【選書】「ミステリーって多すぎて自分に合うのを選べる気がしない」という友達に選書のコツを全力で話してみました〈第七夜〉 ―誰も死なない「日常の謎」―
~「読んでよかった」のために自分の好みを知ろう
分け合いたい! 底知れぬミステリーの魅力~
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〈第六夜〉「人気作家は選書力upの味方」はこちらから ↓↓↓
※以下、作家名は敬称略。本のデータは最後に記します
※あくまで私が読んだ本、好きなタイトルから話しています。ミステリーの選書に関してはすべて、ただの本好きの個人的な見解です
※お勧めの作品名も出しますが、あくまで選書のコツ・考え方がテーマです
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(1)誰も死なない「日常の謎」はミステリー界の一大ジャンル
エイミ ではさっそく「日常の謎」というジャンルについての話だね。
ミキ これまでのあらすじとして、私みたいに読書慣れしてない人はまず「どんな謎ならワクワクできるか」っていう自分の好みを知る、さらに「作風が合う作家を見つけたらそこからさらに自分好みの1冊を引き寄せる」という話だったね。
エイミ 読書慣れしていない人が「頑張って読んだのにイマイチだった」と思うのは読書力や読解力不足のせいとも言えない。「どんな謎ならワクワクできるか」っていう自分の好みとその謎がマッチしてないのが大きな理由のひとつだと私は思うよ。
ミキ 自分の感性を大切に、ミキはこの世でただひとり・・・っていう前回の言葉、うれしかったな。本を面白いって思えない自分に少しコンプレックスがあったから。
エイミ 話を戻すけど、今日のテーマ「日常の謎」について、ミキはどういうものかピンとくる?
ミキ そうだな・・・子どもが小さいとき、寝てる間によく頭と足が逆さまになってて、私の顔が蹴られまくってたんだけど、それが必ず夏の夜だけに起こる現象だったんだよね。なんで?
エイミ それも謎と言えば謎だけど(笑)。ちょっと後で考えよう。ミステリーにおける「日常の謎」っていうのは、簡単に言うと「誰も死なない。警察が介入するような事件ではない」「日常生活のなかで起こる出来事」をめぐる謎解きのこと。このジャンルの代表的な作家と作品は、北村薫『空飛ぶ馬』や『鷺と雪』、米澤穂信『氷菓』あたりかな。どれも本好きの間では有名な作品だね。熱心な読者も多いし、文学としての評価も高いんだよ。
ミキ 大事件が起こらないのって読んでて面白いの? 素朴な疑問でごめん。
エイミ いや、ミキみたいに思う人はけっこう多くて。でも謎そのものは日常生活で出合うものであっても、推理・謎解きは手がかりを積み上げて論理的に行うから、「日常の謎」はしっかりとした本格ミステリーに位置づけられているんだよ。
ミキ そうなんだ! ちなみに探偵や刑事は出てこないの?
エイミ 職業としての探偵や刑事は謎解きにほぼ関わらないけど、切れ味鋭い頭脳をもった一般の人が探偵役をつとめる場合が多いかな。落語家だったり、高校生だったり。
ミキ 落語家? 高校生?
エイミ あとは運転手とか、小学生とか実家のお父さんとか(笑)。
ミキ 言いながら笑ってるよね?
エイミ いや自分で言ってて面白くて。日常の謎探偵リスト作ったら楽しいかも。
ミキ まぁいっか。でも謎に関しては具体的に教えてもらわないとイメージ湧かないなぁ。
エイミ じゃあ「日常の謎」の名作からいくつか具体例を挙げてみるけど、そのうえでミキは自分がこのジャンルを現時点で読みたいと思うかどうかを判断してみてほしい。
ミキ 了解! じゃあお願いします。ちなみにエイミは日常の謎は好き?
エイミ 好きだよ。人生は選択の連続ってよく言うけど、謎の連続だとも思うから。子育てなんてとくに謎解きじゃない? 毎日謎すぎて、未解決のまま夜を迎えてるよ・・・。
(2)すごく気になるか、寝たら忘れるか、あなたはどっち?
エイミ ではいきます。〈日常の謎:1〉「喫茶店でたまたま見かけた3人の女性は、なぜテーブルの砂糖壺から代わる代わる紅茶に何倍も砂糖を入れていたのか? 少なくとも1人7~8杯は入れている」
ミキ えっ。甘党サークルとかじゃなく?
