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重く心に刺さる自由がない世界「クルーゾー」

<文学(220歩目)>
東ドイツという、今は存在しない国の本質。

クルーゾー
ルッツ・ザイラー (著), 金 志成 (翻訳)
白水社

「220歩目」はルッツ・ザイラーさんの東ドイツという国家の終焉を色濃く描いた作品。

私事ですが、学生時代に今は無き東ヨーロッパの国々放浪したことあり。
その際に、西ベルリンから東ベルリンに入り感じたことがよみがえりました。

当時は、ソヴィエト連邦が崩壊するとは思わなかった。
自分自身が、書籍の世界だけで知っていた世界を就職前に自分自身の目で見ておきたいの一心で東ドイツに入り、それからずっと東ヨーロッパを自分自身の目と触れ合う市民との会話で測っていたのですが、自由への渇望を強く感じた。

そんな中で、宿泊先の夫婦からお聞きしたのがこのバルト海の島。
たとえ、撃たれなくても冷たい海流の中で命を落とす市民。
そして、逃亡しなくても命をかけて闘う市民。
それぞれが託したものが「表現」だった。
私が出会った人は「音楽」で表現していたが、この作品では「詩」に託している。

生きていて、自分たちではどうにも運命を切り開けなくなっている時こそ、芸術という「表現」がとても重要であること。この作品でも深く描かれている。

この作品の執筆構想が出たころを知る者の一人として、歴史の一ページでもあり、ザイラーさんが何を伝えていきたいのかが、後半に突き刺さる作品でした。

この絶望的な雰囲気が、それから数年で瓦解する。
でも、この時代を生きた人たちにとって、瓦解は信じられない出来事であり、ここで消えたいくつもの命がこの作品には生きていると感じました。

すごく長編で、そして研ぎ澄まされた文体で、心を突く作品です。

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