■平安貴族たちの心の軸にあるものは―ビギナーズ・クラシックス『白楽天』
大河ドラマ『光る君へ』第6話では、藤原道隆さまのもとで「漢詩の会」が催されました。
そのとき参加した若き上級貴族(通称F4)のうち、お三方は白楽天の詩を提出し、藤原公任さまだけは白楽天の詩を下敷きにした自作の詩を詠まれました。
今回は、その白楽天の漢詩を集めた『白楽天』という本のお話です。
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きっかけは『紫式部日記』でした。
大河ドラマ『光る君へ』は平安時代中期に『源氏物語』という世界最高峰の物語を紡ぎ出した紫式部を主人公とした物語です。
彼女―紫式部は、帝の妻、あるいは、有力者の妻ではなく、一介の「女房」という立場です。もっと言えば、下級貴族の娘です。そのため、彼女の一生がどのようなものであったのかを知るために縁(よすが)となるものはさほど多くありません。
ですが、彼女はつくり物語である『源氏物語』だけでなく、『紫式部日記』『紫式部集』と二つの作品も書き残しています。それらは私たちに「紫式部」と呼ばれた女性が、どのような考えを持ち、どのように生きたかをほんのりと、でも、力強く教えてくれるのです。
さて、今回の大河ドラマが縁で、私は『紫式部日記』やそれをもとにした紫式部の伝記を読む機会を得ました。そのなかで何度も語られるのが、紫式部が中宮彰子に漢文を教えた場面です。
後宮での人間関係で悩みつくし、結果として自分が漢学を理解することをひた隠しにした紫式部。そんな彼女に漢学についての教えを請うたのが一条天皇の中宮である彰子でした。
彰子の夫である一条天皇は漢学を深く学んでいた好学の帝です。その帝に少しでも近づきたくて、彼がどのように物事を見ているのかを知りたくて、彰子は紫式部に漢学を習うことにしたのです。
そして、そこで用いられたテキストが白居易による『新楽府』であったのだと。
私は受験国語の講師ですから、漢文と言えば受験に出るものという狭い範囲のモノしか知りません。また、白居易についても「酒と人生を謳歌した唐代の詩人」程度の認識です。
その人の詩が、中宮への漢文講義のテキストとして使われた?
もちろん、私の認識の浅さ故なのですが、その事実をアタマのなかでうまくつなげることが出来なかったのです。そのため、そのあたりのことを解きほぐしてみようと思い、読んだのがこちらです。
角川ソフィア文庫から出ている『白楽天』です。私にはどうしても「詩」というものに苦手意識があるので、始めはかなりこわごわ本を開きました。でも、読み始めたら、とてもとても面白くて! 思わず一気読みしてしまったのです。
また、漢詩をじっくり読むことで知ったこと、感じたこともたくさんあります。白居易は平安時代中期に最も愛好された詩人ですから、きっと大河ドラマに出てくるあの人も、その人も、この白居易の漢詩にさまざま感化されたことでしょう。
今回はそんな感触も踏まえながら、角川ソフィア文庫『白楽天』のご紹介をしていきたいと思います。
■角川ソフィア文庫『白楽天』について
■角川ソフィア文庫/ビギナーズ・クラシックス 中国の古典
■下定雅弘 編
■2010年12月
■800円+tax
白楽天は、「中国文学史上、李白・杜甫についで有名な大詩人ですが、その文学は日本の文化・文学にも大きな影響を与えています。彼の作品は、その生存中に日本にもたらされ、平安貴族たちの心を捉えてしまいました(p.3より引用)」。
たとえば、菅原道真もそうですし、大河ドラマ『光る君へ』にも出ていらっしゃる藤原公任さまもそのおひとり。公任さまは、自身が編まれた『和漢朗詠集』にも白楽天の詩を多く収録しています。
そう考えると、大河ドラマに生きる平安貴族の皆さんの根底にあるものを知るうえで、白楽天は欠かせないのだと深く納得出来ます。
■新楽府のこと―官僚としての白楽天
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