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さよならシャボン イラスト待機

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#小説

星

なにものでもない、なんでもないぼく

なんでもないぼくはどうしたらなにものになれるのだろう

ただ、誰かにとっての"なにか"になりたい

でも、その為にはなにをすればいいのか、それすら分からない

誰かの近くにいるにはなにをすればいいのだろう

誰かに見てもらうにはどんな姿をすればいいのだろう

誰にも見てもらえないなにかは、なにかですらない、存在そのものが空気に溶けていくようで、それはとても恐ろ

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魅了

魅了

やらなければならないことをやる時、なにかやりたいと発起した時、これをやらなきゃ!これだ!というものを見つけた時、そいつは必ず現れる。

如何にもそれらしいピンク色のオーラを纏ったアイツ。

四枚の薄羽を忙しなく羽ばたかせて、私の前に現れ、耳元で囁くのだ。

「こっちの方が楽しいよ」「そんなことよりこれはいいの?」「先にこっちに手をつけようよ」

勝手気儘に私の耳元、眼前で囁き、チラつかせる。

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不定路線

不定路線

卒業後から着続けているリクルートスーツに袖を通さず、リジットのデニムジャケット、レザーのショートパンツ、キャップ。今日の気分のコーディネート。

髪の毛はセットせずに粗雑にヘアバンドで後ろで束ねる。

目覚めた時に電源を淹れていたケトルがお湯が沸いたことを知らせるとすぐにそれを止め、用意してあったコーヒーカップに注ぐ。

インスタントコーヒーの味だけはいつもと同じだ。

毎朝通勤に使っている路線と

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灯台

灯台

愛が欲しいと嘆くほど、愛がなにかを知らない

愛されたいと願うほど、愛されていることを知らない

結局他人は他人だと、口にするほど他人に期待している

私を知らないくせに、そう口にするほど相手を知る気もない

君の口にしている言葉は、誰に向かって口にしているの?

本当に目の前の相手に言いたいこと?

何かを希うなら、それに見合うなにかを、君も誰かの希いにならなくてはならない

与えられるだけの存

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額縁

ここは次々に人が映り込んでくる

一人の男性

やつれたような表情に、少し広い額、以前は張りがあったであろう、オリーブグリーンモッズコートは全体的にへたれ、袖口も広がっている

右手に持ったビジネスバッグも、持ち手は細くなっているし、全体的に革も傷付き、曇りガラスのよう

そんな見るからに疲れ切った男の一部を切り取ってみる

上半身を切り取り、その背景にビル群と多種多様な服を着た者を散りばめる

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夜想

夜想

黒いコートを羽織り、フードを被った男が一人、夜道を歩いている。

聞こえてくる音は男が地面に降り積もった雪をを踏みしめる度に聞こえてくる音のみ。

その足取りは軽いものとは言い難いが、重いものでもない。

ただ時折、足を止めては顔を僅かに上げ、夜空を見上げる。

その様子は何をしているのか、周囲からは分からないだろう。そもそも、彼の他に人など居ないのだが。

いや、彼自身何をしているのか、と問われ

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ピーターパン

ピーターパン

ずっと一緒に居たんだ

ボールを投げたり、蹴ったり、転がしたり

走り回って、追いかけて、追いかけられて

暖かい太陽の下で何度名前を呼び合っただろう

お互いがお互いを大切だと、子供ながらに思っていた

ずうっと、そんな日が続くと思っていた

約束を交わすことがなくとも、惹き合うように会うことができた

今日はなにをしようか、次の日はなにをしようか、会うことなんて当たり前でそれを態々口にすること

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ゴースト

毎朝目がまわるほど忙しい

忙しいこともいいことだって?充実感の裏返しだって?そんなの詭弁だって自分もどこかで分かってるんだろう?

分かっているのに自分でどうにか出来ないなら、なにかの力を借りなくちゃ

うまくいかないことばかりの毎日

頭を抱えて考えているフリをしていても、人間は誰も助けちゃくれないんだ

どうすればいいのかなんてもう自分でも分からなくて、既に詰みの一歩手前なんじゃない?

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