支田 練

支田 練(しだ ねる)と申します。 小さな本屋で働いています。不定期で短編小説を投稿し…

支田 練

支田 練(しだ ねる)と申します。 小さな本屋で働いています。不定期で短編小説を投稿します。 スキ→ 猫、茶道、芸術、植物、本

最近の記事

【short-short】幸せな未来(493字)

夫に癌が見つかって、ホスピスに入院することになった。 年の差夫婦なので、夫を看取る覚悟は出来ていた。 そして、入院してすぐに夫に認知症の症状が出た。 毎日見舞いに行っているが、もう私のことを妻だと認識していないようだった。 私たち夫婦には双子の娘がいる。 娘たちは私によく似ていた。 2人とも結婚をしていたが、よく見舞いに来てくれていた。 あるとき、次女が1人で見舞いに行ったら、夫が次女を私と勘違いして抱きしめようとしたそうだ。 夫のなかの時計の針は何十年か戻ったようで、

    • 「あんこのお花」の体験教室に行ってきました。写真はおはぎ(あんこの下は餅米)です。 難しすぎでした。でも楽しい&美味しかったです。

      • 【short‐short】着物に願いを込めて(344字)

        気分転換によく家の近所を散歩している。 ある日、散歩コースにある神社で、着物を着た女性を見かけた。 無地で茶色と灰色の、落ち着いた印象の着物だった。 女性は神社に植えられている、まだ咲かない桜の樹を眺めていた。 その女性の横を通り過ぎるとき、横目に着物を見た。 無地に見えた着物には、細かな桜の花が無数に描かれていた。 赤みを抑えた桜で、花がびっしり描かれている部分が遠目に灰色に見えていたのだ。 ひらひらと舞っている花びらは、あまりにも小さかったので遠くからは見えず、生

        • 【短編小説】地域猫のミャアちゃん:後編(657字)

          急いでタオルでミャアちゃんの身体を拭いて、ご飯と飲み水の用意をする。 実家で猫を飼っていて、何かあった時のためにこの家にも猫用品を置いていたのだ。 ご飯をもりもり食べるミャアちゃんを見て、備えていて良かったと安堵した。 それからミャアちゃんは、うちにもよく来るようになった。 外とおじいさんの家、私の家を自由気ままに往来していた。 猫好きの私はすぐにミャアちゃんの虜になり、自分の家で飼いたくなった。 しかし、外で遊びたがるミャアちゃんと、隣のおじいさんのことが気になり出来

        【short-short】幸せな未来(493字)

        • 「あんこのお花」の体験教室に行ってきました。写真はおはぎ(あんこの下は餅米)です。 難しすぎでした。でも楽しい&美味しかったです。

        • 【short‐short】着物に願いを込めて(344字)

        • 【短編小説】地域猫のミャアちゃん:後編(657字)

          【短編小説】地域猫のミャアちゃん:前編(589字)

          ミャアちゃんはこの辺りの地域猫だ。 洋猫の血が混ざっているような灰色の毛で、可愛くて、賢くて、人懐っこくて、皆の人気者だ。 でも、なぜミャアちゃんが地域猫として外で暮らしているのか誰も知らない。 ミャアちゃんは、うちの隣のおじいさんの家によく遊びに来ていた。 おじいさんはミャアちゃんが出入りできるように、いつも縁側のガラス戸を少し開けていた。 私は、おじいさんがミャアちゃんにご飯をあげたり、ブラッシングをしている姿をたびたび見かけていた。 その様子はとても微笑ましくて、お

          【短編小説】地域猫のミャアちゃん:前編(589字)

          【short-short】猫神様はきっといる(162字)

          次の子はどうしよう? 白をたくさん? 黒をたくさん? 茶色も灰色も、しましまも素敵。 しっぽは? 長くてすらっとしていると格好良いし、短くて丸まっているとかわいいし、迷ってしまう。 瞳は何色が良いかな。 どの色も宝石みたいにキラキラきれい。 みんな、とびきり可愛くて素敵な一張羅で生まれる。 さあ、そろそろお外に出る時間だよ。 幸せになってね。

          【short-short】猫神様はきっといる(162字)

          【short-short】悟ったネズミ(489字)

          しまった…捕まった… 毛並みの良い猫に咥えられながら、僕は後悔していた。 花や木の実、虫がたくさんいる餌場を見つけたと思ったら そこは猫が住んでいる家の庭だった。 幸い、猫は僕をすぐに食べるつもりは無いようで、 僕を咥えたままどこかに、おそらく人間のもとに、運ぼうとしている。 庭の手入れをしていた人間は、猫に誇らしげに僕を見せられて驚いていた。 僕は助けて!と声を張り上げる。 チュウ!! 「……まあ!さっちゃんが捕まえたの?狩りが出来て偉いわね。 ご褒美のおやつを

          【short-short】悟ったネズミ(489字)

          【短編小説】コウタの一生(920字)

          僕はコウタ。かわいい猫だ。 人間が毎日、毎回言うのだから間違いない。 幼いときにカラスに襲われていたところを、通りかかった人間に助けられてそのまま人間の家で暮らすことになった。 そのとき僕は、母や兄弟たちとはぐれてしまっていた。 喉がかれるまで鳴いたが、彼らが来ることはなく、代わりにカラスが来たのだ。 人間が通りかからなければ、僕の一生はあのとき終わっていた。 あれからどのくらい経ったのだろう。 おとなになって分かったのだが、僕はどうやら体が弱くて神経質な猫のようだ。