エイミ 〈日常の謎:2〉「私は幼い頃、大好きな伯父からある話を聞いて泣いた。伯父がその時なぜか私をあやしてくれなかったことも、強烈な記憶として残っている。けれど思い出せない。私はいったい伯父からどんな話を聞いたのだろう? ちなみに現在、伯父と会うことはできない」
ミキ 本人に聞けないのか・・・。単純に怪談話とかではないの?
エイミ それならたぶん、話した伯父は「ごめんごめん、作り話だよ」なんて言ってフォローしてくれると思わない?
ミキ 確かに。子どもって周りの大人の冷たい反応とかがいちばん怖かったりするよね。だから話の内容そのものは覚えてないのか・・・。
エイミ いいセンついてるね! 続いて〈日常の謎:3〉「私は書店員。毎週土曜日になると必ず同じ男性がレジに来て、50円玉20枚を千円札へ逆両替して帰る。いったい何が起こっているのだろうか」
ミキ ・・・それなに? 独特な謎だねえ。
エイミ これらの謎には全部元ネタがあるから、詳しくはあとで話すけど、ミキがどう感じたかおしえて。
エイミ さあ、どちらかと言えばどちらでしょう?
ミキ そうだな、全然気にならないわけじゃないけど、ざっくり答えると・・・。
エイミ 答えると?
ミキ 私は、これ系の謎は寝たら忘れるのかもしれない。
エイミ なるほど(笑)。
ミキ 聞いてて思ったんだけど、どちらかと言うと私は人間ドラマが背景にあるようなわりと重めの事件とか、もっと一般的な〝ザ・ミステリー〟みたいなのが好きかも・・・。
エイミ 構わないよ、好みだからね。じゃあミキには「日常の謎」を読めとは言わない、言わないんだけど・・・。
ミキ じゃあ今日はそろそろ帰っていい? 夕飯の仕度がありますもので・・・。
エイミ ちょっと待った! 「日常の謎」は、絶対読めとは言わないけど、絶対に知っておいてほしいジャンルなんだよ。まだ帰ったらダメ、絶対!
(3)「絶対読め」とは言わないが「絶対知っててほしい」ジャンル
ミキ ・・・ヤカンを火にかけたまま家を出てきたかもしれないから、帰っていい?
エイミ そんなわけないでしょ!
ミキ じゃあ聞くけど、絶対読めとは言わないけど、絶対に知っててほしいってどういうこと?
エイミ それはこの「日常の謎」がミステリー界、出版界に与えた影響が絶大だからです。
ミキ えっそうなの? わりとユルめの立ち位置なのかと思ってた・・・。
エイミ ところがね、たとえば私達、子どもに「本を読め~本を読め~」ってよく言うでしょ?
ミキ まあ、呪文のようにね。
エイミ 実際にいま数え切れないほど出版されてる子ども向けのミステリーとか〇〇探偵団みたいなものって、ほぼほぼ「日常の謎」なんだよね。
ミキ あぁ、言われてみれば確かに。学校とか町内とか、子どもの生活圏内で起こる謎がテーマだもんね。どう考えても血は流れなそうだし。
エイミ 流れたら困るよね! でも、実際に読んでみると謎解きはしっかり論理的だったりするんだよ。これは子ども、いや10代の読書にとっても、小説で得られる情緒や読解力と、謎解きで得られる論理的思考の両方が養われるジャンルだと私は思うよ。自信をもっておすすめできる。
ミキ じゃあ「日常の謎」って子どもにとっても身近なジャンルなんだね。
エイミ うん。日本の出版業界にいま当たり前のように「日常の謎」が展開してるのは、そもそも北村薫という作家の功績によるものが大きいんだよ。
ミキ 北村薫ってさっき言ってたよね。『空飛ぶ鳥』を書いた人だっけ。
エイミ 『空飛ぶ馬』です。鳥ってわかった時点で謎じゃないし。そうこの北村薫の登場によって、かつて孤独なミステリーマニアだった私の魂は救われた、と言ってもいいくらいなの。ほかにもそういう人いるんじゃないかな・・・。いたらいま、抱き合いたい。
ミキ なんでエイミの魂が救われるのさ。
エイミ そして、続いて米澤穂信が青春ミステリー『氷菓』を書いたことによって、たくさんの本好き、謎解き好きの若い世代が読む楽しみを味わった。
ミキ ・・・あれ? 『氷菓』って何年か前にアニメ化されてない? 観たことある気がしてきたよ。
エイミ さすがミキ、映像作品詳しいね! 『氷菓』をはじめとする古典部シリーズは、アニメも含めて名作の呼び声が高くて、今もたくさんのファンの心を温めているんだよ。
ミキ 古典部っていう、ちょっと変わった部活の話だったっけ?
