長谷川雅彬著(2017)『自分が信じていることを疑う勇気』きこ書房
常識を一度疑ってみることの重要性に気づく本
Amazonで2018年7月に購入したまま積読していた本を、やっと読むことができました。
人間は一度信じてしまうと、それが既に当たり前のこととして基準として考えてしまうのだけど、その当たり前が本当に真であるのか、それを自分の頭で検証してみる重要性を問うている本です。
本書の肝は「はじめに」の文章の中にあるとおり「自分が心から望んでいないことに対して創造的になることはできないということ」本当にそれに尽きるかと思います。基本的には「何もかもが予定調和に終わる」ということはありえず、むしろそのような時ほど疑ってみる必要がある。ただし、人間というのは集団に馴染もうとする基本的な欲求があり、自分で素晴らしいアイデアを思いついたとしても、集団から拒絶される位なら黙った方が賢明だと考えてしまうこともある。つまりは他人がどう思うかという判断基準に染まってしまっていることで、自分の意見の表明すらできないという背景もある。
盲目的に目の前のことを信じてしまうと、眼の前のチャンスですら認識することはできず、漠然とした思い込みを一度疑ってみる必要があると著者は説いている。
それら一度疑ってみるという視点で、本書では経験、クリエイティビティ、二者択一、常識など数々の我々が思い込んでいるものを再度考えてみる試みが多数展開されている。
48ページに掲載された事例では、変化の激しい環境に対応できる海外の優秀な人材を獲得する直前まで来たのに、会社からは「現在の社内には、彼に合った部署がない」と採用却下の通達があったというもので、これもそもそも社内を変えるための新しい人材が、既存の部署に合うはずもなく「人材雇用はこうあるべき」という枠から企業が抜け出せていないと指摘している。「逃した魚はでかい」と気づけばまだ挽回の余地があるが、ほとんどの場合は「魚がいたことすら気づかない」という皮肉も記載されている。
このように、本書ではそもそも本質的で重要な部分というものが希薄となり、長い習慣化や考え方で当たり前とされてきている点などに、再考を促し、何のためにそれが必要なのかという本質を見出すために、自分が確信していることであっても一度疑ってみて、本当にそうなのか、それとも認識をあらたにすることがあるのかを自分の頭で考えてみる重要性が説かれている。
無意識のうちに信じている価値観に対しては、些細なことでも「なんで?」と問いかけ、質問を繰り返すことで明らかにしていく、著者は何にでも疑問を呈する「ナンデマン」になろうというが、確かにその方法は的を得ているとわたしも思う次第。意外と理由も分からずにやっている社内の処理的なものを感じている会社員は多いと思う。その理屈を知る上でも、疑うことは重要かと思う。本書ではイスラエルのユダヤ教「タルムード」も紹介されていた。
シュレディンガーの猫を題材に、過去、現在、未来について述べられているところで、一般には過去が現在を作り、現在が未来を作ると思われているけれど、それは人間は現在における観測行為があって初めて、過去と現在の繋がりを認識できると切り返すのは面白かった。つまりは過去が現在を作るのではなく、現在が過去を作っているという点。しかもその現在においても、重要だと思っていることが人によって違う訳で、自分が気に留めていないものは認識できないということでもある。目指すゴールが違うので、当然ながら見えているものが違う、すなわち認識が違うということ。そして自分の可能性を広げるためには「あるがままに見る」と説いている。
本書でユニークな考え方として、作用と反作用の法則に則して、「人々は外側ばかりを変えようとするので、その反作用で自分の内側にストレスが生じる」という表現で、いくら環境を変えてもそれをどのように処理するかという心は変わっていないので本質的な問題は解決しないという解説。変えるべきは現実世界でなく自分の心というロジックは、まさにそのとおりだと思う。
本書は色々と常識を疑うことをきっかけに、それに関わる智慧を解説している点で素晴らしい本であると言える。たまたま手にした本であるが、忘れかけていた視座を得た読後感だった。
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