ロシアからSFと「愛(love)」をこめて「サハリン島」
<SF(12歩目)>
ロシアから「愛(love)」溢れる作品。まさに「ロシアから愛をこめて」を楽しむ。
サハリン島
エドゥアルド・ヴェルキン (著), 北川和美 (翻訳), 毛利公美 (翻訳)
河出書房新社
「12歩目」はお隣のロシアからの極東地域(サハリン・千島列島)を舞台としたSF作品です。
帯に「北朝鮮発の核戦争後、先進国で唯一残った日本は鎖国を開始。帝大の未来学者シレーニは人肉食や死体売買が蔓延するサハリン島に潜入する。」なんて書かれていたので思わず読んでみました。
著者のエドゥアルド・ヴェルキンさんは、ロシアでは有名な芥川龍之介びいきの作家です。
また、日本のアニメに傾倒し、広島・長崎を理解するロシア人の一人です。(ロシアの一般的な「日本観」はアニメと広島・長崎であり、彼は一般的なロシア人です)
その意味で、多くのロシア人が感じる「日本像」(これは私たちにとっては不思議な感覚です)が溢れている作品になっています。
作品は、自然が荒々しい択捉島から始まり、途中で核戦争後の東京を経由して、豊かな自然のサハリン島の南北を旅して終わります。その意味で、ロードノベル的なSF作品です。
そして彼の出身地が旧ソヴィエト連邦時代の最大の強制収容所が存在していたコミ共和国(モスクワの北東で北極海に面している)であったからか、強制収容所への言及がとてもリアルです。
私の外国人ビジネスパートナーたちも推す「ここ10年のロシアで最高のSF」と言っていますが、何故に舞台が辺境のサハリンなのか?
その回答は読むとわかるのですが、究極の「利他」とは何なのか?を含めて「どーん」と深く味わえる作品になっています。
また、作品内のサハリンのディテールは、仕事で伺ったのですが「正しい」と思います。
今も、大日本帝国の残滓が至るところに残るサハリンだからこそ描ける世界観に浸ると、隣国の国民の考え方が少し理解できると感じました。
この作品の中の「愛(love)」は、高緯度地帯の太陽の様に淡いけれど力強い「愛(love)」です。とても長編の作品ですが、「心が打たれます」!
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