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オリジナル小説

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過去に趣味で書いていたオリジナルの拙作を修正してお届けします。 ストーリーは全くのオリジナルのつもりですが、同じような話を読んだと言う方は、それが確認できるサイトや書名をお知らせ…
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記事一覧

【掌編小説】巨大ショッピングセンター(1252字)

【掌編小説】巨大ショッピングセンター(1252字)

 西塔の家からほど遠くないところに、郊外型の巨大ショッピングセンターが誕生した。かつてないほどの規模のショッピングセンターであった。西塔も行ってみようと思ったが、開店当初はものすごい混みようで、簡単に駐車場に入ることもできなかったらしい。
  新開店してからしばらく過ぎた頃、西塔は家族共々そのショッピングセンターへ出かけることにした。早い時間帯に行ったが、それでもかなり駐車場への車の列は長かった。

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【掌編小説】始発電車(1332字)

【掌編小説】始発電車(1332字)

 西塔は都心の小さなアパートから郊外の家に引っ越した。西塔の会社は都心にあるが、都心の近くではそんな広い敷地の家を買うことはできない。だから西塔は、始発に近いぐらいの電車に乗ると会社の定時に間に合う郊外に、念願だった広い庭のある一軒家を構えたのだ。

 土日に引っ越しを終わって、新居から初めて出勤する月曜日。西塔は朝早く起き、何とか始発電車に乗り込むことができた。
「結構辛いなあ。まあ、そのうち慣

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【掌編小説】怒れる女(1492字)

【掌編小説】怒れる女(1492字)

 その女は、鬱憤を晴らすようにずっと話していた。

「幼い頃にね、母の再婚相手に、ずっと虐待されていたのよ。だから、ちょっと、その男の食事に古い農薬を盛ったわけ。殺そうとかそういうのじゃなくて、ちょっと仕返しって言うか、自分の身を守るためよ。まあ、幼子の防衛本能みたいなものよ。だいいち、その農薬を食事に入れるとどうなるとか、それが悪いこととか、そういうことはわかってないわけでしょう。」

「小学校

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【掌編小説】加速薬 (1802字)

【掌編小説】加速薬 (1802字)

 オレは東涼大学薬学部の学生だ。夜中にこっそり、実験室で新薬の調合をしている。動物の神経伝達速度を速める薬だ。サイボーグ009というかなり古い漫画で見たことがある加速装置を生身の人間で実現する薬だ。名付けて言うなら加速薬だ。
 多分、これで完成したはずだ。ラットで試してみる。そのラットは、ケージの中につるされたリングの中をものすごい勢いで走り始めた。成功だ。いろいろ調べてみると、5倍程度の速度とな

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【掌編小説】運命の人(1138字)

【掌編小説】運命の人(1138字)

 杜山はある朝、小指に赤い糸が結ばれていることに気づいた。ほどいて取ろうとしても取ることができない。だからと言って、杜山の行動の邪魔になるわけでもない。糸の先は玄関の方へ伸びていた。扉のところまで来ると、その扉を突き抜けるように外へつながっている。宙に浮いた状態、かと言って、ずっと真っ直ぐなわけでもなく、杜山が歩ける方向に曲がっている。折り返しの階段であれば、その進路に沿って糸も曲がっている。

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【連載小説】あの時、僕は二人になった[8/10](7130字/総約8万字)

【連載小説】あの時、僕は二人になった[8/10](7130字/総約8万字)

(十五)

 倫也は実音に詳細を話したが、一雄や勇雄、百川の人たちには何も話すことができなかった。ハタケガワに指図している男にどうやって出会ったのか、いつ出会ったのか、知っていたならなぜ早く言わなかったのか。今回は写真や動画がないから、あの男のことを説明できる材料がない。世界線を跳んだから、とは説明できるわけがない。唯一の手がかりは、今夜、廃校で破壊行為をするはずのハタケガワだけだ。ハタケガワを捕

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【連載小説】あの時、僕は二人になった[7/10](6676字/総約8万字)

【連載小説】あの時、僕は二人になった[7/10](6676字/総約8万字)

(十三)

 祭りは楽しい。祭りと言われて勇雄がイメージするのは、小さい頃から慣れ親しんだ百川の祭りだった。一雄が住む中萱集落だけではなく近隣の集落でも神輿が練り歩き、百川神社に奉納される夏の例大祭だ。それは勇雄にとっての原風景だった。全国に名前を轟かせるほどに大きな祭りではない。京都の祇園祭に比べれば、いや比べようもないほど小さな、おらが町のお祭りだ。しかしそれだけに、旧百川村に住む人にとって愛

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【連載小説】あの時、僕は二人になった[6/10](7332字/総約8万字)

