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往復書簡:豊かな表現への道しるべ

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ひとりの本好きの紡ぐ言葉に憧れて始まった往復書簡です。読み方・伝え方を学び、作品から汲み取った思いや心に湧いた感情を、ほっとするような言葉で書いていきます。
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記事一覧

往復書簡~流れる時間を噛みしめる~

拝啓 今年の冬は、地元の人も堪えるほど風が吹き荒れました。窓のシェードに雪の影がうねり、…

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衝動に身をまかせる——セルバ・アルマダ『吹きさらう風』、車谷長吉『贋世捨人』

拝啓 やはらかに柳あをめる岸辺を歩きたい。そんな季節になりました。水面に映る青をみて、あ…

既視の海
7か月前
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往復書簡~隠しておきたかった思考の断面・前回につづいて~

拝啓 いよいよ季節が変わり始めたご様子ですが、いかがお過ごしでしょうか。こちらはりんごの…

「誰が正しいのか」よりも知りたいのは——トーベ・ヤンソン『誠実な詐欺師』、日高敏…

拝啓 夏の忙しい日々が、ようやく終わりました。のびた髪を切り、傷んだ靴を新調し、ゆがんだ…

既視の海
1年前
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往復書簡~強い懐疑心を抑えて~

拝啓 8月に入り、こちらはすっかり夏らしくなりました。この耐え難い暑さの中、健やかに過ご…

何が「書くこと」に駆り立てるのか——石村博子『ピㇼカ チカッポ 知里幸恵と「アイヌ…

拝啓 いまだ出梅の知らせもないままに、炎威ばかり厳しさを増します。御身体はかわりありませ…

既視の海
1年前
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往復書簡~最後まで持ちつづけていられるもの~

拝啓 7月も半ばにさしかかりましたが、いかがお過ごしでしょうか。久しぶりの地元での6月は、冬も夏も梅雨も共存しているような、不安定な月に思えました。幸い豪雨の被害はありませんが、今朝の、遠い地域での災害の報に触れて胸が痛みます。 あなたからのお手紙、そして『シャルロッテ』を読ませていただきました。 真っ先にお伝えしたいのは、自分自身でもうまく理解できなかった感情を、的確に書いて渡してくださったことへの驚きです。 向田邦子の見てきた景色をエッセイから読み取り、そのどれも

書かれた言葉ほど、書いた人の不在を感じるものはない——ダヴィド・フェンキノス『シ…

拝啓 半夏生に大雨はつきものですが、災害の報に胸が痛みます。あなたが暮らす地方はいかがで…

既視の海
1年前
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往復書簡~二度と見ることのない時代への誘い~

拝啓 梅雨は好きになれないとおっしゃっていましたが、いかがお過ごしですか。私は先日雨の合…

あの人だったら、どう行動するか——フォレスト・カーター『リトル・トリー』、向田邦…

拝啓 台風一過の青空も束の間、少しずつ灰色が混ざってきました。やはり梅雨が来てしまいます…

既視の海
1年前
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往復書簡~いっしょに歩きたいです~

拝啓 日中の陽射しのおかげで、出かけるときには蕾だった花が帰宅する頃には咲きかけていて驚…

歩くことと、言葉を紡ぐことは似ている——ハン・ジョンウォン『詩と散策』

拝啓 朝の冷えた空気を楽しんでいたのに、にわかに暑くなり、額のしずくをぬぐってみたら、汗…

既視の海
1年前
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あえて苦しみを引き受ける愛——辻 邦生『光の大地』

拝啓 満開だった桜が少しずつ散り始めました。ふんわりと舞う花びらは、春の光とともに祝福し…

既視の海
1年前
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ひとりの本好きが、本好きの友だちに出す手紙

はじめまして。 まだ名も知らぬあなたに、このような手紙を書く不躾さをお許しください。驚かれたでしょう。 庭のもみじは半分色づきました。週明けにはすべて赤く染まるでしょう。左後肢に障害のあるわが家の愛犬も、日なたぼっこが気持ちいいようです。秋も深まってきたのでしょう。 あなたにこうして手紙を書く理由。話せば長くなるでしょう。でも恥ずかしさを捨てて勇気を出して書くならば、きっかけは書評を書こうと思ったことです。 書評。読書家であれば、書こうと考えるのは一度や二度ではないで