知らなかったインド東北部の輝く才能「そして私たちの物語は世界の物語の一部となる」
<文学(187歩目)>
このアンソロジーは、インドの北東部を知らない、関心がない人でも読めて、感動できる素晴らしいアンソロジーです。
出遭えてよかったです。
そして私たちの物語は世界の物語の一部となる: インド北東部女性作家アンソロジー
ウルワシ・ブタリア (編集), 中村唯 (監修)
国書刊行会
「187歩目」は、ウルワシ・ブタリアさんによるインド北東部の8州の女性作家のアンソロジー。
私にとって初めての地域の、初めて出会う才能。
素晴らしかったです。
インドの国土の右端で、登山をしている私にはあこがれの地。
しかし、まだ行ったことはなく、詳細な概念はつかめていなかった。
女性作家のアンソロジーですが、この8州の置かれてきた歴史、文化、考え方、問題点が鮮やかに理解できる好著であり、いくつかの短篇には心を突かれた。
主に、ナガランド州、アルナチャル・プラデッシュ州、ミゾラム州、マニプール州の作品なのですが、なぜか心を強くつかむのは悲劇も多い、ナガランド州の女性作家たちでした。
「語り部 エミセンラ・ジャミール」
口承により、民族の伝統を伝える世界。
この口承を執り行う「ウツラ」に強い関心を持つ女性の作品。
既に、私たちの世界では「口承」というものが絶えていると思う。
私たちの遠い過去に行われたことが、非常に強いモチーフで訴えかけている。「黒い壺」のくだりは、とても印象に残った。
読後も、強い印象が脳に残っている。
「四月の桜 イースタリン・キレ」
第二次世界大戦時の、ナガランド州における日本軍と現地の人の関係。
これがとても美しい比喩で語られている。
「四月の桜」は読後に鳥肌がたった。
「手紙 テムスラ・アオ」
とても印象深い作品。反政府勢力と政府、一概にどちらとは言えない関係の中で、現地に暮らす普通の人々がいる。
この普通に暮らす人々が、双方からの暴力により虐げられた存在。
原因なんか、超越するくらいに不条理が多い。
その中で、一つの行動が重く人々にのしかかる。
素晴らしい作品。
「赦す力 アヴィヌオ・キレ」
女性に対しての暴力を扱った作品。ナガランド州だけではなく、この問題は世界共通。この解決の仕方には回答がないと思う。
私は、「暴力が彼女を汚さなかったことを知り、魂を苦しませていた悲痛がなくなり、解放された喜びに浸った。」この起点が「赦す力」であったことが作品を昇華させたと思いました。
<参考>
「赦す力 アヴィヌオ・キレ」が心を突いた人には、「セヘル」だけでも心を突きます「セヘルが見なかった夜明け」
アルナチャル・プラデッシュ州は、
「森の精霊 スビ・タバ」
「亡霊の歯科医 ミロ・アンカ」
「闇に葬られし声の中で ポヌン・エリン・アング」
「ザ・サミット――ティーネ・メナのインタビュー ママング・ダイ」
マニプール州は、
「真紅のうねり ネプラム・マヤ」
「ツケの返済 スニータ・ニンゴンバム」
「夜明けの大禍時 グリアルバム・ガナブリヤ」
が心を突いた。
「夜明けの大禍時 グリアルバム・ガナブリヤ」
とても短い作品で、始まりからは結末までが結びつかなかった。
しかし、読んで一番心を突く作品の一つ。
日常の中に、政府と反政府勢力が混在し、それぞれが人生を生きている。
どちらの主義主張が正しいのか?は私はまだ理解できていない。
しかし、生きていればあった「可能性」が閉ざされてしまうこと。
これが苦しい。
このアンソロジーは笹川平和財団による支援により刊行されたとのこと。
素晴らしい作品を紹介してもらい、感謝です。
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