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さくら
ああ神様はまた、ぼくらに悪送球をしかけてきた。
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西加奈子さんの『さくら』を、久しぶりに読みました。
昔読んだ時も、なんて瑞々しい描写なんだろう!と思っていて、ずっと心の中に残っていた作品の1つです。元々は本屋大賞に選ばれた『サラバ!』という本を読んで衝撃を受け、その後別の作品を読むようになり、最終的にたどり着いたのが『さくら』。
最初読んだときには、とにかく主人公の兄ちゃんのエピソードが強烈で、それがずっと心の奥底に燻っていました。タイトルの由来となっている、犬の「サクラ」の細かい描写は、正直記憶の片隅のしか残っていなかった。
それが今回改めて読み直したことにより、ああ「サクラ」が長谷川家の中心的な柱となっていたのだということを思い知らされたのです。
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『さくら』の中では、個性的な登場人物も印象的です。
「鐘のなる公園」で出会った幽霊のようなおじいさんとか、子供たちの間で恐怖の存在となっている「フェラーリ」(異様に足が速い)、小さい頃に兄ちゃんに惚れていた「難関」などなど。
主人公の妹であるミキもなかなか強烈なキャラクターです。美しい容姿とは裏腹に、顔に似つかわしくない破天荒な行動でいつも周りはヒヤヒヤさせられます。そんな彼女の行動に対し、周囲は驚き呆れるも彼女のもつ不思議な魅力に引き込まれていくのです。
数ある登場人物の中で最も印象に残ったのは、姿は男だけど中身は女の子の心を持った「サキコさん」(本当の名前はサキフミ)。サキコさんは、ずっと主人公のお父さんに恋をしていたという経緯があります。
あるとき、サキコさんの実の母親が亡くなります。お葬式当日、主人公と兄ちゃんも参列するのですが、そのときにサキコさんは彼らに言います。
「嘘をつくときは、あんたらも、愛のある嘘をつきなさい。騙してやろうとか、そんな嘘やなしに、自分も苦しい、愛のある、嘘をつきなさいね。」
今でこそ、LGBTという考え方が世の中に普及してはいるものの、現在でも自分とは違う考えを持った人たちに対して、否定的に見る人も一定数います。サキコさんも、きっと苦しみながら、ときには親にも本当のことを伝えることができずに、苦しんできたんだろうな。
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そして物語の中盤になって、主人公の妹・ミキはこんなことを言います。
「皆、ありのままの自分なんて、無いんちゃうん?これは自分じゃないとか、こんなはずやないとか、そんなふうに思って生きてて、誰かの真似をしたり、化粧して隠したりしてる。」
「でも、それも結局、自分やん。」
そうなんだよね、本当にその通りだと思う。ミキに最大限の同感の意を示したい。
心理学の言葉で、「ペルソナ」というものがあります。普段人と付き合うにあたって、人は仮面を被って生きているという概念です。なぜ『さくら』の登場人物たちが魅力的に思えるのかと思ったときに、彼らが皆ペルソナを脱ぎ捨てて、等身大で生きているからだということに思い至りました。
一方で、ペルソナを脱ぎ捨てて生きるのってひどく大変です。本当の自分が他の人に受け入れられるかどうか不安になるし、受け入れられなかった時のリスクも大きい。本当の自分を全面に押し出すことにより、拒絶され人格否定される恐れもあります。それによって、場合によっては一生拭うことのできない傷を負ってしまうこともあります。
誰だって苦しい生き方はしたくない。誰かに愛されたいという感情を少なからず抱えてる。でも、本当の自分も知って欲しい。
昔私が通っていた学校でも、同性愛者だと思われる人がいたのですが、その当時のわたしは遠くで見守っていることしかできなかった、そんな歯がゆい記憶も一緒になって思い出されました。
もし人とは違うことで悩んでいる人間がいたら、そっと寄り添って話を聞いてあげられる人間でありたい。どこか綺麗事思われるかもしれないけれど、そんなふうに思わせられる作品。
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本来であれば、全体を通じて重くて暗い話になってしまっても仕方がないはずなのに、それが長谷川家の「サクラ」が救っているような気がします。春に咲く桜のように。
誰もが、退屈していた。
ここではないどこかへ行きたがって、そのくせ動き出すのが怖くて仕方がない、それは、そんな絶望的な退屈だった。そしていつしか、それは僕自身だと気づいた。
映画化されていたんですね、知らなかった。。
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