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「デデデデ」も観たし、高円寺でクリープハイプを聴きながら浅野いにおについて語ろうと思う

北山:カルチャーに敏感な俺たちがいま観るべき映画は、「デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション」(デデデデ)だ! みんなで観ようぜ。

四ツ谷:良いよ。浅野いにおは読んだことないし。

北山:あ、でもアラサー独身男が3人並んで観るのは恥ずかしいから、離れて座ろうな。

高端:勝手な奴だ……。

~鑑賞中~

北山:どうだった?

高端:面白かったよ。キャラクターも魅力的だし、飽きることはなかった。ただ、プログレ音楽を聴いてる気分だったね。キャッチーな部分もあるけど、物語は複雑。いま、だれの物語を観てるんだろうって? って迷子になる。

四ツ谷:確かに、あの侵略者に対して主人公たちがどうしたいのか、ゴールが分からない。生じている問題も多すぎた。少女たちの関係とか、侵略者の正体とか、それぞれの家族の行く末とか、マッシュ彼氏の今後とか、石川の娘の未来とか……。ほとんど全ての登場人物に物語があった。

北山:ちょっと観てて混乱するところはある。
しかし、俺たちの思春期(15年くらい前)は浅野いにおが一世を風靡してたよね。クリープハイプの流行と同じ文脈にあった記憶がある。俺たちも、もう30歳だし、浅野いにおを語ることで思春期を片付けようや。

四ツ谷:浅野いにおもクリープハイプも全く知らないよ。

北山:かわいそうに、ちゃんと思春期を迎えられなかったんだね。だから、いまだにそんな感じなのか。

高端:ひと言多いやつだ。で、何がそんなに世間にウケたの??

北山:エロの挟み方は斬新だったと思う。あそこまで過激なエロ描写をオシャレ漫画に持ち込んだのはすごい発明では?

高端:となると、やっぱりクリープハイプと同じ図式だね。ポピュラーミュージックに過剰なエロを持ち込んだ。「蜂蜜と風呂場」とか顕著。ART-SHOOLとも地続きな印象があるな。

北山:過激なエロをオシャレに思う感覚ってなんだろね。村上春樹もそうじゃない?

四ツ谷:は? 全然違うけど。村上春樹におけるセックスはイベントになっていない。記事を書くためにさっき『うみべの女の子』を読んだけど、セックスに特別な意味があるんだよね。

高端:なるほど。春樹のセックスは日常で、いにおのセックスはイベントか。でも、女性の書き方には共通点があるかも。何というか、手が届きそう。春樹・いにお世界の「彼女」とのセックスは「自分ごと」に思える。「デデデデ」の女の子たちもパンチラ「寸前」を繰り返してたし。あれが手が届きそうな感覚だよ。

四ツ谷:よく言われるだろうけど、浅野いにおは、読む人が自分の抱える「ライトな闇」を自覚できて、気持ち良いのかもしれないね。誰しもが「特別で複雑な背景」が欲しいんだ。「楽しく生きているだけの単純な馬鹿」とは思われたくない。

北山:となると、本当に闇を抱えている人には不必要かもしれない。

高端:だろうね。わざわざ娯楽から取り入れたくないはずだもん。いじめに苦しんでいる人が、いじめの小説を読みたいと思うかって想像すると、ちょっと分からない。小説でいう村上龍に近いかな。『限りなく透明に近いブルー』とか『トパーズ』とか。

四ツ谷:生々しい痛みとオシャレ感。

北山:それだ!

古びないオシャレさがある

高端:ともあれ、いま話してて分かったけど、浅野いにおはサブカルの最大公約数なんだ。あらゆるカルチャーから接続可能。クリープハイプ、村上春樹、村上龍、いずれの単語とも親和性はあるのに、いざ語ろうと思うと、あっと驚くほど大きな批評ができない。

四ツ谷:うん。あらゆるサブカル的な単語とマッチする。椎名林檎、散歩、単館映画、ハイライト。ほら、全部っぽいもんね。

北山:でも、大きな解が出てこない。どんな変数を入れても、同じ数字が出てくる方程式。考えてみれば、「あらゆるカルチャーと親和性がある」ってことは、個別のものと直結しないってことと同義か。

高端:浅野いにおの作品って、設定がけっこう卑近だから、何か言えそうな気はするんだよね。すごく小さな世界で、リアルな事件が起きている。「デデデデ」だって、侵略って事象自体は特異だけど、起きている問題はすごく身近だし。インタビューでも「『デデデデ』では意識的に自意識から離れた」って意味の発言をしてるから、それまでの創作の土台に自意識があったことは間違いない。

四ツ谷:さっき言った「読んだ人がライトに闇を抱ける」って批評は可能だけど、その批評もあまりにも普通すぎて、批評した側が持論に納得できない。斬っても手ごたえがない。もっと何か言えるだろうって。

北山:批評家泣かせだね。なんでも言えるが、なんにも言えない。

高端:つまり、詩に近いわけだ。それぞれがインプットして、それぞれの小さな解を出すしかない。誰しもが納得できる大きな答えが出ることはない。

北山:うん。詩だ。カットも詩的だもん。

四ツ谷:解を出そうと意気込んで挑めば挑むほど、受け流される。陳腐な批評しかできない。合気道みたい。低反発マクラとも言える。それが良いとか悪いとかではなくてさ。

北山:音楽としては、NUMBER GIRLが近いかもね。歌詞を読み解こうとしている奴がいたら、それ自体ナンセンスだもん。味わうもんだよ。なんかありそうではあるから、堀りたくなるんだけど。「冷凍都市ってなに?」みたいに。答えはないよ。きっと。

高端:実際に30歳になる俺たちが雁首そろえて何時間も語っているけど、いざ批評を書こうとすると、体系的なことが一切言えてないわけだから。まあ、俺たちの力量と知識不足が大きいだろうけど。とにかくクタクタだ。もう12時間経つよ。

四ツ谷:浅野いにおの批評って難しいんだな。調べても全然出てこないよ。

北山:最初に高端が言っていた「プログレ音楽」は、かなり近いのかもしれない。

高端:浅野いにおは、蜃気楼なんだよ。だって、考えてみろよ。俺たちは今日1日使って、何か胸を張れる答えを出せたか??

四ツ谷:分からん。でも、それで良い気がする。

北山:『君たちはどう生きるか』の考察記事もこんな終わりだったような.気がするな..…。

四ツ谷:あれ? 俺たちって、偉そうにあーだこーだ論じておいて、結局何も分かってないのでは? 思い返せば、浅田彰についても分かってなかったよ。

高端:どんな変数を入れても「?」しか出せないポンコツ装置なのか。
純粋に楽しめている人たちの方が、よっぽど理解力あるんじゃないかね。

北山:所詮、俺たちは「受験戦争の歴戦の勇士」でしかないのかな。

四ツ谷:イヤな解が出てしまった。


北山:1994年生まれ。ライター。共著に『紫式部と源氏物語の謎』(プレジデント社)。好きな漫画は『カムイ伝』と『めぞん一刻』。後者の凄いところは、すべての男性が「五代くんは俺のことだ」と思えるところだと考えている。署名は(円)。

四ツ谷:1996年生まれ。学術書編集者。漫画をほぼ読んだことがない。唯一読破した漫画は『鋼の錬金術師』。署名は(四)。

高端:1994年生まれ。医療系メーカー勤務。映画鑑賞前に、「おやすみプンプン」の1巻を買うつもりが間違えて7巻を買ってしまい、「買い物もロクに出来ないのか」と顰蹙を買った。署名は(高)。



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