エイミ とある高校の古典部に所属する主人公達が、学校にまつわるいろんな謎を解いていく青春ミステリーだね。
ミキ そういえばさっきエイミが私に謎の感想を求めたときの「私、気になります」って・・・。
エイミ そう、『氷菓』の登場人物・千反田えるの口グセをお借りしました(笑)。このシリーズで探偵役を務める折木奉太郎は、省エネな高校生活をおくりたいのに、えるの「私、気になります」に振り回される形で毎回、謎解きするはめになるんだよ。
ミキ 振り回される系の名探偵って面白いよね。トホホな感じでジワジワくるわ。
エイミ そう、いろんなタイプの名探偵が登場するのが「日常の謎」の特徴でもあるんだけど、この「私、気になります!」はミステリー好き共通のモチベーションだと思わない? 知りたくてどうしようもないからページをめくるわけで。謎解きは心のワンダーランドだよ。
ミキ 確かにさっきの「伯父から聞いたのはどんな話だったのか」っていうのは、私もちょっと気になってるけど。
エイミ あぁ、じつはそれこそが古典部シリーズ第1作『氷菓』 のいちばんの謎なんだ。奉太郎やえる達が学校に残る古い資料を読み解きながら、それを推理するんだけどね。
ミキ なんかちょっと気になってきた・・・。
エイミ アニメで観たのに覚えてないの?
ミキ 当時は謎解きにそれほど興味がなかったから、そこは覚えてない(笑)。
エイミ まあそんなわけで、『氷菓』を世に送り出した米澤穂信の功績も大きいんだけど、なんといっても第一人者の北村薫。1989年にデビュー作『空飛ぶ馬』が高い評価を受けて、殺人事件や重大犯罪の謎解きだけがミステリーじゃないっていう認識が世の中に広がる大きなきっかけになったんだ。それによって、私の魂も救われた気がする。
ミキ もいっかい聞くけど、なんでそれでエイミの魂が救われるの?
(4)「日常の謎」の浸透がミステリーマニアの心を救ったワケ
エイミ いやそれは「ミステリー大好き」って言ったら変人扱いまではされなくても、子どもの頃は少数派で理解者が身近にほぼいない時代が長かったからだよ・・・。私以外のマニアの日常は知らないけども。
ミキ そうなんだ。そういえば私達って付き合い長いけど、エイミから推理がどうしたっていう話を聞いた記憶がないかも。
エイミ 自分だけの趣味と諦めてたからね。たまたま誰かにその話をすると大抵は「ミステリーって2時間ドラマとかのやつでしょ」とか、「〇〇ちゃんの本棚『なんとか殺人事件』だらけだね」って言われたり。
ミキ うん。私かなあ(笑)。
エイミ いや殺人が好きなんじゃなくて論理的な謎解きが好きなんです! って伝えたくても、具体的に説明できる手段すら、なかなかなかったからね。
ミキ なんかごめん。
エイミ んで、ある時からジワジワと「日常の謎」が浸透してきたのを感じて、これはもしかしたらミステリーの魅力を人に伝えやすくなるのかもしれないと思ったんだ。実際、日常の謎系の本はどんどん増えて、読者の裾野も広がったしね。たぶんそういうのを読んだたくさんの人達が「ミステリーってこうのもあるんだ」って新鮮な驚きを感じたと思う。さらに2009年には北村薫の『鷺と雪』が直木賞を受賞して、私はもう、泣きました。
ミキ 長い独白を黙って聞く優しい私。そうか、泣いたのね。
エイミ 私は個人的には賞とかあまり気にしないけど、この受賞によって文句なく「日常の謎」が文学としてひとつの高みにのぼったんだなあって、美しい朝焼けを見た気分だった。
ミキ そう言われて急に理解したけど、「謎解き」ってひとつの娯楽ジャンルとしてすっかり定着してるよね。脱出ゲームとかマーダーミステリーを楽しんでる人も多いし、児童書にも謎解き系の話ってたくさんある。私たちの子ども時代とは違うんだろうね。
エイミ うん。謎解きは市民権を得て、時代は変わったなと思う。もちろんそこには複数の要因があっていろんな流れでこうなったんだけど、いまは「謎解き好きなんです」って言ったらふつうに「あぁ動画とかイベントでもよくやってるよね」みたいに返されることが増えたし、さりげなく嬉しいよ(笑)。小説と脱出ゲームではちょっと違うけど、謎解きという趣味が市民権を得ただけでもう私の人生、半分は報われました。
ミキ なんかドラマチックだねぇ。親としても、子どもに読書させたいとか論理的思考を身につけてほしいっていう思いもあるから、今日は「日常の謎」ジャンルを知ることができてよかったな。
エイミ でしょでしょ! あっそういえばヤカンにかけた火はもういいの?
