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20世紀初頭のソヴィエト連邦の忘れられた、しかし興味深い作品「未来の回想」

<SF(197歩目)>
もう95年前の作品。でも、現代のスタートアップの起業家と同じ苦しみが伝わる不思議な時間SFです。

未来の回想
シギズムンド・クルジジャノフスキイ (著), 秋草 俊一郎 (翻訳)
松籟社

「197歩目」は、シギズムンド・クルジジャノフスキイさんの1929年の古典SF作品。

でも、私は現代の日本のSF界の藤井大洋さんの最先端のスタートアップものに通じる、起業家のような主人公のマクシミリアン・シュテレルの取り組みが非常に興味深い作品だと感じました。

20世紀初頭の科学技術でタイムマシン(時間切断機)に取り組む。
当時になかった技術ではなく、革命直後の科学技術での取り組み。
時間に異常な執着心を持つ(スタートアップには必要な能力)主人公が、何があっても作りたいタイムマシン。

戦争や捕虜になっても、革命ですべてがなくなっても、それでも取り組む姿は今日の多くの起業家と同じ。

こだわりがSF作品以上に鮮やかに訴求する作品でした。
作品にはコンピュータもAIも登場しない。
そして、革命後のソヴィエト連邦では発表もままならず、引き出しの中にしまわれていた作品。

発表できないが、書きたいことを書く。

まさに、魅力的なSF作家が金銭的な見返りではなく、「書きたいことを書く」というデビュー作品のような鮮やかさ(小川哲さんのゲームの王国のような好きだから書いている!が伝わる作品)でした。
戦争に駆り出され、二等兵として戦闘に加わる主人公。生きるか死ぬか?の状態でも、「タイムマシン」に取りつかれている姿は単なるSF作品以上に魅力的です。

生前に書物としてのかたちをとることがなかったとのこと。
この作品自体が「タイムマシン」ですね。

これが2024年に95年を経て日本に住む私が読めたことを松籟社さんに感謝します。

またあとがきで、ウェルズさんの「タイムマシン」が未来に到達して、「知性が退化した支配階級」と「被支配階級」との階級闘争で進化した人類を描いたが、そもそもクルジジャノフスキイさんの生きた20世紀のソヴィエト連邦は共産党独裁のもと実現された労働者の非人間的な酷使があって、既にそのまま「ディストピア社会」だったと。

読後に読んで、あ~そうか。と感じました。

なんか、「SF」でもあり、「スタートアップ」でもあり、そして「ディストピア社会」でもあり、とても面白い作品です。

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