ブルドーザーと私
【短編小説】
人生なんてラララ〜♪
私はブルドーザーに乗っている。
ブルドーザーは歩きやすく安牌な道をしっている。
本当は私の背後で見守ってくれている存在だけど、この世界に来るとブルドーザーとなって道を照らしてくれる。
一心同体の存在。
ブルドーザーは、綺麗で平坦で誰にも邪魔されない正道ばかりを行く。
正道はきっと安心だけのストーリーが用意されているのだろう。
興味本位でハンドルを切ろうとすると、ブルドーザーは警告音を鳴り響かせる。
つまらない。非常につまらなくて眠くなる。
変哲もないただの道には、隠し扉もないし奇妙な商品を売っている店屋もない。
バカ笑いすることもなければ、狂ったように泣くこともない。
あっちの凸凹の道を通ると、どんな振動が骨に伝わってくるのか…。
気づくと警告音を無視し、ブルドーザーのハンドルを切ったり、バックさせたりして、私は強引に道を外れた。
未開拓の道はブルドーザーも困惑気味になかなか進まない。
ガタガタと転倒しそうな道は見たこともない脚の長い蜘蛛がいたり、突然鋭利なナイフが飛んできたりして私の体に傷がついていく。
道が暗いと思ったらブルドーザーの片方のライトが割れていた。
それでも実態は無い奇妙な店屋に着いたとき、既にブルドーザーも私もボロボロになっていたけど、安堵と高揚の笑みだけは抑えきれなかった。
宙に浮くのれんだけの店屋。
ウサギが餅つきした歓迎団子と、ドラゴンの子供がひとつの光の玉をくれた。
それまでこの世界では体感したことがなかった『感情』というものが芽生えた日だった。
ブルドーザーは光の玉が直してくれて、私の心身は歓迎団子が癒してくれた。
凸凹の地面を突き破って出てきた一輪の黄色い花が体を左右に動かしながら喋った。
もっと先に大きな崖があるという。
とても楽しそうに。
崖から落ちる勇気を出せた暁には龍の背中に乗れるらしい。
自分が戯れる人生ゲームの中を一周して回ってくれるようだ。
私にはどんな沢山の世界があるのかを見て回れる。
気に入った世界観で降ろしてもくれるらしい。
ブルドーザーも一緒に。
崖までは人喰い顔もいるし、挫折した人々の念のキャンディーが成る大樹も邪魔をしてくるらしいが、私は意を決して崖に向った。
ブルドーザーは言った。
ハンドル離さずに慎重に操作をしてくれと。
思っていたよりも道は複雑で、途中何度も引き返そうと思った。
それでもブルドーザーとの約束で、私はハンドルを離すことはしなかった。
遠くで沢山の龍が泳いでいるのが見える。
もう進むしかないし、どんな困難でもラララ〜♪と歌いながら笑ってみせた。
ブルドーザーのスピードが速くなった。