ミキ ここまできてニヤニヤしながら蒸し返すなよ・・・。
エイミ ちなみにさっきの「喫茶店でカップに砂糖をたくさん入れる女性たち」の謎は、『空飛ぶ馬』の一篇、『砂糖合戦』という名作からいただきました。
ミキ あ、もしかして「50円玉20枚の謎」も実際の本から?
エイミ うん、これ「日常の謎」界では有名な本でね。推理作家の若竹七海が学生時代に体験した謎を元に、同じテーマで何人もの作家が短編を書いて、それを『競作 五十円玉二十枚の謎』という1冊にまとめたものなんだ。1993年に出版された本だけど。
ミキ え~実話なの!?
エイミ 謎部分だけはね。真相はもうわからない・・・いやだからこそ「自分達で考えたい!」っていうことになったんじゃないかな。その後は第2弾として新しいアイディアの募集があって、優秀作品は2002年の『創元推理21』という雑誌に『新・五十円玉二十枚の謎』として掲載されたみたいだよ。
ミキ そうなんだ。それだけ作家の創作意欲をくすぐる「日常の謎」ってことなんだね。
(5)『氷菓』の名言「パーツではなくシステムを知りたい」
エイミ ちょっと『氷菓』の話に戻るけど、この古典部シリーズはファンの間で語り継がれている名言が多いんだ。
ミキ 名言っていうと、「元気があればなんでもできる!」みたいなやつ?
エイミ いやそれも名言だけれども・・・。『氷菓』のは、たとえば好奇心旺盛な部員・千反田えるによる「パーツではなくシステムを知りたいんです」とか、友人・福部里志による「ジョークは即興に限る、禍根を残せば嘘になる」とか、主人公折木奉太郎の「合理的な人間は概して頭がいい。だが、それは合理的でない人間が愚かだということを示してはいない」とか。・・・いずれも米澤穂信『氷菓』各p87、p24、p46-47より、だね。
ミキ どれもわかるようなわからないような感じだけど。で、エイミはこのなかでどの名言を私に伝えたいわけ?
エイミ さすがよくわかってるね。私は『氷菓』最大の名言は「パーツではなくシステムを知りたい」だと思ってるんだ。アニメ版でも補完して言ってるけど、「パーツの集合体ではなく思考を生み出すシステムが知りたい」と、えるは常に考えてる。
ミキ パーツではなくシステムね・・・。それってたとえば子どもに「片付けなさい!」って叱るのはパーツだけど、「なぜ片付けることが大切なのか」を教えるのがシステムっていうような意味かな?
エイミ うん、いい例えだね! どんなことでも自分で考えるのがいちばん楽しいし、そこがすべての理解の源ってことだと思う。だから第一夜で面白いミステリーを読みたいって言ったミキに、「『十角館の殺人』よりこっちのほうが好きそう」とか「宮部みゆきならこれが好きそう」とか「東野圭吾ならこれが好きそう」みたいにただただおすすめ本を伝えるのはやめようと思ったんだ。それはパーツの集合体だからね。
ミキ ・・・・・・。
エイミ どうした? 急にだまって。
ミキ もしかして、私が第一夜で『十角館の殺人』って面白いの? って聞いたときからエイミが延々と私に「選書のコツ」を話してるのって、パーツじゃなく思考を生み出すシステムを伝えるため、だったわけ?
