸ばす動きです。そして肘を伸ばす作用を持つ上腕三頭筋が肘を曲げる動きの拮抗筋になります。
肘を曲げる時は、上腕三頭筋は縮むのをやめて、伸びていかなればなりません。
横隔膜に戻りましょう。
横隔膜は息を吸うために使われる筋肉です。
では、横隔膜の拮抗筋はどの筋肉なのでしょうか?
実は、横隔膜の拮抗筋はありません。
言い方を変えれば、息をはくために特化した筋肉を人間は持っていないということです。
息をはくために、横隔膜が緩むことや肺の弾性も利用しますが、全身のあらゆる筋肉の助けも借りています。
なかでも、腹腔を囲む筋肉である腹筋群や背筋群、骨盤底の繋がりは大切です。
繰り返しになりますが、腹筋群や背筋群の吐くために特化をしていません。なのでこの筋肉たちはマルチタスクで息をはくことを助けることをしています。
ただでさえ、座ったり、歩いたりと動きながらからだを支えなければいけないのに、その間も息をはかなければいけません。
とても大忙しです。
上の動画は腹腔を囲むユニットが協調して動く様子をシンプルに表現しているのでイメージしやすいかと思います。
下の図は解剖学者の三木成夫氏の著書のものです。とても参考になります。
はくことに携わる筋肉のマルチタスクを少しでも楽にするのにはどうすればよいでしょうか?
地球に棲む限り、重力の影響から逃れることはできません。
なので重力に抗うのではなく、重力を利用して効率の良い姿勢や動きは呼吸のため、つまり生きるために大切です。
なので、丹田呼吸やヨガ、禅などが長くはくことを大事にするのもわかります。
それを探求していた先人の智慧はすごいですね。
そして、仕事したり、何かに一生懸命になりすぎた時の息抜きはとても大切だと思います。
風呂に浸かって「ふーっ」と息をはく。
たくさん酸素をからだに取り込み、息を凝らした横隔膜を休ませるように。
からだのなかに溜まった、一日の楽しいことも、嫌なことも一旦はいていく。
ひょっとしたら煙草の一服は自分の呼吸を再確認しているのかもしれません。
私は煙草はやらないので実感に乏しいのですが、刺激の煙を肺に入れることで、肺を感じ、はき出した煙の姿が大気に溶け込んでいくの見つめて呼吸を確かめているのかもしれませんね。
逆式の呼吸
息を吸うときは、横隔膜が下がり、腹部は膨らみ肺に空気が満たされますが、息を吐く時に横隔膜を下げ、腹部を膨らませる呼吸のやり方があります。「逆式呼吸」とか「逆腹式呼吸」と言われています。
「〇〇式」とか言うと何か新しいやり方のように感じられるかもしれませんが、ひょっとしたら無意識のうちに、自然に行なっている呼吸かもしれません。
唸ったり、そして遠くの人を呼ぶ大声を出す時に横隔膜を下げて行なっていると言われています。
私が取り組んでいるフェルデンクライスメソッドでも、息を吐きながら横隔膜を下げる戦略を使って、自分の呼吸や四肢との繋がりを感じられるよう、その探索のプロセスに組み込むことがあります。
私の所感ですが、意識的にやろうとすると最初は腹直筋に力が入りやすいです。また、どうやっていいのかよくわからない感じもありました。力が入らないようにするにはどうしたらよいか、「からだ」のいろんなところに興味をもって観察しながら行なっていくと、お腹に空気が入る様子を感じられやすくなっていきました。まだまだ探索中ではあります。
いつもと違う楽な感覚をみつけていくと、声帯に負担をかけない話し方をしているし、手足もコントロールがしやすくなっているから面白いです。
息をはくやり方を一つでなく、状況に応じてたくさんもっていると、日常を快適に過ごせるかもしれません。
自分にとっての心地よい「息をはくこと」を探していく。
はくことを自在に。
暮らしを豊かに。
最後に「腹式呼吸」と「逆腹式呼吸」の、「息をはく」ことをシンプルに感じるヒントを作ってみたので参考までに。