          【短編小説】コウタの一生(920字)

          【抹茶道】盛夏の氷水点て

          お湯を使わず、氷水で薄茶を点てます。 美味しいのでおすすめです。 自己紹介でもちょっと書きましたが、夏の1コマ用に改めて載せます。 水鉢は白磁で、大小5匹の蟹がいます。 棗には波車が、お茶碗には夕顔が描かれています。 お湯のときに比べて、茶の泡は立ちません。今回は顔が浮かび上がりました笑 #夏の1コマ

          【抹茶道】盛夏の氷水点て

          【自己紹介】スキなこと

          こんにちは。支田 練(しだ ねる)です。 短編小説、ショートショートを投稿しています。 猫が好きなので、猫が出てくる話が多めです。 その他のスキ→ 茶道 : 抹茶は18年しています。煎茶を最近習い始めました。 写真は氷水で抹茶を点てたものです。美味しいです。夏におすすめの飲み方です。 芸術 : 伝統工芸品、絵画、なんでも広く浅く好きです。 植物 : 茶花、果樹が好きです。いつか茶庭と果樹園を造りたいです。 本 : 本屋で働いていますが、図書館、古本屋の方が好きです

          【自己紹介】スキなこと

          【短編小説】猫と出会った男の話4(終)

          猫と妻と過ごす毎日は充実していた。 仕事から帰ってきて、妻と二人で思う存分猫を撫でるときが幸せだった。 週末には妻とともに、保護猫の世話をするボランティアに参加するようになった。 結婚して二年近くが経とうとしても、夫婦には子供がいなかったが、 猫がいたので気にならなかった。 妻と、いつか古民家を買って猫カフェを開こう、 猫には店長をしてもらおう、などと話しをしていた。 そのために貯金をしようと。 肝心の猫は二人の会話には無関心で猫ベッドで寝ていた。 ある日、いつも二人

          【短編小説】猫と出会った男の話4(終)

          【短編小説】猫と出会った男の話3

          男は煙草をやめることにした。 猫は煙草が嫌いなようだし、猫の治療費は大きな出費だったので 少しでも節約しようと思ったのだ。 男の生活は変わった。 早起きをして、猫の世話や弁当を作るようになった。 それでも猫はいつも男より早く起きていた。 毎朝家を出るとき、男は名残惜しい気持ちで猫をなでるのだが 猫はひと撫でされると早々にベッドに行き、寝るのだった。 男は日を追うごとに猫を献身的に世話するようになったが、 猫は男に対して素っ気なかった。 男は今まで以上に仕事に励んだ。 それ

          【短編小説】猫と出会った男の話3

          【短編小説】猫と出会った男の話2

          朝、男が目覚めると猫はすでに起きていた。 猫に水と冷蔵庫にあったサラダチキンをほぐして与える。 猫の食事を横目に見ながら煙草に火をつけた。 早々に食事を終えた猫は、目ヤニだらけの眼で煙草の煙を見て、鼻をヒクヒクさせた。猫の様子を見て、男はなんとなく煙草の火を消した。 男が身支度を済ませて買い物に出るときには、猫はもう寝床で丸くなって寝ていた。 近所のホームセンターでキャットフードと猫のトイレ砂を買う。 会計を済ませて一度は店を出ようとしたが、ペット用品コーナーに戻り、

          【短編小説】猫と出会った男の話2

          【短編小説】猫と出会った男の話1

          あるとき、男は猫に会った。 仕事帰りに毎日のように寄るコンビニの駐車場に痩せた白黒の猫がいて、 目ヤニだらけの眼で恨みがましく男が買った弁当をビニール越しに見ているのだ。 辺りには猫と男しかいない。 男はしゃがんで弁当を開けると唐揚げを一つ、猫の方に転がした。 猫は男を睨んだまま唐揚げを食べた。 その場を去ろうと立ち上がって向きを変えると、目の前に猫がいた。 驚いてさっきまでいたであろう所を見ると、唐揚げの衣が残っていた。 男は住んでいるアパートがペット可の物件であることを

          【短編小説】猫と出会った男の話1

          【short-short】真夏のオリンピック

          新田(にった)の最近楽しみは、帰ってから観るオリンピックだ。 新田は書店の外商部員として働いていた。 今日も汗だくになりながら、営業車に本を積んでいる。 前回のオリンピックのときはコロナの影響で外まわりの営業活動が思うようにできなかったが、今回は酷暑が原因で外まわりは危険だ。 それでも、仕事が終わってから飲むビールの美味さを思って一日働いた。 一人暮らしのアパートに帰り、シャワーで汗を流す。 浴室から出て体を拭くと、髪は乾かさずにすぐにソファにドカッと腰を掛けた。新田家の

          【short-short】真夏のオリンピック

          【short-short】猫掻茶碗

          陶芸家は猫と暮らしていた。 彼は猫をとても愛していて、猫が仕事場に入っても追い出さず 猫の好きにさせていた。 猫は自由気ままに、窯入れ前の並べられた皿の上を歩いたり 茶碗をちょいちょい引っ搔いたりしていた。 陶芸家は、猫がいたずらした器も気にせず窯に入れて焼いた。 出来上がった器には、猫の足跡や引っ掻いた爪痕が残っていた。 陶芸家はその器を気に入って、売りに出した。 町の人たちも、猫が陶芸をするのか、と面白がり買ってくれた。 陶芸家と猫の作った器は評判になり、とくに茶碗は

          【short-short】猫掻茶碗