エイミ うんそうだよ。
ミキ えーーーーーーーーっ!
エイミ そんなに喜んでくれたんだ・・・。
ミキ いや呆れてる。ミステリー好きの思考はんぱねぇなと思って(笑)。なげえし。
(6)読者の好み・年代別「日常の謎」おすすめ本
エイミ ところで北村薫の小説は素晴らしいんだけど、個人的に読書初心者にはあまりおすすめしないんだ。「本好きの北村薫初心者」なら全然いいんだけど。
ミキ どうして? 難しい内容なのかな。
エイミ 謎解きそのものは別に難しくないよ。どの謎も読後は人の温かさにじんわりしたり、反対に悪意にゾクリとしたり、いろんな感情が味わえる。ただ作者自身が古典落語とか古今東西の文学作品に対する造形が深くて、「あの作品にああいう場面があるけれども」「ああ、ありますね」みたいな会話が多いのね。読み手によってはそこについていくのが大変かもしれない。それを知ってて読むならいいんだけど。
ミキ ああそれで、本好きの北村薫初心者なら大丈夫、と・・・。じゃあ「日常の謎」でほかのおすすめは?
エイミ たくさんあるよ! 『氷菓』の米澤穂信が書いた『春期限定いちごタルト事件』にはじまる小市民シリーズは、「小市民でありたい」と願う天才高校生が、ついつい謎解きをしてしまうというちょっと不条理な展開がクスリと笑えるミステリー。2024年8月現在、アニメも放送されてるよね。
ミキ ずいぶん美味しそうなタイトルだね! なんか惹かれる。
エイミ 主人公の1人である小佐内さんという女子高生が大のスイーツ好きなんだ。ほぼ、スイーツを楽しむために生きてる感じ。
ミキ なんか共感できる。ほかのおすすめは?
エイミ 子どもにおすすめの「日常の謎」なら、我が家でずっと愛読してきたのはミルキー杉山というおじさん探偵が街で起こる事件を解決する「ミルキー杉山のあなたも名探偵」シリーズ・・・これは小学校中学年からが対象だね。あとは、「科学で解けないナゾはない」が信条の「科学探偵 謎野真実」シリーズ。基本的に小学生向けだけど、私も面白く読んでるよ。
ミキ これ前にエイミから借りて読んだけど、確かどっちも「事件編」と「解決編」に分かれてて、子どもと一緒に考えた記憶があるわ。
エイミ あとは児童書として初めて本屋大賞にノミネートされた『放課後ミステリクラブ』シリーズ。推理作家の知念実希人が大人向けとまったく同じ手法で書いたという、子ども向けの本格ミステリーだね。探偵役の小学4年生・天馬くんの謎解きが爽快だよ。
ミキ これも毎回後半に「読者への挑戦状」が入ってるね。「事件の真相を明らかにするための手がかりはすべて示された」ってやつ。
エイミ 私は解けたことないけどね(笑)。挑戦状が入っているのは、子どもと読むにもエンタメ性が高くていいよね。あと中学生が主人公の作品としては川澄浩平の『探偵は教室にいない』。これは札幌の街を舞台に、女子中学生の真史(まふみ)が不登校の天才で幼馴染の歩(あゆむ)と一緒に、友人関係をめぐる不可解な謎を解き明かす青春ミステリー。
ミキ 学校が舞台っていうのは子どもにおすすめしやすくて助かるわ。いろいろ探してみようかな。
エイミ あとは大人の読者に視点をうつすと、大人気作家伊坂幸太郎も『チルドレン』っていう名作を書いてる。家庭裁判所調査官が主人公なんだけど、子ども達を救うというより全体的にはクセ強なキャラ達が織りなす人間賛歌という感じかな。いろんな伏線が最後に回収されて「おぉ!」って思うよ。ただ書き手の視点と時系列が行ったり来たりするから読書初心者には少しハードル高いかも・・・。気に入れば続編もあるよ。
ミキ じゃあ質問。視点や時系列があまり変わらず、読書初心者でも読みやすく、後味もよく感動するような「日常の謎」ミステリーはありますか? ちなみに成人女性です。
エイミ 具体的な質問いいね! じゃあ私の知ってる範囲から、坂木司の『和菓子のアン』シリーズをおすすめ。デパ地下の和菓子店を舞台に、不思議なお客や商品をめぐる謎解きと、主人公「アンちゃん」の成長を描いたほのぼのミステリー。よかったら読んでみて。太ると思うけど。
ミキ なんで太るのさ。
エイミ 読んでると確実に和菓子が食べたくなるからね。『春期限定いちごタルト事件』の小市民シリーズとか、『探偵は教室にいない』でもよくケーキを食べていて、スイーツ魂に火をつけられるから気を付けて・・・。
ミキ 逆に言えば、甘い物のお供にそういう小説を読むっていう趣味もオシャレな気がしてきた。やってみようかな?
