予想外?織田信長の優しさあふれる手紙と江戸時代のパスポート「フワッと、ふらっと、通行手形の法史学」
「フワッと、ふらっと、通行手形の法史学」
この画像は、織田信長が、豊臣秀吉の正室・寧々に宛てた自筆の手紙と言われているものです。
織田信長が印章に用いた言葉である「天下布武」の印が押され最後に「のふ(のぶ)」と署名されています。
ネットスラングでは織田信長のことを「ノッブ」と呼んでいますが、この手紙が由来でしょうか。
手紙は「寧々さん、初めて安土城によく来てくれました。
いい土産をもらったが、今それよりもいいお返しの品がみあたらないため、よりよいものを探して後日お送りします。
寧々さんは昔から素敵でしたが、さらにお綺麗になり、お人柄よくまた品格が増しより素敵になられましたね。
あのネズミ野郎(秀吉のこと。なぜかサルではない)にはもったいないお方だと思います。
浮気グセのあるあのネズミ野郎だけれども、あなたは立派な方だから、胸を張って堂々としていてくださいね。
この手紙はあのネズミ野郎にも見せてやってください。
『天下布武之印』 のぶ」
という内容の、
第六天魔王と呼ばれ恐れられた
信長らしからぬ、
家臣の家族を非常にいたわる内容を、
今でいう変体仮名主体のくずし字(草書を元にした速記文字)で書かれています。
天下布武之印が押されているので、公文書的扱いになっていますが、命令的なものではないからか、
ひらがな(といっても、現代人のほぼ誰もが読めない変体仮名ですが)主体で書かれています。
変体仮名は、今年の大河ドラマ『光る君へ』の劇中でも、
主人公のまひろ(紫式部)の源氏物語や和歌の執筆シーンなどでよく見かけますし、
来年の大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』は、
江戸時代の出版社である蔦屋重三郎を主人公としてますので、
江戸時代の庶民向け書物が登場するシーンが頻繁にあると思うのですが、
江戸時代の庶民向け書物は、変体仮名で書かれていますので、変体仮名が読めるとより一層楽しめるかもしれません。
変体仮名の読み方についてはまた機会があればご紹介いたしたいと思います。
庶民向け書物ではなく、通常の公文書については、江戸時代、
本文が全て漢字で書かれている候文と呼ばれる、和文漢文混じりの独特の文法、形式で書かれてました。
これを「変体漢文」といったりもしますが、おまけにくずし字で書かれていますので、候文も現代人のほぼ誰もが読めないような代物となっています。
江戸時代の候文としては、往来手形が古文書としてよく残っています。
江戸時代は、半独立の各藩のゆるやかな連合体国家みたいなものだったので、
別の藩に旅行に行くような時は、パスポートのような役割を持つ往来手形が必要でした。
旅行者は、庶民の場合だと、
檀那寺
(葬祭供養をしてもらう寺。江戸時代は戸籍の管理や往来手形の発行などのお役所的仕事もしていました)
か、
村の庄屋
(名主という場合もあります。現代でいうと村長的な役職)
に、往来手形を発行してもらい、
これを藩が設ける関所的な役所である、
御番所の役人(御番人)
や、
幕府が設ける関所の役人に提示して、
出入国の許可をもらっていました。
本文の記載内容は、旅行者の
①住所・②氏名・③行先・④続柄・⑤宗旨・⑥檀那寺・⑦旅行目的などで、
全てくずし字の漢字による候文で書かれていました。
江戸時代の往来手形は非常に多く残っているので、これを読めば、
当時の交通事情や、どこが当時の名所や観光スポットだったのかという、
観光事情等がかなりよくわかるということになります。
往来手形を読むことができれば、いまでは忘れ去られているかもしれない、
江戸時代の観光スポットを発掘し直して、
新しい観光名所の創出につなげることができるかもしれず、
それにより、近辺の空き家の価値向上や、
また、民泊等宿泊施設の集客がしやすくなったりするかもしれず、
空き家問題の解決や地域活性化の一助となる可能性があります。
なお、往来手形に似たものとして、「関所手形」というものがありますが、
これは幕府が人質として江戸に住まわしている、
各地大名の妻や娘などが、
庶民を偽って江戸外に逃亡しないようにする、
あるいは江戸内にこっそり鉄砲が持ち込まれないようにするための、江戸幕府への反乱防止のための証文です。
いわゆる「入鉄炮に出女」を規制するものです。
往来手形と関所手形を合わせて「通行手形」と呼ぶ場合もあります。
往来手形は、以下の画像のようなものです。
これは筆者が、各種試験の受験生の皆様の合格祈願も兼ねて、自作したものです。
「試験合格往来手形
この手形を持つ人達を無事、試験という関所又は御番所を通過させて頂けるようお願い申し上げます。
合格祈願寺 住職 フワふら心理学 印
試験関所又は試験御番所の御役人達様へ」
という内容にしていますが、実物もおおよそこのような感じのものです。