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「顔なし」になって初めて理解できる「死んでから俺にはいろんなことがあった」

<文学(194歩目)>
社会から「疎外」された人たちの感じかたを理解するすべに。

死んでから俺にはいろんなことがあった
リカルド・アドルフォ (著), 木下眞穂 (翻訳)
書肆侃侃房

「194歩目」は、「疎外されている人たちに思いを巡らせ、共感するすべになる」作品です。

タイトルを見た時には、「死後の世界」の話かと思いました。(笑)

読み始めると、故郷の「くに」で何かをやらかして不法移民として「島国」に逃げてきた物語。この展開で、不法移民として感じた「島国」での体験と感じました。

物語は、不法移民として滞在している中で妻が「何が何でも欲しい」と感じたスーツケースを購入して動き出す。

言葉も、習慣もわからない外国で「外出先から自宅に戻る」だけでも苦難の道のり。まさに「アウェイ」であることから様々なことが起こります。
このドタバタを読み進める中で、海外旅行中に感じたことを再体験できる。
あ~、言葉もわからないと。。。ちょっとしたことで、とんでもないことが連続して起きてしまう。。。と読み進めてしまいました。

しかし、途中から「タイトル」が大きく迫ってくる。
「死んでから」とは何なのだろう。
「死んでから」に対して対応する言及がまるでない。。。

この辺りからとても興味深くなりました。

故郷の「くに」で生活して、周囲に自分をよく知る人たちに囲まれている際に感じない「疎外感」。知人、友人がいなくても、取り囲む「文字」は理解できる。でも、全く見知らぬ国に不法で滞在すると、本人のひやひやドキドキとは異なり、社会から疎外され、存在すら無視され続け、そして1ミリも周囲のことがわからない状態に。。。

この「疎外されて、存在も無視されて」が「死んでいる状態」だと気づいた。「死んでいる状態」≒「顔無し」なのですね。

この「死んでいる状態」の時に、周囲の人には感じられない「いろいろなこと」が連続して起きてしまう。

このことが心を突いてから、カバーの絵の顔の表情をなくした男が見えてきた。

周囲のコミュニティから「疎外されて、存在も無視されて」、「死んでいる状態」って、不法移民でなくても「あるある」の状態です。

周囲から「疎外されて、存在も無視されて」を感じたときに、このリカルド・アドルフォさんの作品はものすごい筆力で「突いて」きます。

ちょっと「通常の道」から外れた時。強い「疎外感」を感じた時に、出会えると素晴らしい作品だと思いました。

何故か、「島国」で言葉もわからず右往左往している主人公って、不法移民でなくても「死んだ状態」になることも大いにある。
だから、この「不法移民」という「状態」を私たちには全く関係のない世界として見ないために、読まれていい作品だと感じます。

途中からは、筆力に引き込まれました。すごい。書肆侃侃房さん、このような作品をどんどん出してください。

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