エイミ 日常の謎は「寝たら忘れるかも」と言いつつ、興味が沸いてきたようだね。
ミキ はっ、そういえば・・・(笑)。
(7)巨匠も意外に「日常の謎」を書いている
ミキ では最後にエイミの好きな「日常の謎」作品があったら聞いてあげよう。
エイミ そうだな、どこまでが「日常の謎」かの線引きが難しい部分もあるけど、人が死なない血が流れないっていう意味で言えば、本格ミステリーの巨匠・島田荘司の短編集『御手洗潔の挨拶』の一編『紫電改研究保存会』と、同じく短編集『毒を売る女』の一編『糸ノコとジグザグ』が好きだよ。
ミキ どっちも変わったタイトルだねぇ。どんな謎かまったく想像できない。
エイミ 詳しくはまた今度話すけど、どちらも40~50ページでサクっと読めるし、よくこんな話書けるなぁ! ってくらいワクワクドキドキするし、爽快な謎解きがたまらない。
ミキ 糸ノコと、ジグザグ・・・? タイトルだけでもう私の想像力の守備範囲を超えてるわ。
エイミ あとは海外ものだけどアガサ・クリスティーが書いたミステリー以外の小説で『春にして君を離れ』。これ、主人公の主婦が自分の内面を探る物語なんだけど、主人公がいわば探偵であり犯人であり、そして最後まで表面的には「何も起こらない」という、究極的な日常の謎。そしてもしかしたらこれは、後味の悪いイヤミスとも言える。
ミキ もう、わけがわかりません。ミステリー以外の小説って言ったわりに「イヤミス」とか言ってるし・・・。
エイミ いやこれ、誰も怪我すらしないけどやっぱりミステリーっぽいんだよ。また今度話すね。次回は「社会派ミステリー」の話なんで・・・。
ミキ つづくようです!
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エイミ ところで・・・さっき言ってた、子どもが寝てる間に逆さまになってて、それが夏だけだって話なんだけど。
ミキ 私の顔が蹴られまくってた話?
エイミ うちの子もそういうことがあったんだけど、旦那が「暑いから『ここではないどこか』を探して無意識のうちに足で敷布団を蹴って移動しようとしてるんじゃないか。それでも実際は上手に移動できなくて、アナログ時計の針のように足元を軸にグルグル何回転もしてるんだろう』って言ってたことがあった。
ミキ 「ここではないどこかへ」って詩的だけど、結局どこへも行けてないってこと?
エイミ たぶん。うちも夏以外は起こらない現象だったから。
ミキ 顔・・・。
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【読書スキルと好みに合わない選書をしないための・・・今日のポイント】
・誰も死なない「日常の謎」というジャンルを知り、自分が興味をもてるか判断したうえで選書しよう。殺人事件や重い雰囲気が苦手な人、短編を読みたい人にもおすすめ
・「日常の謎」と言っても人間心理に切り込む系、ほのぼの系、学生が主人公系、お仕事系などテ-マは多種多彩
・「日常の謎」は児童書にも作品が多く、中学生、高校生が主人公の名作も多いので、子どもや10代の読書にもおすすめ。
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【第八夜予告】
心震える「社会派ミステリー」を読む
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すべての始まり・・・〈第一夜〉はこちらから↓↓↓
どんな謎ならワクワクしますか?〈第二夜〉はこちらから↓↓↓
人気作家・宮部みゆきの選書について〈第三夜〉で話しています↓↓↓
〈第四夜〉では「イヤミス」と作家の「作風」について話しています↓↓↓
〈第五夜〉では東野圭吾のガリレオと加賀恭一郎シリーズについて話しています↓↓↓
子どもの読書にもミステリーはおすすめです↓↓↓
自己紹介です↓↓↓