【短編小説】猫と出会った男の話2
朝、男が目覚めると猫はすでに起きていた。
猫に水と冷蔵庫にあったサラダチキンをほぐして与える。
猫の食事を横目に見ながら煙草に火をつけた。
早々に食事を終えた猫は、目ヤニだらけの眼で煙草の煙を見て、鼻をヒクヒクさせた。猫の様子を見て、男はなんとなく煙草の火を消した。
男が身支度を済ませて買い物に出るときには、猫はもう寝床で丸くなって寝ていた。
近所のホームセンターでキャットフードと猫のトイレ砂を買う。
会計を済ませて一度は店を出ようとしたが、ペット用品コーナーに戻り、
猫用ベッド、爪とぎ、猫じゃらしを買い足す。
男の懐事情は良いものではなかったが必要な物に思えたのだ。
買い物を終えて帰ると、猫は起きていた。
買ったものを一通りセットすると、猫は男が教えずともそれぞれが
どういう用途のものか理解して使った。
ふわふわの猫用ベッドは気に入ったようだったが、猫じゃらしは、男がいくら振り回しても興味を示さなかった。
翌朝、起きると猫はすでに起きていた。
水とキャットフードをやってから、煙草に火をつける。
猫は食事を中断して、目ヤニだらけの眼をシパシパさせながら煙を見つめた。
ふと、猫の目ヤニが気になり動物病院を探すことにした。
煙草の火は、つけたばかりだが消した。
動物病院は見つけたが、キャリーバッグが無いことに気が付いた。
昨日買えば良かったと後悔したが、とりあえず段ボールに空気穴を開けて、猫を入れた。猫はおとなしく入っていた。
動物病院に着いて箱を開けると、猫は段ボールの隅で小さく丸くなっていた。
抵抗しなかっただけで、怖い思いをさせていたことが分かり、男は後悔した。
申し訳ない気持ちのまま、獣医に目薬をさされる猫を見守った。
獣医は、猫が10歳くらいの高齢猫で去勢済みのオスだと言った。
家に着くと、猫は箱から飛び出し、猫用ベッドで丸くうずくまった。
男は一息つこうを煙草に火をつけた。
丸くなっていた猫がベッドから顔を上げて、煙草と男の顔を、
処置したばかりの涙目で見つめた。
男は煙草の火を消して、まだ何本か入ったままの煙草の箱を捨てた。
(続く)