【短編小説】猫と出会った男の話3
男は煙草をやめることにした。
猫は煙草が嫌いなようだし、猫の治療費は大きな出費だったので
少しでも節約しようと思ったのだ。
男の生活は変わった。
早起きをして、猫の世話や弁当を作るようになった。
それでも猫はいつも男より早く起きていた。
毎朝家を出るとき、男は名残惜しい気持ちで猫をなでるのだが
猫はひと撫でされると早々にベッドに行き、寝るのだった。
男は日を追うごとに猫を献身的に世話するようになったが、
猫は男に対して素っ気なかった。
男は今まで以上に仕事に励んだ。
それは少しでも早く帰って猫と過ごすための行動だったが、
周囲はそうとは知らず、男を高く評価した。
しばらくすると、職場の女性が声をかけてきた。
猫よりきれいな猫目をした小柄な女性だった。
女性は男に好意を持っているようだった。
話す回数も増えて、一緒にお昼ご飯を食べるようになった。
男の作った弁当を、女性はとても褒めてくれた。
話していく中で、女性が動物が大好きなこと、昔から
実家で犬や猫を飼っていたこと、一人暮らしの今は
休日にボランティアで保護猫の世話をしていることなどを知った。
男は猫を飼っていること、そのために節約をしていること、
仕事を頑張っていることを話した。
女性は猫目を輝かせながら話を聞いてくれた。
一緒にお昼を食べるようになってしばらくした頃、
女性からの申し出で付き合うことになった。
付き合って2か月ほどした頃、猫と彼女の顔合わせをした。
猫はその頃にはすっかり眼も治り、お風呂にも入ってきれいになっていたが
ペットショップやCMで見る猫のように可愛げのある猫ではなかった。
それでも彼女は猫に会うと、可愛い可愛いと何度も繰り返した。
それ以来、仕事が終わると彼女は男の家に寄るようになった。
猫は男とは猫じゃらしで遊ぶことはなかったが、彼女とは遊んだ。
釈然としなかったが、猫と彼女が楽しそうに遊んでいる姿を
見ていると幸せだった。
しばらくして、男は彼女にプロポーズした。
彼女は頷いてくれた。
(続く)