【連載小説】あの時、僕は二人になった[6/10](7332字/総約8万字)

(十一)

 実音はいくつかの不安を抱えていた。最も大きな不安は倫也のことだ。倫也が何の前触れもなくもう一つの世界線へ突然跳んで行ってしまうのではないか、といつも気が気でない。そしてもしかすると、実音の目の前から消えてしまったまま二度と戻ってこないのではないか。そんな不安を払拭し、自分を鼓舞するためにも、実音は懸命に明るく振る舞おうと心に決めていた。
 飛高の街に行くのに、倫也は自転車で行くことを

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【連載小説】あの時、僕は二人になった[5/10](8844字/総約8万字)

【連載小説】あの時、僕は二人になった[5/10](8844字/総約8万字)

(九)

 朱莉は実音とともに歩いて集会所に向かった。実音は足を引きずるようにしている。
「朱莉さん、ゆっくりでお願いします。」
 昨日、頑張りすぎたのだろう。いつもと違う運動をすれば違う筋肉を使うから、筋肉痛になるのは当然だ。昨晩は疲労困憊で、実音は早々と寝てしまった。向こう見ずを絵に描いたような女子高生に付き合うのは骨が折れる。朱莉とは三歳しか違わないのに、高校生は高校生というだけでとても若い

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【連載小説】あの時、僕は二人になった[4/10](7314字/総約8万字)

【連載小説】あの時、僕は二人になった[4/10](7314字/総約8万字)

(七)

 中之内家に着いたときには、倫也はダウン寸前だった。シャワーを浴びたらもう座っているのも辛く、ソファの上に倒れ込んんだ。ゆっくり横になって夕食まで昼寝をしたいと考えていた。
 しかし、神輿の装飾品の素材を手に入れるために出かけることになった。装飾品の素材として手芸用品を使うというのが朱莉の案だ。それを売る店が飛高駅前にある。
「まあ神輿を飾るんだから、ちゃんと神具店も見に行かないとね。」

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【連載小説】あの時、僕は二人になった[9/10](8527字/総約8万字)

【連載小説】あの時、僕は二人になった[9/10](8527字/総約8万字)

(十七)

「なんでいちばんいい時に跳ぶんだよ!」
 倫也は地団駄を踏んだ。百川神社の祭りの最中、それも実音と二人で祭りを思い切り満喫していたところだった。すでに夕方近くであったので、今日はもう跳ばないだろうと安心もしていた。
 最低なタイミングでトモナリの世界線に跳んできたことで、倫也の頭の中は憤懣やるかたない思いで埋め尽くされてしまった。トモナリの病室に入って毎度おなじみの挨拶をすることも面倒

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【連載小説】あの時、僕は二人になった[10/10](8789字/総約8万字)

【連載小説】あの時、僕は二人になった[10/10](8789字/総約8万字)

(十九)

 祭りの翌日、朱莉は百川でもう少しやることがあるということで、倫也と実音は二人で名古屋に戻ることになった。
 名古屋駅から栄に出て、そこから私鉄に乗り換える。実音の家の最寄り駅は、倫也の家の最寄り駅より一つ手前になる。家まで送っていくと倫也は提案したが、まだ明るいから大丈夫と実音は言う。そんなんじゃないんだけどな、少しでも長く一緒にいたいのに……と倫也は内心不満に思った。
 その日の夜

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【連載小説】あの時、僕は二人になった[2/10](8937字/総約8万字)

【連載小説】あの時、僕は二人になった[2/10](8937字/総約8万字)

(三)

 仕事を終えて、宗隆は中之内一雄の家に向かった。
「一雄さん、いる?」
 宗隆が玄関から声をかけると、一雄の妻、寿々子が顔を出し、
「あら、いらっしゃい。」
と居間に通してくれた。ソファには一雄が座っており、夕方のニュースを見ていた。
「宗隆くん、ご飯まだでしょ。用意するから食べてって。」
 宗隆が遠慮するのも聞き入れず、寿々子は宗隆分の夕食も準備し始めた。隣の和室では、四人の若者が喧々

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【連載小説】あの時、僕は二人になった[1/10](8349字/総字数約8万字)

【連載小説】あの時、僕は二人になった[1/10](8349字/総字数約8万字)

 (プロローグ)

 一学期末試験が終わった日の午後のことだった。
 試験がやっと終わって、僕はとても解放された気分だった。夏休みに向けて新しい靴が欲しくて、栄まででかけてきた。目指すは、アディクスかアシッダスだ。どちらも新しいクールなデザインのいいスニーカーが新発売されていた。でも、まだ家の近くのショップでは取り扱いがなかった。栄にある直営店には限定で入荷したという話を聞いたから、とりあえず実物

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